「ホームレスの人にも図書館は開いた場所であるべき」or「他の利用者はどう思うか?」/「ホームレス支援とアート」イベントより(3)

「ホームレス支援とアート」イベント、続いて、参加者も交えた質疑応答がなされました。

イベントレポート2「アートを通して、ホームレスの人々はつながりを取り戻せる。「創造は、希望」/「ホームレス支援とアート」イベントより(2)」を読む

Q:図書館は「みんなのもの」だけど、ホームレスの人が利用すると一般の人は戸惑わないか?

参加者A:
マットさんのプレゼンの中で、図書館の周りで野宿をしている人たちを迎え入れるというお話がありましたが、路上生活の人のためだけの施設ではないところに迎え入れたとき、職員の方は理解していても、一般の利用者は、そういう状況をどう受け止めるのでしょうか。あと、路上生活の方たちは、何を目的として施設に入るのか、もしご存知でしたら教えていただきたいです。

質疑応答タイム。左はマット・ピーコックさん、右はアオキ裕キさん。

マット・ピーコック:
図書館のような施設、組織というのは、門戸を開放したいと考えています。そして、人々は様々な反応をします。しかし、図書館に入る権利は、ホームレスの人も、ホームレスではない人と同等にあります。一般の人々のなかには、ホームレスの方が入ってくるのが気が重くなる人もいるかもしれませんが、図書館はその人のためだけに存在するわけではありませんので、気が重くなる人のほうが図書館から出て行くべきかもしれません。(*)

図書館というものは、一般の人々に対して「うちの図書館は、全ての人々に対して開かれています」という教育をするべきであると私は考えます。図書館は、例えば、障がいのある人、認知症の人、あるいは様々な違うニーズのある人、全ての人々に対して開かれているべきです。そして、なぜホームレスを経験した人々が図書館に入って行きたいのか、その目的は何かというご質問に関しては、ソケリッサの方々に聞いていただくのはいかがでしょうか。

ソケリッサメンバー:西
自分は現在路上生活をしていますが、図書館を利用する理由としては、それぞれ考えられることがあると思います。純粋に本を読みたい人もいるとは思いますが、路上生活をしていると、「ずっといていい場所」がほしいという思いがあります。特に都会のベンチに長時間座っていると、通報とか、いろいろあって、落ち着ける場所がありませんので、図書館が場所を提供してくれるのであれば、長時間過ごすことができます。本と出会うとか、そこまで考えるほどの余裕がない路上生活者のほうが多いので、とりあえず、いられる場所、いてもいい場所を求めていると思います。

アオキ:
お金のかからない娯楽の場所として、図書館は凄く有効だということをメンバーの一人から聞きました。娯楽は、どうしてもお金がかかってしまうものですが、図書館が開いているとすごく喜びます。彼は、趣味で、映画の翻訳を図書館でやられているそうです。

*編集部より補足:
「公共の場所を利用するホームレスの方の匂いが気になる」という人もいらっしゃると思います。
その場合、その人を排除するよりも、匂いがしないようにするサポートにつなぐのが、誰も傷つけない解決方法ではないでしょうか。

マット・ピーコック:
図書館だけでなく美術館やアートギャラリー、コンサート会場、あるいは公共の公園も、社会において重要な役割を担う場所であると考えます。そして、私がよく話をする方は、図書館や劇場で歓迎されると、社会全体に歓迎されたような気持ちになるとおっしゃいました。

我々の誰もが、ある建物に入っていくときに、その建物の中で何が起きるのか分からない場合は不安だと思います。日本で銭湯に入りたいと思ったことがありますが、私は銭湯で何が起きるのか予想ができませんでした。もちろん歓迎されるであろうということは分かっていましたが、入ったときにどうするべきなのか、その文化が分かっていませんでした。何を着ていくべきなのか、入ったときに飲み物を買うべきなのか、何をするべきなのか分からないことがあります。

しかし、ほとんどの文化施設は、開かれているはずです。そして、実験的なことを行っている文化施設もあります。例えば、フロントのスタッフが、人を歓迎するように、あるいは制服を着ないようにしているところもあります。すなわち、スタッフのトレーニングですが、スタッフ自身にも自信をつけさせる、そして門から入ってきてくださる、入ってくる人にも自信をつけてもらうというトレーニングです。

意見交換会の会場の様子

ブリティッシュ・カウンシル:湯浅
ありがとうございました。「全ての文化施設は、あらゆる人を受け入れたいと思っているはずだ」というマットのコメントは、理想形だと思うんですね。英国の美術館や劇場の方とお話すると、ポリシーとして文化施設は全ての人のためにあるというのをもちろん掲げているけれども、でもチケットを買ってきてくれる人でコンサートホールが満員になることもすごく大事ですし、そうじゃない、来られない人たちにどうするのかというところで、いろいろな戦略を立てています。例えば、テート美術館では、ホームレスをはじめ多様な人にアクセスを提供したいけれども、どう接していいか分からないということで、ストリートワイズ・オペラがスタッフを対象にしたトレーニングプログラムを近々実施するそうです。また、マンチェスター市では、ホームレスが支援される人ではなくて、一緒に活動していく人という位置づけであるべきということで、よりその人たちが主体的に、例えばプログラムを考えたりできるようになる道筋を、今、いろいろな形で模索しているという話をマットから昨日聞きました。

Q:当事者の自己評価表はどのようにして作ったのか?

参加者B:
私も、本当に誰もが来られる場所を作りたいと思って活動をしていますが、日本はそういったことが凄く難しい国だと思いますし、そういったことをしたいと思っている人も少ないというのが私の実感です。

質問ですけど、マットさんは、ジグソーパズルのこととか、ホームレスの方たちが自分の状況を客観視するようなシートがあるようなお話をされていましたが、そのようなシートは、どのように作られていったのか。外部のホームレス支援をしている方たちと一緒に作られたものなのか、それともマットさんのほうで作られたのかをお伺いしたいと思いました。

マット・ピーコック:
まず、最初のコメントで、劇場を全ての人に対して開かれた場所にしたいと考えていらっしゃると。まさに魔法がそこから始まると思います。一つのプロジェクトから始まって、そして様々な違うプロジェクトへと広がっていく。そういう現象になると思います。

そして、私にとっての未来は、セクターの中でパートナーシップが生まれて、そして友人となっていく。そこで多くの組織が共に協力をして世界をより良いことにしていくことができると思います。そして、みなさまのセンターもアートを信じてくださっていると思います。

評価に関してのご質問ですが、誰かがアートに触れて、そしてニコッとなさって幸せそうに見えたときに、測定できるだろうと思います。

まず、「ホームレスの人々のニーズは何か」を考えます。その中には、身体的あるいは精神的な健康状態に関するニーズもあります。そこで、アートが精神的あるいは身体的に調子が良くない人に対して、どういう影響があるのか。そこで、コンサルタントと相談しまして、このような評価手法を作り出しました。

これは、今となっては誰でも利用できる手法となっています。私にとって評価というのは、自分がやっていることの進み具合はどうなのか、調子はどうなのか、自分を知るためのものだと考えています。例えば、目的については、「幸せになりたい」「友人をたくさん作りたい」ということであって、実は幸せではない、友人ができていないということであれば、我々が協力できることがあるかもしれません。

イギリスでの取り組みを紹介するブリティッシュ・カウンシルの湯浅さん

ブリティッシュ・カウンシル:湯浅
英国のホームレスセンターの場合、いろいろな活動があります。木曜日のこの時間はストリートワイズの活動ですよというときに、最初の3週間、4週間は、1人も来なかったりするというお話しを聞いたことあります。

誰も来ないけれども、そこに居続ける。もしかしたら、遠くから見ている人が3週目に一歩入ってきたり、二歩入ってきたりするかもしれないからです。その中でとても大事にされていたのが名前で呼ぶことです。お一人でいる方たちは、通常名前で呼ばれることがないわけですよね。

ストリートワイズ・オペラの事業検証も、イベントそのものを検証するのではなくて、どういう変化を最終的な目的とするのかという成果を明確にしながら、そのプロセスをずっと見ていくそうです。それをどうやったらはかれるのかは、たぶんソフトなところだと思います。

生き生きと自信を持って暮らせるということは、数値で表せないとよく言われます。例えば、日常生活の中で行動が変わった数をカウントしたり、観察しながらデータをとる。おそらく、そういったものがないと、「音楽が、人を生き生きとさせるんですよ」ということが客観的に伝わらないと思うんですね。評価は、自分がやってきていることが、本当に効果があるのか、人が幸せになっているのかということを知るために必要だということですよね。

Q:ホームレスの人へのアプローチはどのようなもの?

川崎市:原
私、福祉事務所長や美術館の館長を経験しているんですけど、両側面から見ていると日本の社会では、ホームレスっていう単語を聞いたときに、行政職員は、「福祉制度において社会的自立をどうさせるか」しか考えていないように感じます。

そうした状況では芸術とかスポーツが非常に重要なファクターであると、私は個人的に思っています。たぶん、ソケリッサの方々を見て「ホームレスだ」って思う方はいないと思うんです。川崎ではホームレスというと、何ヶ月もお風呂に入っていないような、衣服もきちんとしていない、そういう方をイメージすると思うんです。

また、いわゆる「ネットカフェ難民」も、社会的にはある意味ホームレスに近いような状況だと思いますが、日本でホームレスというと、非常に狭義に捉える人が多い。そこは一つ大きな工夫が必要なのかなという気がします。

そのあたりの定義をどうしていくのかということと、アオキさんが実際にやられていて、ブルーテントがあったところで追いやられてしまった方々に、どのようなアプローチをしたのかも含めて聞いてみたい。

アオキ:
本当にボロボロの服を着て稽古に来るメンバーだったりとか、足が強烈に臭かったりとか、そういう方もいます。だけど、人前に立つことを繰り返していると、自分の一番お気に入りの服を着てきたり、だんだんと変化が見られてきます。それは、「変えたいな」とか「これはちょっとまずいな」とか、そういう本人の中からわきあがるものを待つ、信じる。

ソケリッサの踊りを見て、すぐにやりたいっていう方もいますが、通り過ぎてしまったり、興味がなかったりする人もいる。そういった人たちに向けては、炊き出しとコラボレーションして、そこでご飯を一緒に食べて、みんなで見るという方法もあります。他の方のアイデアだったり、協力だったりとかで、自分は何か打破できるんじゃないかっていう考えをもってもらっています。

マット・ピーコック:
私が今、非常に関心を持っているのは、みなさんの寛容の度合いです。どこまで受け入れられるかです。

中には、人を受け入れたくないという施設もあります。それは変えられないかもしれません。しかし、それはホームレスの人を教育するという問題ではなくて、むしろ一般の人を教育するという問題だと思います。

たとえば認知症あるいは障がいのある方々について、「時々、大声で叫ぶかもしれないけれども、それは構わない」と観客の方々が感じるならば、勇気のある施設は、「誰でも歓迎します」と言えると思います。そして、一般の方々もそれを理解するべきだと思います。もし、その施設を利用する方々が、それを理解してくださらないということであれば、他の施設でそれができるかもしれません。

ブリティッシュ・カウンシル:湯浅
マンチェスター市は、ホームレス政策の中でアートの役割に目を向けているだけでなく、エイジフレンドリーシティという、高齢者にも優しい街づくりをしています。

ストリートワイズの活動は、ホームレスの方の自立を目指すということではなくて、心身の健康、ハピネス、そういったものを増やしていくや社会の一員になっていく、あと自信が持てるとか自尊心が高まるとか、一歩前に立てる、そういったところにアプローチすることです。そのために自立支援を促進しようとしている行政やアーティストと連携をしていく。おそらく、それぞれの役割があるんだと思います。With One Voiceというプロジェクトでマットがやっていることも、一つの国のモデルがそのまま日本に当てはまるわけでもないと思います。いかにその日本の中で、社会を実現させるための仕組みやネットワークやパートナーシップが生みだせるかマットたちも一緒に考えていきたいと思っています。そこでは、やはりアーティストの役割も大事だと思います。

マット・ピーコック:
何がワクワクするかと言いますと、この部屋に答えがあるんです。この部屋には、全ての必要な構成要素があります。行政関係や政策立案者の方々もいらっしゃいますし、ホームレスセンターの方々、美術関係の施設の方々、あるいは実際に路上生活を経験なさった方々、あるいはアートプロジェクトの方々、アーティストの方々、アカデミックの方々が、このお部屋にいらっしゃいます。それが、答えです。

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