統合失調症は幻覚や妄想を繰り返す疾患で、世界で2千万人以上が罹患しているとされる。思春期から成人期初期にかけて発症する場合が多く、生活のあらゆる面に影響をおよぼす複雑かつ深刻な精神疾患だ。現在の学説では、その発症には成人形成期(18歳から20歳代半ば頃)に見られる脳の発達の変化が関係しているとされている。統合失調症の発症と脳の老化についての新しい発見について、ルンド大学精神医学准教授アレクサンダー・F・サンティッロらが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。

筆者たちは今回、統合失調症患者の脳神経細胞から採取した血液中のタンパク質(ニューロフィラメント軽鎖(NfL))を測定する研究を行った。その結果、統合失調症が進行する要因として「脳の急速な老化」が一つの要因となっている可能性が見えてきた。長い糸構造をしたこのタンパク質は、神経細胞*1の大きさや形の維持に関わっており、脳神経細胞の損傷や変性が起きると血液や脳脊髄液に放出される。この数値が疾患の診断基準となり、神経細胞の損傷レベルを知る手がかりになる。
*1 脳、脊髄、末梢神経系での情報伝達に不可欠な役割を担い、正常に機能する力が損なわれることで様々な神経症状が現れる。
この数値は、だれでも加齢とともに上昇する。それは時間とともに、神経細胞の摩耗などさまざまな要因が組み合わさることで、これらのタンパク質がうまく自己修復できなくなるためだ。通常の老化では、脳の灰白質(情報処理や記憶、意思決定、筋肉の制御、視覚・聴覚を担う領域で、脳の神経細胞の大部分が含まれる)、白質(異なる脳領域をつなぐ長い神経線維で、これにより部位間の迅速で効率的なコミュニケーションが可能になる)、それらの連結性も減少するが、通常、その変化はゆるやかで、物忘れが少し増えたり、反応速度が遅くなったり、複数の仕事をこなすのが難しくなったりする程度で、機能障害をもたらすほどではない。

一方、統合失調症患者では、その低下がより急激で、実年齢よりも脳の老化が進みやすい。MRIスキャンによる「脳年齢」の計算など、他の方法からのデータでも、統合失調症の人は脳の老化が加速していることが示されている。NfLの上昇は、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、前頭側頭型認知症など、その他の神経疾患との関連も見られたが、双極性障害患者では同じような結果は得られなかった。
統合失調症患者は高齢者がかかりやすい病気を発症しやすく短命の傾向
統合失調症患者の平均余命は一般の人よりも20〜30年短いのが現状で、これは、一般的に高齢になってからかかる癌や心血管疾患を、統合失調症患者は早い段階で発症することが大きな原因だ。メルボルンの精神科医で、今回の研究の首席著者でもあるクリストス・パンテリスは、「慢性統合失調症(急性期に比べると病状は穏やかになるものの、完全に治ったわけではなく、治療が続いている状態)の人は、運動不足、喫煙、失業、孤立と生活習慣が不健康になりがちです」と述べる。
統合失調症患者の多くは複合的な要因で医療にかかりづらい
統合失調症患者の約半数が、肥満・呼吸器疾患・慢性痛・物質使用障害(アルコールや薬物の過剰摂取)などの慢性疾患を一つ以上抱えているとされている。統合失調症患者の人が物質使用障害に陥るリスクが高いのは、生物学的・心理的・環境的要因が組み合わさるためで、つらい症状を自主服薬で対処しようとすること(セルフメディケーション)、認知機能障害、社会的孤立、治療順守が困難などの理由が含まれる。
またパンテリス医師は、違法薬物に手を出す人が増えていることも、統合失調症をめぐる状況悪化につながっているとも指摘する*2。
*2 大麻の使用と統合失調症発症の関連性を指摘した研究も。
Cannabis: increased schizophrenia risk in young people linked to both low and high use
生活習慣が統合失調症患者の身体の老化を加速させる要因となっている一方で、今回の研究が、この深刻な疾患についての理解、今後の治療を促す一歩になることを願う。
著者
Alexander F Santillo
Associate Professor of Psychiatry, Consultant Psychiatrist, Lund University
Cassandra Wannan
Research Fellow in Psychosis Risk Research , The University of Melbourne
Dhamidhu Eratne
Neuropsychiatrist and PhD student, The University of Melbourne

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2025年4月11日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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