ビッグイシュー、社会的企業としての19年を振り返る-中間支援団体向けソーシャルビジネス研究会に登壇

 2022年10月、一般財団法人 中部圏地域創造ファンドが組織する「ソーシャルビジネス研究会」(座長:鵜飼宏成さん)がオンラインで開催されました。

行政と民間団体のつなぎ役として期待される中間支援団体が多数参加しているこの研究会は、今回が3回目。この日、社会的企業の事例発表としてビッグイシューを含め外部から2団体が登壇。この記事では、ビッグイシュー日本スタッフの吉田が行った当日の発表を中心にレポートします。

ホームレス問題は、もっとも難易度の高い社会問題

2003年、ホームレス状態の人への支援に関する施策を定めた法律「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(ホームレス自立支援法)」が成立。野宿者、路上生活者などのホームレス状態にある人の数を調べる「ホームレスの実態に関する全国調査」が日本で初めて実施され、全国に少なくとも約2万5千人のホームレス状態の人がいると判明します。

その際、ホームレスの自立支援等に関する基本方針が策定され、自立支援センターの設立など、各都市で支援への具体的な取り組みが始まりました。

2-第3回ソーシャルビジネス研究会

当日のスライドより。「ホームレス」とは、「屋根はあるが、家がない状態」を主に想定しています。

雑誌『ビッグイシュー日本版』の立ち上げにまつわる時代背景や、ビッグイシュー日本代表・佐野章二の「解決が難しいとされているホームレス問題に、あえて取り組みたい」といった創刊への思いを紹介していきました。

参考書籍:社会を変える仕事をしよう

収益性と公益性

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「人々の活字離れが加速、情報はタダでも手に入る、路上販売の雑誌を買う人や、ホームレスの人から買う人はいない、だからビッグイシューは失敗する…」
上記のような理由で「100人が100人とも反対」する事業に佐野は挑戦。
ホームレス問題の解決方法として「企業が社会問題をビジネスで解決する=ソーシャルビジネス」を日本でも実現させ、英国の「ビッグイシュー」創設者の理念を受け継ぎながら、19年間事業を続けてきました。

『ビッグイシュー日本版』は、雑誌販売の仕事(販売者と呼びます)をホームレス状態の方に提供し、現在1冊あたりの価格450円のうち、販売者は220円で仕入れ、230円の利益を得られるという公益性のある販売のしくみです。

これまでに国内で15億円以上の収入を販売者にもたらし、累計942万冊を販売、205人が販売者を経て路上生活から脱出しています。

サポートのかたちは当事者の自己決定が基本

「ホームレス状態に陥った人は、仕事や、家族や、お金を失う過程で、将来への希望をも失ってしまいます。私たちは、「自己肯定感の低下」と言っていますが、そこをサポートするには、「自分で決める」ことで湧き出る力が重要だと思っています。

そこで販売者には、ビッグイシューの従業員はなく、街角本屋の店長として、自分の店を自分で経営してもらっています。自分で決めるから、自分事として考えることができ、次につながっていきます。自分の人生を前向きに捉えるができるのです。

また、「仕事」が持つ力は面白く、雑誌を販売して対価を得るという行為が、困窮者と支援者という関係性をフラットなものにしていると感じます」と吉田。

ビッグイシュー基金が目指す包摂社会(誰もが生きやすい社会)

雑誌の制作と販売を行う「有限会社ビッグイシュー日本」が母体となり、2007年にNPO法人ビッグイシュー基金が設立されました。ビッグイシュー基金では、生活困窮者の自立支援、ホームレス問題解決のネットワークづくりと政策提案、ボランティア活動と市民参加、という3本柱の事業を展開しています。
3本柱の事業の例には、下記のようなものがあります。

ステップハウス

3-第3回ソーシャルビジネス研究会
…理解のある大家さんから住宅の提供を受け、ビッグイシュー販売者をはじめとするホームレス状態の人に、低廉な利用料(月15,000円から)で「安定した住まい」を提供する事業です。

ギャンブル依存症対策

2022-11-05
…ホームレス状態脱出を阻む足かせでもある、ギャンブル依存症の問題。ビッグイシュー基金はこの問題に取り組む研究会を設けています。

野武士ジャパン(フットサルチーム)

4-第3回ソーシャルビジネス研究会

…ホームレス当事者・経験者によるフットサルチーム。販売者やホームレス当事者の人と一緒に、どなたでもフットサルの練習に参加できます。

講談部

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…上方の講談師・四代目 玉田玉秀斎さんが、ビッグイシュー販売者の半生を講談として語る「ビッグイシュー講談会」を開催。また、ホームレス状態を経験した販売者が、自らの体験を講談にして表現する当事者講談を、玉秀斎さんの指導のもと練習し、月に1度披露しています。

ビッグイシューの将来と課題

『ビッグイシュー日本版』は、国内の独自の記事を中心に、各国のストリートペーパーと提携した記事を掲載し、広告主の意向にとらわれない、毎号切り口の違う誌面作りを心がけています。

また、教育機関との連携にも力を入れており、小・中・高・大学や外部団体などへの出張授業、ワークショップも実施しています。販売者が語る自身のライフストーリーや、ホームレスとは状態を表す言葉であること、貧困の現状、みんなが自分を守るバリアとしての人権など、社会について考えてもらうためのきっかけなればと活動しています。

しかし2010年には160人いた販売者も、現在では全国12都道府県で販売者数は109人となり、それとともに販売冊数も減少傾向が続いています。

さらに2020年度より、コロナ禍で対面での販売が難しくなったため、通信販売で販売者を応援できる「コロナ緊急3カ月通信販売」(2022年10月より「販売者応援3ヶ月通信販売」)を開始。このおかげで販売冊数も幾分持ち直しました。社会情勢や変化に応じた経営をとは思うものの、常にギリギリのラインです。

参加者の皆さんと質疑応答

事例発表が終わり、参加者のみなさんとの質疑応答が行われ、鋭い質問が寄せられました。

Q: 販売者の数が減ったのは、販売戦略が変わったためですか?

吉田:販売者の数が減った理由は、やはりホームレス状態の人の数が2003年ごろに比べると大きく減ってきたためと考えられます。

6-第3回ソーシャルビジネス研究会
当日のスライドより

政府の調査で、2021年の全国のホームレス状態の人は3824人と発表されています。ただ、ビッグイシュー独自の追跡調査も難しく、路上生活者、困窮者の実態がどのようなものか、完全に把握するのは難しい状況です。

販売戦略や方針が変わったということはありませんが、刊行年数を経たことで読者層にも変化があるため、それに合わせた誌面作りの工夫が求められていると思います。

Q: 複数の法人格の役割をどのように住み分け、使い分けをしていますか?

吉田:ビッグイシュー日本は「ビジネスの手法でホームレス問題の解決に挑戦する」企業として立ち上げられましたので、ビジネスの対象となるマーケットを広げたいという追求はずっとあります。ただ、販売者の生活支援(医療や住居など)になると、有限会社ではどうしても限界があります。

そこでイギリスの「ビッグイシュー財団」を参考に、雑誌制作や販売者の仕事面では有限会社が行い、生活面の支援などはNPO法人ビッグイシュー基金がサポートするなど、役割を分担して連携しています。

マーケットは消費中心からソーシャル化へ

今回の発表を受け、最後に座長の鵜飼さんは「特定の目的や問題解決に合わせた、組織づくりや法人格の役割と使い分けが重要だとこれまで感じていました。今日、事例発表していただいた内容も、まさに同じような観点で社会問題への取り組みがされていて、とてもわかりやすかったです。中間支援団体と社会的企業にとって、どのように問題を調査し、どのように人を巻き込んで解決していくか、より具体的な内容を今後のステージで情報交換できればと思っています。」と締めくくりました。

記事作成協力:都築義明

参考リンク

ビッグイシュー基金
 └ステップハウス
 └ギャンブル依存症問題

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」

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