有限会社ビッグイシュー日本では、企業や学校から依頼を受け、ホームレス問題や格差社会、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、兵庫県にある灘中学校。道徳の時間で「貧困と社会保障」について学んできた1学期の締めくくりとして、公民科教諭の片田先生にお招きいただき、ビッグイシュー日本大阪事務所長の吉田耕一と明石駅担当の販売者Mさんが伺いました。
ビッグイシュー日本の吉田からはホームレス状態に陥る理由は多種多様であることや、日本国内の路上生活者の推移や問題点、ビッグイシューの事業にについて解説、販売者のMさんからは、大卒でメーカーに就職をしていたものの、ギャンブルにハマってホームレス状態になり、ビッグイシューの仕事で再びアパートに入った体験談をお伝えしました。
※講義や体験談の内容はこちら
https://bigissue-online.jp/archives/12575

灘中生から寄せられた30の質問
今回は、約90人ずつ✕2回にわけた講義のなかと事後アンケートで生徒さんたちからいただいた30の質問をオンライン編集部の補足つきで紹介します。
※片田先生の授業では、思索を深めるため「なんでも思ったことを言ってOK、遠慮せず質問してOK」という方針です。そのため素朴に思ったことをどんどんぶつけてくれる生徒さんがたくさんおり、時間が足りないほどでした(販売者のMさんも、何度も灘中で質疑応答の経験があり、何でも聞いてOKとの方針に同意して登壇してくれています)。
<Mさんの体験やギャンブル依存症について>
(Mさん)達成できる人もいれば、できない人もいました。僕の場合は、成果が同行した上司のものになったりすることもあり、かなり厳しかったです。
(Mさん)多い時は、10万円以上負けていましたね…。(生徒さん一同、どよめき)
あと千円やれば…とついついやるうちに、いつの間にか大負けしている。勝った時のことが忘れられなかったのでしょうね。生涯で負けた金額は数千万円にのぼるかもしれません。
(ビッグイシュー・オンライン編集部補足)ギャンブル依存症は、本人の意志の弱さが原因ではありません。脳の報酬系が強く変化する、完治しない脳の疾患です。
(Mさん)当時の人間関係は全く続いていないから詳細はわかりませんが、その友人は普通に仕事を続けているようです。(生徒さん一同、驚きの声)今はその人と友人関係はありません。
(Mさん)いまは5~6年ギャンブルをしないでいられています。(生徒さんから一斉に拍手)
そもそもギャンブルに使えるお金の余裕もないですし、YouTubeなどで動画を見ることで、ギャンブルをしたいと思わないでいられています。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)
認知行動療法など、心理療法(精神療法)を実施している医療機関もありますが、どの精神科・心療内科でも対応しているわけではなく、ギャンブル依存症の治療に専門性のある医療機関を探す必要があります。そしてそのような対応ができる医療機関は多くはありません。
また、治療ではありませんが、同じ問題を持つ人同士で支え合うギャンブラーズ・アノニマス(GA)と呼ばれる自助グループ・ピアサポートが各地にあります。
保健所や精神保健福祉センターに相談窓口があり、医療や支援機関への紹介が受けられることもあります。
(ビッグイシュー日本・吉田)アルバイトをするにも、ホームレスの人は保証人や住所、連絡先など、必要なものがないため、採用してもらいにくいのです。また、手持ちの現金が全くない人の場合は、月給制だと、次の給料日までをしのぐことができなくて、採用されてもあきらめるしかないという場合もあります。
(Mさん)そもそもホームレスになった当時はそういう制度があるということを知りませんでしたし、知った後も、まだ自分に必要だとは思ってないです。20年後とか、働けなくなったら利用するかもしれません。
(Mさん)お米ですね(笑)高くなったので。
(Mさん)何に使うかなあ…。
ギャンブルはしないですよ。(生徒さん一同、笑)
ビッグイシューに寄付するかなあ(笑)
(ビッグイシュー・オンライン編集部)「ギャンブルをやっても依存症になるまでやらない人もいる中で、そこまでハマってしまう人が悪い」、「ホームレス状態になるまでやめられないなんて、意志が弱い」という意見も時々聞きますが、ギャンブル依存は、自分の意思を発動させることができない脳の疾患です。
「ギャンブル機器」は、際限なくハマるように設計されたものですが、その機械をつくるメーカーには全く責任はないと言えるでしょうか。
また、世界中の「ギャンブル機器」64%が日本にあると言われています。また、日本は、世界で最も多く536万人ものギャンブル依存症者を抱えています。(有病率4.8%/2014年発表)。
日本では「賭博」は犯罪とみなされるはずなのに、パチンコやスロットは賭博とみなされていません。それでも本当に、「ギャンブルにハマってしまうのは、個人のせい」でしょうか。人によっては家まで失うような危ない疾患なのであれば、その病にかからないような教育・規制が必要という見方もできます。
参考記事:庶民の娯楽のパチンコから、依存症を生むために技術を駆使するパチンコ産業へ。
https://bigissue-online.jp/archives/12534
(Mさん)人通りが少なくなる0時頃から、夜が明ける5~6時くらいの5,6時間ですね。ただ、公衆トイレの近くで寝ていたので、トイレを利用する人がいたら起きてしまいますし、熟睡することは難しかったです。

(Mさん)どうでしょうね?(苦笑)自分ではわかりません。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)肌のシミ・しわ等ができる要因のひとつは紫外線です。ホームレスの人たちは、屋根を遮るものがないため、紫外線にさらされる時間が家のある人と比べると長い傾向にあるため、年齢より上に見える人は少なくありません。
生徒さんがそう感じた一つの原因かもしれません。
<ホームレス生活について>
(Mさん)僕の時はNPO団体などによる炊き出しのお世話になっていました。炊き出しがない日はお店から賞味期限切れなどの食料をいただくこともありました。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)
ビッグイシュー基金では、炊き出し・食料支援情報などをまとめています。
(Mさん)僕の場合は、図書館などで本を読んだり、休んだりすることが多かったです。仕事をしている人は、日中にアルミ缶や段ボールを回収したり、日雇いの労働をしたりしています。
(Mさん)日中であれば図書館で過ごしていました。休みの日や夜間は、屋根のある場所を見つけてそこで過ごしていました。ホームレスの人たちはそうやって「雨の日に過ごす場所」を決めている人も多いです。
(Mさん)寝袋や防寒着を配布してくれるNPOもあったので、僕の場合はなんとかなっていました。
(Mさん)公園や公衆トイレの水道で洗ったりしていました。ヘアカットは、希望する人にボランティアでカットしてくれる美容師さんもいらっしゃいます。
参考記事:「ホームレス状態で困ること」例5つ&その解決をサポートするボランティアの人々
https://bigissue-online.jp/archives/11286
(Mさん)SOSさえ出せれば、病院にかかることはできます。
(ビッグイシュー日本・吉田補足)無料低額診療事業(医療費の支払いが困難な方に対して医療費を減免する制度)というものがあり、その仕組みが使える病院で医療にかかることができます。
ちなみに生活保護を受給している人は、診察、薬、治療、手術、入院、看護、通院・移送など保険給付に該当する範囲のほとんどが自己負担なしで受けられます。
(Mさん)屋根があることですね。安心して寝られます。
(Mさん)僕の場合は大丈夫ですね。
(ビッグイシュー・オンライン編集部補足)人によっては、ホームレス状態になるプロセスの中で、深刻な人間不信に陥ってしまうこともあります。境遇や本人の性格などによるため、一概には言えません。
(Mさん)僕は安全そうなところで過ごしていたので、そういう目には遭っていません。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)公的な統計はなく、少し古いですが2014年にNPO法人自立生活サポートセンター・もやいが実施した調査では、都内の野宿者347名にアンケートや聞き取りを行った結果、約40%が「襲撃を受けた経験がある」と答えています。襲撃は夏季に多く、襲撃者(加害者)の38%は子ども・若者という結果でした。
(Mさん)先輩ホームレスの人たちの中にはいろいろなことを教えてくれる方もいますし、今はビッグイシューの販売者の人たちと仲良くすることが多いですね。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)ビッグイシュー基金では、自立への心の準備を促し人間関係をつくるサポートとして、フットサル、野球、ダンス(ソケリッサ!)、路上文学賞などの活動を開催するほか、歩こう会、英会話などの自主的なクラブ活動を応援しています。
参考:ビッグイシュー基金の活動紹介
(Mさん)ほとんどされません。警察官の人もあまりホームレスの人たちに近寄りたくないのかもしれませんね(苦笑)
(Mさん)早く路上脱出できたらいいね、って思います。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)国や自治体はホームレスの人たちが、どこに何人いるのかを把握しているわけではありません。また、ホームレスの人たちは住所がないため、国や自治体からホームレスの人たちに書類などを届ける方法はありません。
そのため、ホームレス状態になった人たちが、生活保護を知って受給申請するには、自ら支援団体などにSOSを出すか、支援団体などが路上にいる人たちに困り事がないか訪ねて回る(アウトリーチと呼ばれます)ことになります。また、生活保護の存在を知っていても、様々な理由で生活保護を受給しないと考える人も少なくありません。
<ビッグイシューについて>
(Mさん)僕の場合は、1日に13~15冊くらい売れます。僕のお客さんは50代~60代くらいの主婦っぽい女性が多いです。
(Mさん)食べていけてはいます。ビッグイシューの仕事でお金を貯められたのでいまはアパートに入っていて、家賃、食費、光熱費は支払えていますが、貯金できるほどの余裕はありません。
(ビッグイシュー・オンライン編集部)創業時と比べると販売者の数がずいぶん減っていますので、路上の販売だけでは会社の経営は厳しくなってきています。
そこで、定期購読や図書館での購読契約をいたあいたり、カフェなどでの委託販売なども行っています。2025年7月には、大阪・千林商店街に、篤志家の方から物件をお借りできたので、そこで「シェア本屋」をするなど、さまざまな事業で販売してくれる人たちを支えられたらと思っています。
<その他>
(Mさん)世間では厳しい目を向けられることもありますが、僕が接してきた人たちは親切で理解がある人が多かったように思います。
ただ、国や行政機関は、僕らの存在を見て見ぬふりと言うか、認識すらしていないのではないかなと感じることがあります。ホームレスの人が「どうしたらいいか」と役所に行って相談したとしても、どうしようもない。それぞれの状態に合わせたケアや、適切な支援に繋ぐ窓口があるといいなと思います。
(Mさん)困ったときは、周囲にSOSを出すということが大事だと思います。誰かに相談できるとか、そういう関係を作ってほしいなと思います。あとは、僕が言うのは何だと思いますが、ギャンブルはしないほうがいいです。(生徒さん一同笑)
生徒さんからの感想(授業後のアンケートより)
授業後にいただいた生徒さんたちからのアンケートでは、それぞれのアンテナで受け止めた様子がうかがえました。
「イメージが変わった」
中学や高校は普通に暮らし、仕事をしていたなどということを聞いて、ホームレスのイメージが変わりました。(前は、はじめからホームレスというイメージだった)
大学を出たりちゃんと企業に就職したりできている人でもギャンブルなど様々な理由でホームレスになってしまうことに驚いた。
大学を卒業したら安定のようなイメージがあったので、途中まで順調に聞こえる人生だっただけに、一度社会にもまれるだけでホームレスになることまであるのかと少しショックだった。
普通の生活をしていても、たった1回のクビでホームレスになってしまうのは怖い。
中学・高校・大学まできちんと行けていた人でもギャンブルだけで人生が変わってっしまうことを改めて考えなければならない。
思ってイメージとは違い、とてもやさしそうな人だった。
環境・政治についての感想
ギャンブルも怖いけど、営業が嫌で入った会社で営業をさせてくる人たちも怖いと思いました。
日本政府は悪質なギャンブルを取り締まるべきだ。
格差改善のため政府は金を出さなければならない。
ポジティブな感想
過去イチ面白かった。
こんな話を聞けるのは人生に1回しかないと思って面白かった
片田先生からは、「私が担当している限りは、この授業はずっと続けるつもりです。ホームレスの人も、私たちといっしょに社会に生きてる、ふつうの人なんだって伝わったらなと思っています」というメッセージをいただきました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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