カナダ・バンクーバーを拠点とするドラァグファミリー(ドラァグにかかわる人々などで構成される家族のような共同体)「ハウス・オブ・ライス」。パフォーマンスを通じて人種やジェンダーのあり方を問いかける、メンバーたちの声を聞いた。
メイン写真:ハウス・オブ・ライスのメンバー。左からカラ・ジュク、メイデン・チャイナ、シェイ・ディオール、スキム、ボンガニーサ、ルル・ロメイン
Photo: Reiko Inouye
アジア系クィア12人が所属
養子、分家、広がる家系図
バンクーバーで活動するドラァグキング(※男装をして歌や踊りなどの表現を行うパフォーマー。派手なメイクや衣装をまとうことが多い)・スキムは、舞台に立つと怪物さながらの男らしさを漂わせる 。「こうしたパフォーマンスでは怪物的な『異質さ』を受け入れ、掘り下げようとしています。すると力が湧いてくるし、とても楽しいんですよ」

スキムはバンクーバーを拠点とするドラァグファミリー「ハウス・オブ・ライス」の一員だ。創設者のシェイ・ディオールを含めた、アジア系クィア(性自認や性的指向が定まっていない、または意図的に定めていないセクシュアリティを表す言葉。)12人が所属している。 “ママ・シェイ”と呼ばれるシェイはここで10年以上にわたり、ドラァグパフォーマーをハウスの“養子”に迎え入れてきた。
ハウスの古参メンバーでドラァグクイーンのカラ・ジュクは、「自分とよく似た若い子たちには、先輩としてつい世話を焼きたくなりますね」と話す。ハウス・オブ・ライスは誕生当初、バンクーバーで唯一の、アジア系のみで構成されるドラァグファミリーだったという。“養子”を迎えたり、ハウスのメンバーが新たに“分家”を立ち上げたりと、その家系図は次第に広がっていった。
「だから、シェイはグランマなんです」。そうジョークを飛ばすカラ自身も、“養子”を二人迎えたばかりだ。長いピンクのネイルをきらめくラインストーンで飾り、優雅な仕草で話すカラの隣には、ドラァグクイーンでシェイのパートナーでもあるルル・ロメインが座っている。
「ドラァグを始める前からハウスの一員だったのは自分だけかも。パフォーマンスを始めたのはほんの1年前なんです」とルル。それまでは料理や車の送迎などで家族を支える、裏方的な立場にいた。今日のルルはカラよりも地味な印象で、チャコールグレーの服に身を包んでいる。だがルルのインスタグラムにはカラフルな衣装をまとった写真の数々が並び、その豊かな色彩に目を奪われそうだ。「選ぶのはいつもピンクの服ばかり。子どもの頃は絶対に着なかったけど」とルルは明かす。
専用のスタジオ、衣装をシェア
新しいメイク技術も学べる
ドラァグファミリーの存在は、さまざまな点で重要だとカラは言う。ドラァグを続けるにあたっては、多額の費用がかかるのが悩みの種だ。メイクや派手な衣装、靴にジャケット、ラインストーン。ウィッグ一つが数百ドルする場合も珍しくない。
そこでハウス・オブ・ライスの一部のメンバーたちは、専用のスタジオを共同で借りて衣装をシェアしている。「そうすれば、着こなしの幅が何倍にも広がるので」とルル。準備の様子を互いに見合い、新しいメイク技術などが学べるのもメリットの一つだ。
また、家族のように支え合える関係も、クィアコミュニティでは大きな役割を果たしている。「血のつながった家族が必ずしもドラァグやクィアに理解を示すとは限らない」とカラは話す。
カラは実の母とドレスやジュエリーを共有しているが、父にはそのことや自身の活動を秘密にしている。「まずは立派に成功して自立できるようになったら、『これが大好きな仕事なんだ』と父に伝えたいと思っています」
「クィアだと打ち明けることで、家族と絶縁してしまうケースもあります」とルルは言う。「同じような経験を持ち、理解し合える仲間が必要なのです」
ハウスの一員であるボンガニーサと10年来の友人だというスキムは、「私たちは何をする時も、いつも一緒にいます」と話す。
「部屋が借りられず困っていた頃に、ママ・シェイが助けてくれました」とカラは振り返る。「ドラァグの同志でもありますが、ハウスのみんなはそれ以上の存在。まさに私の家族なのです」。
さらに、バンクーバー周辺でパフォーマンスの出演契約を結ぶ際にも、ハウスの一員であることは有利に働く。以前から舞台に立っていたカラは「ハウスに加わっていなければ、今よりもっと苦労していたかもしれない」と言う。
カラとルルの二人はドラァグ姿で町に出る時、他のメンバーたちを交えて歩くようにしている。歩行者やタクシーの運転手からトランスジェンダーへの嫌悪に満ちた言葉を浴びせられることがあり、身の危険を感じるためだ。パフォーマンス会場の側にある駐車場で支払いをする時ですら、友人につき添ってもらうという。
パフォーマンスは多種多様
子どもたちはそれを見事に楽しむ
「ドラァグはいわば“演劇”のようなものです」。幼い子どもたちがドラァグに惹かれるのはこのためだとスキムは思っている。
「子どもたちはドラァグを見事に解釈して、楽しんでくれています」。それはジェンダーの役割や、そうした規範が社会をどう作り上げているのかについて、まだ多くのことを知らないからだとスキムは続ける。「ドラァグにはジェンダーの垣根を打ち破る強さがあります。誰がどんな衣装やメイクで舞台に立つか、そこでどう振る舞うのか、そのすべてが考えるきっかけになるのです」。ドラァグのパフォーマンスは多種多様だ。スキムによれば“お決まりの型”のようなものがあるわけではなく、その時その場所に存在する身体を通じて表現される、儚い行為だという。
ルルは自身のドラァグの方向性を模索している最中だ。「今のところはセクシーさと生意気さ、かわいらしさが同じぐらいの割合ですかね。子どもの頃は『美少女戦士セーラームーン』などのアニメをよく観ていました。あこがれていた主人公たちのようになりたいんです」
その一方で、カラは「ポップスターになる夢を叶える」という独自のスタイルを確立している。「私はとにかくポップ。女の子っぽく、弾けるように元気で動きがあって」。ジャズやヒップホップといった幅広いダンス経験がそこには活かされている。「躍動感のあるものにしたいので、ヴォーギング(※4)やディップ(※5)を多く取り入れています」
※4 ファッション誌『VOGUE』に由来する、社交ダンスから発展した踊りの形式。
※5 床の上でポーズを決める、ヴォーギングの一種。
バンクーバーのドラァグシーンは、トロントやシアトルなどのカナダの都市よりも多様化が進む傾向にある。いまだ白人男性によるドラァグが主流の場所も残ってはいるものの、多くの会場では出演者に先住民や有色人種のほか、トランスジェンダーやノンバイナリーのパフォーマーも含めるよう変わりつつあるとカラは言う。「そうでなければ、私たちが主催者に苦情を入れますから」
バンクーバーの人口構成をショーや出演者に正しく反映させることは、アジア系の観客にとっても大きな意味を持つだろうとカラはみている。「ロンドンの劇場街にある普通のバーで、『アジア的なショーがもっと開催されなければ』と最近思うようになりました。なぜやらないのか不思議なぐらい。みんなを連れてあちこちに出向きたいです」
現在のバンクーバーのドラァグシーンは、シェイのようなパフォーマーの存在あってこそだとルルは話す。「この地域に私たちの文化を広げ、多くの人を勇気づけてきたのはシェイですから」
(Michelle Gamage, Megaphone/INSP)
※2023-11-01発売の『ビッグイシュー日本版』466号より転載しました。
ハウス・オブ・ライスInstagram
https://www.instagram.com/houseofriceofficial/
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
