島根県西部に位置する浜田市は、県最大の漁獲量を誇る良港と山のある自然豊かな場所。その南西の山あいにある、人口1,100人ほどの地区に、タバコと「自分の好きなものだけ」を販売する喫茶「サンカクヤ」がある。経営者の清家さんに話を聞いた。

終わりなき「前年比増」の目標に虚しさを感じて
清家さんは高校卒業後に上京し、大手の小売店に就職した。バブル後ではあったが、まだ余裕のあった時代の都会を満喫し、仕事でも学びの多い日を送っていたが、毎年繰り返される「前年比増」の終わりなき目標設定に次第に虚しさを感じるようになり、5年ほどで退職。以降、花屋の店員などを経験した後、結婚を機に隠岐島へ移住。子どももできた。
その後、実家のある浜田市に戻って薬局の事務などをしていたが、ある時母親の地元に昔からあった商店「三角屋」が閉まるという噂を耳にする。もともと自分で店をやりたかったこともあって掛け合ってみたところ、その場を引き継がせてもらえることに。そうして東京の広大な店舗で仕事をこなしていた清家さんは、10坪ほどの商店「サンカクヤ」の店主となった。


商品の仕入れ基準は『自分が好きかどうか』だけ
清家さんは、大型スーパーで働いていた経験から「少ない仕入れで利益を出す」ことの難しさを知っていたため、これまで「三角屋」で扱われていた多くの商品ラインナップを維持するのは厳しいと考え、商品数をぐっと絞っている。
「選ぶ基準は『自分が好きかどうか』だけ。自分の好きなものだけ仕入れてたら、もし売れ残って賞味期限来ても、自分で食べられるしね。廃棄ゼロよ。」と笑う。
MOG-MOG Farmのドライいちご
路草フーヅのクッキー
食品販売だけでは利益が少ないため、喫茶店としてコーヒーやランチの提供もしている。こちらも、地域でできた旬の野菜を使いたい、自分が食べたい、といった動機で作るので、固定メニューはなく“日替わりランチ”なのだそう。
トーストセット
タバコを売っている理由は?と尋ねると、こちらも利益は少ないものの、「小さい頃に、タバコ屋さんって憧れませんでした?小さいスペースでちょこっと座ってるのが、なんかいいなって」とのこと。移住者を中心に手巻きタバコのような珍しいタバコにニーズがあったり休みの日も自販機が頑張ってくれるのでそこそこ売れていくようだ。
お客さんが来ないときは、編み物などの手仕事をして「待つのが仕事」。それでもちらほらと地域の子どもがアイスを買いに来たり、移住者がおやつを買いに来たり、地元の人たちがコーヒーやランチを楽しみに来たりする。
「お客さんは多くはないけれど、自分のキャパ的にはこれがちょうどいいんですよ。儲けが出るかでないかくらいだったら、税金もたくさん払わないでいいしね。」と、あくまで無理しない。
子育ても終わったからこそできる「自分がしたいこと」
取材の間も、猫がマイペースに横切っていく。最初は子猫2匹を譲り受けて飼っていたのが、「地域の人の家から1匹、いつの間にか引っ越してきた」のだそうで、3匹の猫が店の中や前でのんびり過ごす。
「お客さんに、“あれを置いたら”、“これをしたら”といろいろドバイスもいただくこともあるんですが、自分がやりたくないことまで全部やるとしんどくなるじゃないですか。だから、自分がどうしたいかをいちばん大事にやってます。続くかな?って思ってたんですけど、5年続いてますね。ふふふ」と屈託がない。
とはいえこの店は「このタイミングだからこそできること」なのだそうで、いわく「子育て中とかは儲けなきゃやっていけない時期だし、決まったルールのなかで働くのは息苦しいものだけど、お金を借りるなら会社に勤めてた方がよかったり。今は子どもが学校を卒業したからね。若いときは会社で成果を出すのも楽しかったけど、もうそろそろ、自分のために…って思ってるんで」と達観している様子。
ビッグイシューは「何がどうなっているのかをちゃんと書いてくれる雑誌」
そのように好きなものしか置かない、無理しない、という清家さんだが、店内の一角には『ビッグイシュー日本版』がディスプレイされている。
子どもの進学に伴い大阪へ出たときに、梅田で販売者を見かけて買ってみたのがきっかけだそうで、「仕組みもいいなって思ったし、読んでみたら内容もしっかりしてたから。私はいろいろな問題について『大人としてちゃんと知りたい』って思うんですが、ネットの記事は煽るようなものが多いし、ちゃんと考えるのがしんどい人が多いからか、ニュースとかテレビ番組も、簡単に言い切っちゃってるようなものや、公平というよりは“メディアにとって都合のよいニュース”とか、弱いものを叩いて弱いもの同士でいがみ合わせるみたいな論調も多いですよね。だからこそ、ちゃんとした情報を知るっていうことが大事だと思ってるんですが、ビッグイシューはそのあたり、ちゃんと書いてて、信用できるなって。
それで、島根じゃ誰も知らないだろうけれど、“自分が読みたいから”って動機で(委託販売を)始めました。仕入れも3冊からできるし、自分が1冊読んで、余ったら余ったで応援みたいな感じでいいか、って思ってたので、迷いはなかったです」とのこと。
ところが実際に委託販売を始めてみると、移住者を中心に、介護や環境などの特集テーマに惹かれて買う人や、表紙に出た有名人を見て買う人もおり、思ったより売れているのだそうだ。
「自分のペースで、自分の責任で生活したい。人のせいにしないでいたい」
この店をやっていてよかったと思うことは?と聞くと、「自分のペースで、自分の責任で生活できることと、いろんなことを、人のせいにしないでいられること」だという。

加えて「田舎でお店をすることで、来てくれる人は少ないですけど、それでもいろんな考えの人がおるんだなっていうのがわかるようになりました。会社勤めや子育て中の時とは全然違う人たちと出会って話してみるようになって、わかるようになったこともいっぱいあります。
そうやって自分が楽しむ場所が作りたいっていうのが一番だったので、経営的なことで考えたときにはアレですけど、自分の気持ち的には今のところ満足しています。
あんまり広くやらなくても、狭い中でもうまいこと付き合って、それがちょっとずつ広がっていく感じの方がいいような気がしています。あと5年、続くといいなと思ってますけど、駄目だったときは店辞めてまたパートしようかな」と、笑って話してくれた。
写真提供:サンカクヤ
タバコ&喫茶 サンカクヤ
住所 島根県浜田市弥栄町高内ロ2-8
電話 08023828015
定休日:火曜・水曜日&不定休
https://www.instagram.com/sankakuya7/
ビッグイシューの委託販売制度
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、カフェやフェアトレードショップ等、ビッグイシューの活動に共感いただいた場所で委託販売を行っています。
委託販売店の例




委託販売先一覧
https://www.bigissue.jp/buy/shop/
委託販売に興味のある方はこちら
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/