[編集部より:現在クラウドファンディングプロジェクト「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」を実施中のNPO法人山友会、相談室長の薗部富士夫さんの文章を掲載させていただきます。プロジェクトのきっかけについて書かれた、心のこもった文章です。ぜひご一読ください。]


やまちゃんのはなし

さて、今回は、目標金額を達成した今、キャンペーンが始まった今だからこそ、お話しておきたいことがあります。

このプロジェクトのきっかけの一つともなった、大切な仲間の死です。

この記事は、彼と長年に関わり続けた、弊会相談室長薗部(そのべ)が作成しました。

支援者という存在を超えて、一人の人間として彼と向き合ってきた薗部だからこそ語れる、一人のホームレス、大切な仲間の死、そしてこのプロジェクトの芽吹きです。

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10年ほど前のことです。毎日のように上野公園から歩いて来てくれていた年配のホームレスの方がいました。

通称「やまちゃん」。

出会った頃はすでに70歳でした。

耳と手が大きく、お猿さんのようでした。

朝、山友会へ来て、自分に出来る範囲の手伝いをして、夕方になるとまた歩いて上野公園に戻る。

そうした日々を毎日のように過ごしていました。

弊会の相談員のすすめで生活保護を受給し、ドヤで暮らすことになりましたが、嬉しさのあまり、羽目を外してお酒を飲んだことがきっかけで、ドヤに迷惑をかけてしまいました。

結果、ドヤから退去しなければならなくなってしまいましたが、その後突如として姿を見せなくなってしまいました。

私たちは、やまちゃんが無事でいるのか気になり、以前路上生活をしていた上野公園へ探しに行きました。

何度も足を運びましたが、見つかりませんでした。

それからおよそ1年。

とある夜、上野駅周辺の夜回りをしていると、やまちゃんがひとり寂しそうに立っているのを見つけました。

「また山友会においで」

声をかけると、気まずい顔をしてうなずきました。

再び、やまちゃんが山友会に戻ってきてくれました。

以前のように手伝いをして、上野に戻るやまちゃん。

時折、上野駅前でやまちゃんとビールを飲みながら、冗談を言い合ったりしたものでした。

そのような日々を過ごすうち、彼のような人も安心して暮らすことのできる場所を作りたいという想いで、ケア付きの宿泊施設「山友荘」を開設しました。

もちろん、やまちゃんも入居してくれました。

その後も、毎日山友会に来ては、訪れた方々にお茶を出す手伝いをしてくれました。

山友荘に入居してしばらくした頃、やまちゃんは脳卒中になりました。

幸い一命をとりとめましたが、後遺症で以前のようにスムーズに歩くことが出来なくなってしまい、介護を受けるようになりました。

ヘルパーさんやデイサービスのスタッフの方、訪問看護師の方、仲間のおじさん達からも慕われ、日々楽しく暮らしていました。

歩くのに難儀するようになっても、毎日山友会に来て、お茶を出す手伝いは続けてくれました。「足が悪いのだから、やめておいた方がいいよ」と周りが心配しても、これは自分の役割だからと頑なに続けてくれていました。

そして、80歳を迎えた昨年の春。

急に食欲がなくなり気持ちの悪さを訴え、入院しました。

すい臓がんでした。

病状はかなり進んでおり、もう手の付けられない状態でした。

日に日に弱っていく、やまちゃん。

そのうち呼吸するのも難しくなり、面会に行くと、苦しそうに喘いでいて胸が痛くなりました。

苦しそうにしながらも、こちらの気配に気が付くと手を挙げて挨拶してくれる、やまちゃん。

5月。雨の降りしきる朝。

やまちゃんは旅立ちました。

しかし、というか、やはりというか、葬儀や遺骨の引き取りに関わることに手を挙げる親族の方はいませんでした。

なかなか親族の方に確認が取れず、亡くなってから1週間以上、お骨にしてあげることもできませんでした。

わずかに残る遠縁の親族の方も、やはりほとんど関係がなかったためでしょうか、やまちゃんの若かりし頃に何か縁を絶たざるを得ないような事情があったのでしょうか、遺骨の引き取りも受け入れられないとのお返事だったようです。

やまちゃんのように長い時間をかけてお互いの信頼関係をきずき、ともに仲間として活動をしてくれた方も、家族や親族との縁がなければ、また一人ぼっちに、無縁仏になってしまいます。

長い間関係のあった彼の死をきっかけに、山友会の仲間のためのお墓を建立する話が本格的に進みました。

そして、多くの方々のご協力によって、お墓を建立する資金を集めることが出来ました。

山友会に関わる仲間たち、皆一人ぼっちじゃない。

無縁のお墓に埋葬されることなく、いつまでも仲間を忘れずに手を合わすことができる山友会のお墓。

大切な仲間が、一人ぼっちにしたくない人が、まだまだたくさんいます。

おかげさまで、またやまちゃんは、毎日山友会に来ることができます。

悲しいことも、辛いことも、嬉しいことも、夢も希望も絶望も、

そして、大切な仲間の死も

みんなで分かち合える。

山友会は、そういうところでありたいと思っています。


(相談室 室長/薗部 富士夫)


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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。