(2008年4月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 93号より)


野草は究極の地元素材。南ロンドンの公園で野生食ハンティング



高級レストランにひとり占めさせるなんてもったいない! 家の近所でみつかる自然の珍味を食べてみよう。それは地球に優しいライフスタイルでもある。ダミエンヌ・シーハンによる野生食体験記をロンドンからお届けする。


93 20 21illustcut

ロンドンで都市の野生食者が急増中



それはまさしく運命の瞬間だった。地元のいきつけのパブにいると、いかにもカントリー・ガールといった風貌の美人がやって来て、南ロンドンの公園で2キロもの「森の雌鳥」(マイタケのこと)をみつけたとすっかり興奮した口ぶりで話したのだ。

その女性はソフィー・ターノイ。プロの野生食ハンターだ。彼女は、「オリーブオイルで揚げて食べるといい」と言って収穫の一部を気前よくわけてくれた。私は、採集に一緒に連れて行ってくれるようにソフィーに頼みこんだ。

大都会ロンドンの公園で野生の食物を採集し、なかでもベジタリアンにとっての上質のたんぱく源の一つといわれるマイタケをメインディッシュにして、まともな食事ができるか試してみようと思ったのだ。ソフィーは快諾してくれた。数日後、ナイフと採集バッグを携え、名前は明かせないが、誰もが知っているロンドンのとある公園に向かった。こうして私は、最近急増している都市の野生食愛好者にさっそく仲間入りすることになった。

ニューヨークでは、野草探索ツアーを主催し、ナチュラリストとして有名なスティーブ・ブリルが、数年前にセントラルパークでタンポポをつんで食べたところを公園管理局によって包囲されて逮捕されるという騒ぎを起こした。だが、幸いにも、証拠を食べてしまっていたおかげで、指紋を取られただけで釈放された。

タンポポ

英国では、公園で野草を食べたからといってそんなひどい目にあうことはないし、長距離空輸によって食物のビタミンやミネラルが失われるという報告がされて以来、最近では都市住民の間で地元産の果物や野菜への需要が急速に高まっている。自宅のそばの公園こそ、究極の「地元」といえるだろう。


ガーデニングの大敵ヒルガオは食べて退治




ヒルガオ
英国の若手人気シェフ、ジェイミー・オリバーの「フィフティーン」をはじめ高級レストランが次々と野生の食材をメニューに採用するようになったとはいえ、みずから採集におもむくとなると気後れする人が多いのが現状だろう。もったいない話だ。

ありがたいことに、法律では、海辺や歩道、乗馬道などの共有地や公有地から野生の植物を採集することを禁じていない。イラクサやタンポポ、ギシギシなど食用にできる植物も除去すべき雑草とみなされており、ヒルガオも例外ではない。ほうれん草に似たヒルガオをサラダやガーリックソテーにして食べてみるといい。ガーデニングの大敵であるヒルガオだが、おいしい退治方法としておすすめだ。

まずいという先入観も、野生食が敬遠される理由のひとつだろう。ごく普通のイギリス人家庭の食卓で、渋みや苦み、泥臭さがそれほど歓迎されるとは思えない。実際に秋咲きのタンポポの葉を食べてみたが、その苦味は強烈だった。肝臓を赤ちゃんのころのようにきれいしてくれようと、イボを取ってくれようと、どうでもいい。あわてて吐きだすと、口直しのミントを口にほうりこんだ。

<後編に続く>