オーストラリア・ニューサウスウェールズ州北部、キングスクリフ図書館の棚に並んでいるのは本だけではない。この図書館には新しい世界へと導いてくれる、喜びに満ちた小袋も置いてある――ここは、種の図書館だ。
04年ニューヨーク州で始まる
4000袋貸し出した図書館も
「私もいろいろ育てています。赤パパイヤの木、カボチャ、唐辛子、トマト、チャイブ、エシャロット、バジル、パクチー、ディル」
いつも種の図書館を利用しているミーガン・バーンズはそう話す。「庭に『食べられる森(フード・フォレスト)』を作ったんです。もう本当に素敵で心が満たされます」
2004年、米国ニューヨーク州にあるガーディナー公立図書館が種子の貸出を始めて以来、世界の500を超える公立図書館や公共施設で、種の図書館が花開いてきた。ここキングスクリフ図書館もその一つだ。
図書館では、種を広い意味で“貸出”している。返却義務はほぼないが、植物が成長してできた種は保存して、次の利用者のためにその一部を図書館に返却するよう勧められている。
オーストラリア初の種の図書館は、13年、タムワース市のナンドル公立図書館で生まれた。
「始めた時はうまくいくのか見当もつきませんでした」と、タムワース市役所の文化・地域サービス課長であるケイ・デラハントは言う。「いま、種の図書館はすっかり定着しました」。タムワース市街地にあるセントラルノーザン地方図書館では、これまでズッキーニや大根、コールラビなど、あらゆる植物の種を4000袋も貸出してきたという。
新型コロナウイルスが流行してからは、物価高により青果物の価格も「天井知らず」だとバーンズは指摘する。それが種の図書館を利用することで、食費が抑えられ、ガーデニングという新しい趣味を継続できている。「種の図書館は私の菜園づくりに欠かせません」
食の多様性と供給を次世代に
他分野に広がる革新的取り組み
干ばつや山火事から絶滅危惧種を保護するのにも、種の図書館が役立つかもしれない。モーニントン半島市立図書館が管轄する図書館4ヵ所が、2022年3月から種の貸出を発表した。この地方の風土でよく育ち、自然受粉によって伝わってきた希少な伝統品種の保存も視野に入れている。
「このアイディアはコロナ禍で始まりました。みなさんが昔ながらのスキルや家庭菜園に注目して、自宅で何かをする時間も増えたように感じたためです」と、モーニントン半島市立図書館でプログラム・コーディネーターを務めるゲイル・ヒギンズは語る。図書館スタッフは食の多様性と供給を次世代につなげるため、農家にも種の寄付を呼びかけている。
このように、本を超えた新しい取り組みは公立図書館改革の一環でもある。ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の教育学准教授、ウィルヘルム・ピークハウス博士が語ったように「(図書館は)従来の情報管理の役割を超えた、革新的なサービスと資源を提供する方向へと転換しています」。
革新的な取り組みは種の図書館にとどまらない。メルボルンのコリングウッドでは、公営住宅の住人によって地区の人が利用できる「衣料品(古着)の図書館」が開設された。パースのマードック大学図書館では、セラピー犬を30分間、学生に貸出している。すべては人々を結びつけ、資源を共有し、未来へ投資することにつながるものだ。
「種の図書館を介して、若者から高齢者まで、社会のみんながつながっています」とバーンズは言う。「私たちの好奇心、自然保護意識、教育、回復力を、地元の図書館が刺激して育んでくれるのです」
(Amy Fallon, The Big Issue Australia/編集部)
Illustrated by Maki Yagawa
※この記事はTHE BIG ISSUE JAPAN438号(2022-09-01 発売)からの転載です。
▼ガーディナー公立図書館では、血圧計・コーヒーメーカー・おもちゃ・双眼鏡、ポータブルDVDプレーヤー、毛玉取り器などの「貸出」も行っている。
▼SouthLondonSeedLibraryではタネの交換会も行っている
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