こんにちは、ビッグイシューオンライン編集部のイケダです。5/9に開催した「BIO CROSS Talk」の内容を書き起こしたのでご共有いたします。登壇者はビッグイシュー日本代表・佐野章二氏、連続起業家の家入一真氏のお二人です。
なお、素敵な会場と記事中の写真素材はエンジニアの「働く」を支援するギークス株式会社にご提供いただきました。すばらしい機会をありがとうございました!
BIO CROSS Talk vol.1 ビッグイシュー日本代表・佐野章二(73歳)× 家入一真(35歳)
イケダ:えー…。登壇者のお二人である佐野さん、家入さんが少々遅れているようなので(笑)、ゆるゆると始めようかと思います。簡単に自己紹介をしますと、ぼくは今、ビッグイシューのオンライン版の編集長をしています。紙の編集部はまったく別に存在していて、ぼくはオンラインのみを見ています。
ビッグイシュー、みなさんの手元にあると思いますが、非常にクオリティの高い、面白い雑誌なんです。けれど、いかんせん紙なので読まれにくいという課題がありまして、それがもったいないな、ということでオンライン版を立ち上げています。
それ以外にも…あっ!今、家入さんから電話が来たので、ビッグイシューについての説明を未来さん、お願いします(笑)
ビッグイシュー日本、佐野未来:佐野章二の娘です。昔、奥様ですか?と言われてショックを受けたことがありましたので、先に言っておきます。娘です(笑)
(会場笑)
ビッグイシューをご存知でない方はいらっしゃいますか?
(来場者から手は挙がらない)
買ったことがある方は?
(何人かの手が挙がる)
ありがとうございます。買ったことがある人は半分くらい。ビッグイシューは、ホームレスの方の支援をするために雑誌を出版して、応援していくという仕組みの雑誌です。…あ、家入さんいらっしゃいましたね。
<家入氏、到着。>
年の差対談実現の背景
イケダ:未来さんありがとうございました、お二人がそろいましたので、早速対談をスタートしたいと思います。
実は、お二人は初対面なんです。なぜこのイベントを企画したかというと、家入さんがテレビに出ているのを見た佐野代表が興味を持ったという話を伺っていて、一方で、家入さんも佐野さんとお話がしたいと何度かぼくに伝えてくださっていて。
家入:そうなんです。相思相愛ですね。
イケダ:念願かなっての対談というわけです。それでは、自己紹介をお願いいたします。
家入:みなさん、こんにちは。家入と申します。自己紹介かぁ…。
先日、都知事選に出て落ちてきました。
(会場笑)
家入:そうですね、自分の経験を元にビジネスであったり、ビジネスじゃなかったり、今回は政治であったりと、居場所をテーマにして活動しているんですけど、そういったことをお話できたらなと思っています。よろしくお願いします。
佐野:こんばんは。ビッグイシューの日本代表の佐野章二です。
佐野:有限会社ビッグイシュー日本は2003年の5月に創業しました。NPO(ビッグイシュー基金)の方は2007年の9月に立ち上げて、7年やっています。
ホームレスの支援は普通は行政や福祉がやるものなんだけど、これをビジネスでできないかと思ってやり始めたんです。ホームレス問題は社会問題の中でも解決が一番難しい問題だから、これが解決出来たら、大体の社会問題は解決が出来て、色んな企業を巻き込めるんじゃないかと思っています。
若者も排除される社会になってしまっていて、これはとんでもない社会になってしまった、と。NPOの方では、排除された人に「出番」と「居場所」がある社会、つまりすべての人が「包摂」される社会を作りたいと思ってやっています。
家入さんは居場所をまさしくビジネスでやっていらっしゃる。居場所については非営利でやっていかないと駄目だと思っていましたが、それをビジネスでやってらっしゃる。すごいなぁ、と思ったんです。是非、家入さんとお会いしてディスカッションしてみたいと思いました。今日はどうぞよろしくお願いします。
人間はひとりぼっちになると、ホームレスになる
イケダ:さて、まず始めにホームレス問題について概論を伺っていきたいと思います。身近な課題ではありますが、詳しい部分は一般的には知られていないともと思います。先ほど「解決が難しい」というお言葉がありましたが、ホームレス問題はどういった点で難しいのでしょうか?
佐野:端的に言うと、まずあるのは「失業」ですね。仕事を無くすと収入がなくなる。収入がなくなると、家賃が払えなくなる。でも、これだけではホームレスにはなりません。どういうことかと言うと、身近な絆を失うことでホームレスになるんです。人間は、1人ぼっちになってしまうとホームレスになってしまいます。
僕、「孤立」と「孤独」は違うと思っているんです。1人でいる時間というのも、すごく大事ですよ。何かを考える時間は1人で考えるでしょ。
でも「孤立」は違います。孤立とは、「孤独でいることを奪われる状態」、これが孤立じゃないかと思います。「孤立」はモノを考えたりするどころではないんです。
そういう風に言うと格好いいですけど、これは映画にもなった、ハンナ・アーレント、ユダヤ人の政治哲学者がそんな表現をしていたんです。ホームレスになるしんどさというのは、孤独になる権利が無くなることだと思っています。
イケダ:最近の傾向として、若いホームレスが増えてきていると伺っていますが。
佐野:そうですね。立ち上げた当初、ビッグイシューを売る人は結構元気で、平均で50歳前後だったんです。ところが2007年になってから、あるとき、13人の方が販売者になりたいと私たちのところに来てくださった。で、そのうちの7人が、20〜30代の人だったんです。「なんで若い人がホームレスになるんだ!」と思って、50人の人をヒアリングして「若者ホームレス白書」というのもつくりました。調査をしてみると、やっぱり若い人がピンチなんですよね。
参考リンク:今、すれ違った若者はホームレスかもしれない—「不可視化」される若者ホームレス | BIG ISSUE ONLINE
おじさんホームレスの場合の対策は、もうすぐ60歳すぎるので生活保護を受けたり福祉のお世話になるというのがひとつの道なんですね。ですが、30代というのは生活保護を受けていたら何十年も受け続けることになってしまいますよね。
保護は税金で支払うので、支払う側も受け取る側も苦しい状況になってしまうということで、これは何とかしないといけない、と。我々が考えなきゃいけないのが、若者をホームレスにしないために、誰にでも居場所と出番がある社会にする必要があると思っています。
年配のホームレスのおじさんは仕事に誇りを持っているんです。「東京タワーは俺がつくったんや!」みたいに、自分の仕事に誇りを持っているんです。彼らは集まるとそういう自慢話で、すごい盛り上がるんです。
おじさんホームレスの場合は、その延長で元気に路上で雑誌を売ってくれるんですが、若い人には、誇れるキャリアがないという問題があります。ホームレス状態になってしまうと、頑張ろうという気概を、なかなか持ちたくても持つことができない。そうすると、どうなるか。病んじゃうんですね、抑うつ的になってしまうんです。
ビッグイシュー基金の調査でも、4割くらいの人が抑うつ的状況を抱えています。家、お金がなくて、抑うつの状況に押し込められてしまう。おじさんのホームレスと同じような対応ではダメなんですよね。個別的に対応するしかないんです。
抑うつ的傾向にある人が約4割。自殺を考えるような深刻なケースから、時々落ち込むことがあるというものまで、程度はさまざま。路上暮らしの過酷さ、展望のなさが孤独や疎外感を強め、抑うつ状態をつのらせているということができるだろう。路上生活が長期に及ぶほど抑うつ傾向は、高まっていく傾向にあることもわかった。