2019年、ドイツのミュンスターで、カトリック教信者の女性たちが草の根運動「マリア 2.0」を立ち上げた。長い歴史を持つカトリック教会が起こしてきた数々の不祥事や問題に、もうこれ以上耐えられないと、ミサをボイコットするなどの強い対抗姿勢に出ている。カトリック教会の変革を求める声が今、ドイツ各地に広がっているという。運動の発起人アンドレア・フォスフリックに、独ミュンスターのストリートペーパー『DrauBen!』が話を聞いた。
Photo by Caleb Miller on Unsplash
教会の体質改善を求めて立ち上がる
アンドレア・フォスフリックはいち信者として、数えきれないほどカトリック教会の礼拝に出席してきた。だが、最後に出席したのは、もうずいぶん前になる。教会に対する怒り、失望、不満に耐えられなくなったのだ。
そもそもの始まりは、2019年の春、ホーリークロス教会で開催された読書サークルだった。皆で使徒的勧告を読み、議論するなかで、教会側が性暴力事件をもみ消そうとする態度や、女性の権利が制限されている現状に話が及び、体質改善を呼びかける運動を起こすことになったのだ。
「教会を去るか、行動を起こすか。そこで誕生したのが マリア2.0です」とフォスフリックは話す。抵抗や糾弾を通してカトリック教会にオーバーホール(完全な見直し)が必要との思いは、今や確固たるものになっている。この草の根運動が要求しているのは、教会内の虐待事例の洗い出し、女性も聖職者の地位に就けるようにすること、そして禁欲主義の撤廃だ。
ー カトリック教会内でいろいろと不適切なことが起きている。なぜマリア2.0は教会を去るのではなく、そこにとどまりながら変革を求めるのですか?
問題は根本的なところにあります。カトリック教会は、内部でいろいろと悪しきことを起こし、キリストの教えに背いてきました。なので、今後どれだけ変化したとしても、キリスト教の教えを安心して任せられないのです。人々を排除、差別し、同性愛者・女性・再婚者などの“人生の現実”を非難してきた組織なのです。まったくもって、隣人愛とは程遠いのです。性暴力スキャンダルに関しても、役職者たちは教会という神聖な組織を守ることにばかり腐心してきました。そんな態度だから、こんなひどい事態が起きているともいえます。
こんな組織にしがみつくのは、私たちが最後の世代だと思っています。とはいえ、私たちが関心があるのは、教会がどこまでやれるかではなく、教会をいかに再定義できるか。「私たちが教会だ!(We are the Church!)」が合言葉です。
ー 「教会を定義し直す」とは、何を意味するのですか?
はっきりしているのは、変革の力は下から起きるということ。今回の場合であれば、教会に対しオープンに抗議することを意味します。“Out in Church”は、そんな行動を後押しする運動です。同性愛者であることをカミングアウトした牧師も何人かいます。すべてがオープンかつ目に見えるかたちでなされることが大切。そうでもしないと、教会は変われません。
カノン法(教会法)でしてはならないとされていること、認められていないことが、教会内部では行われてきた現実があるのです。同性カップルへの祝祷(祝福の祈り)が通常と異なるなんて、カノン法に反しています。
ー 私たちの街ミュンスターのフェリックス・ゲン司教はマリア2.0の運動をどう思っていますか?
これまでに二度話をする機会がありましたが、司教はほとんど聞く側に徹していました。司教は絶大な権力を手にしており、教会というシステムの中では、この権力が大きく作用します。自分を取り巻く人たちからは日々、その権力があれば特別なことができると言われ、そのうち、自分でもそう思えてくるのでしょう。司教が皆、虚栄心から自分を守れるわけではないのです。
階層内から変革を起こすには、司教が権力を手放さなければなりません。ですが、多大な権力を手にした人というのは自ら進んで手放そうとはしません。今、物議を醸しているケルン大司教ヴェルキ枢機卿*1にしてもそうです。ケルンでどこかに行くと、彼に会いたいという人がまだたくさんいます。聖職権主義*2には常に、肯定的な見方と否定的な見方があるのです。
*1 性暴力事件についての専門家の報告をめぐる対応で、激しい反発を招いた。
*2 聖職者による国家・社会の支配を支持する立場のこと。
ー 要望をまとめた公開書簡をフランシスコ教皇に送ったそうですね。何か回答はありましたか?
何の回答もありません。本当に教皇の手元に届いたのかどうか……まだどこかで翻訳中なのかもしれません。
ー すべてのジェンダーに平等の権利を求める、貧しい人たちを擁護する、オンライン署名活動など、マリア2.0は教会の枠を超えた政治的な運動でもあるのですか?
政治的な活動でもあるから、こんなに真剣に取り組んでいるのです。女性問題について言うと、カトリック教会は世界的な当事者です。バチカン(ローマカトリック教会の総本山)が世界中に広めている女性像を通して、女性を虐げている人たちを正当化させています。同性愛者についても同じことが言えます。莫大な権力や資金を手にしていながら、悪しきことをたくさんしでかしています。言葉と行動のずれが、教会を信頼しにくいものにしています。
ー 教会との関わりが深くなればなるほど、大きな隔たりができているようですね。
まさにそうですね。ミサにはもう出ていませんし、ほかにもいろいろと……。組織の中を見ればみるほど、はっきりしてくるのです。でも教会のお陰で今の自分があると思えることもあります。教会との衝突によって、私の信仰はより深まっているのですから。自分の信仰に確信が持てなかったときは教会の支援を必要としていましたが、今はかつてないほど信仰心が強まっているので、逆に教会から自由でいられるのです。
Maria2.0(ドイツ語)
https://maria2.0deutschland.de
By Linn Bertelsmeier
Translated from German via Translators without Borders
Courtesy of Draußen! / International Network of Street Papers
あわせて読みたい
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。