『若者の住宅問題』―住宅政策提案書調査編―」の発表に合わせて行われた記者会見の内容を、書き起こし形式でお伝えします。

神戸大学大学院教授の平山洋介さん、「つくろい東京ファンド」などの活動に取り組む稲葉剛さんがお話くださいました。現代のホームレス問題、貧困問題の現状に深く切り込んだ内容となっておりますので、調査のPDFと合わせてどうぞご一読ください。


「未婚かつ低所得の若者」はどのようにして居住しているのか

司会:お集まりいただきありがとうございます。ホームレスをサポートする上で、住宅の問題というのはもっとも根源的な問題であり、解決方法を探るというのは念願の課題でした。

昨年、2013年4月から、神戸大学大学院教授の平山洋介委員長を中心とした研究者、市民活動家の方々の参加を得て、同年10月に「住宅政策提案書」を発行しました。困窮している方々の現状を踏まえて、既存の政策、制度の検証、そして最終的な提案をまとめて冊子にしました。

一方で、この問題についてより詳しく調査をする必要があるのではないかという問題意識のもと、若年・未婚・低所得者層の居住実態調査というものを行いました。それが本日のメインの話題となっています。


平山:若者の住宅問題意識調査として、「未婚かつ低所得の若者」の意識調査をしました。この未婚、低所得の若い方々は住宅問題に対してどういう姿勢を持っているのか、あるいはこのグループ対する調査がどういう意味を持っているのかについて話をします。

本調査は①首都圏(東京都、埼玉・千葉・神奈川県)と関西圏(京都・大阪府、兵庫・奈良県)に住む、②20~39歳、③未婚、④年収200万円未満の個人を対象に、1767人からインターネットを使って、アンケートを行いました。なお、学生については調査の対象から除外しています。

こうしたグループは特殊なのではないかと思われるかもしれませんが、今の日本社会においてはそれほど特殊ではありません。現在、有業者の3割は年収200万円以下ということで、大きなグループであると考えることが出来ると思います。

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年収200万円以下の若者の77%は、親と同居している

調査結果の概要ですが、まず、親との同居しておられる方が77%と、非常に高い割合となっています。30代の後半の人も含めた数字です。

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「結婚する、できる」は1割未満

今回の調査対象の方は、みなさん未婚です。この方々に「今後結婚するか」ということを聞きましたら、「結婚したいと思わない」が34%、「できるかわからない」が20%、「結婚したいけどできない」という方が18.8%。逆に「結婚する予定がある」あるいは「結婚したいし、出来ると思う」という方は1割にも満たない数です。

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この方々については、将来も結婚しない可能性が高いだろうということが指摘できると思います。


出身地にとどまる若者が8割

2点目に、個人の出身地を伺ったところ、現在住んでいる都道府県で生まれたという方が83%と非常に多いです。

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20世紀後半の住宅問題というのは「地方から、大阪・東京に出てきて、アパートを借りて、狭い、家賃が高い」といった問題だったと思います。地方から都市に出てきて住む場所を確保するのが大変だったということです。そして、大変ながらも住まいを確保して、それを拠点にして、仕事を探して、昔は仕事もたくさんあったので、給料を上げて、脱出するんだというようなコースでした。

しかしながら、現在は8割以上の方がそこの出身地にずっとおられて、親の家にずっといて、そこから次の段階へ行く展望があまりないというのが現状です。


大卒でも低所得の若者たち

次に学歴ですが、これは意外な結果でした。大卒が一番多く36%となっています。今までの世帯調査では「学歴も低く、低所得」が常識的な傾向でしたが、今回の調査では「大卒者でも低所得」となっています。

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一方でやや気になる傾向として、中卒、高校中退が8.4%、これは調査対象のなかでも20代前半の若い世代に多くみられました。


4割が無職

次に経済状態がどうかということを調べましたところ、雇用形態は無職が4割ということで非常に多く、低所得というよりは無職がもっとも多いという結果が出ています。

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一方では、職を求めていない方も22%います。働いている方々のなかではパート、バイト、臨時日雇いの方々が38%、非常に不安定な雇用です。いわゆる正規雇用の方々は1割未満だということです。こういった方々が親の家に住んでいるような実態であります

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次に年収が200万円未満の方については、「収入無し」が26%、「50万円未満」の方が22%となっています。これは個人レベルでいうと「極貧」といっても過言ではないような経済状態であることがわかります。また特に「男性で、親と同居している」方が一層低所得だということが調査の結果わかりました。

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世帯年収200万円未満が4割

次に世帯の年収を調べたところ、世帯で見ても実はそういった状況はあるようです。年収200万円未満が4割を超えるような状況があります。親と住んでいても、親御さんの収入もそれほど高いとはいえません。

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調査対象のかたの年齢が高い場合は、親が定年退職をしており、世帯全体が非常に低収入になるという傾向があります。


貯金なしが43%

次に預貯金ですが、貯金なしという方が43%、50万円未満が3割、ということで蓄えはほぼないというような状況であります。

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社会保険との繋がりが非常に弱い

社会保険の加入状況を聞きました。年金未加入13%、猶予が16.8%、滞納が5%。セーフティネットとしては、社会保険との繋がりが非常に弱いという状況が多いということがわかりました。

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いじめ被害、不登校、就職挫折、うつ病といったトラブルを経験

これまでに困った状況があるのではないかという点を調査により確かめたところ、いじめをうけた経験がある人が34%、不登校・ひきこもりの経験がある22.5%、新卒就職挫折が21%、職場人間関係トラブルが18%、うつ病などの精神的な問題を抱えた事のある人が27.6%、ということで、比較対象はありませんが、非常に高いのではないかということが考えられます。

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困ったときの相談相手がいない

では、そういった方々の相談相手はどうですかという質問に対しては、ない方が34%、特に男性で相談相手が居ないという方が46.7%、無職で求職していない方々は45%という結果があります。

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親の持ち家で親と同居している人が多い

次に住宅の問題に入っていきますが、まず住宅の問題について一番重視するのは住宅所有形態、持ち家か借家かというようなことです。これまでの住宅研究では世帯単位で調査をすることが一般的でしたが、今回は若者の調査ということで誰が持っているのか、誰が借りているのか、ということを重視して聞きました。

すると、親の持ち家が60%、親が借りている借家が13%、自分で所有しているという方が10%強、自分で借家を借りているという方が2割弱という結果が出ています。親の持ち家で親と同居している人がかなり多いということです。

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これまでの調査結果からいって、親の家だと安定が続くかというと続かないケースも多いだろうという風に思います。理由としては、一つは親の収入が確実に得られなくなる可能性がある、二つ目は親の家であれば住居費はかかりませんが老朽化による修繕資金がないということ、そして、三つ目は年齢が低い状況では頼ることが多くなりますが、年齢が高くなるにつれて頼られることが多くなってくる、といった理由です。今後、こうした問題は論点の一つになろうかと思います。


3人に2人が「住居費なし」「負担なし」

次に住居費負担の特性といたしまして、これまで住居負担は軽い、重いという表現で話してきましたが、重要なことは、「全く負担しない」あるいは「負担する」といったかたちで、「するか、しないか」ということで大きく若者が区分されている所です。

親の家に住み、住居費自体がない方が3割、住居費が必要な家に住んでいるけど本人は負担していないという方が37.8%、負担しているという方が32.4%。ようするに低所得の若い人は、家賃がかからないような方向へ行動するということです。

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住居費払えば収入マイナスが3割弱

住居費負担ありの方々の1ヶ月の住居費は、4万円未満が35%、2万円未満が11.9%、当然ですが安いところを選んでいることがわかります。6万円以上が3割です。

次に「アフター・ハウジング・インカム」という指標があります。これは手取り収入から住居費を差し引いたものです。住居費というのは、税金、社会保障費に並んで固定性の強いものです。このアフター・ハウジング・インカムというのは、より実質的な手取り収入と考えることができます。

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これで見てみると「住居費を払うとマイナス」という方が3割近く、10万円未満という方が5割と、住居費を払うのが非常に厳しい極貧状態の方が非常に多いことがわかります。


住居費を払うために働いている若者たち

また、住居費負担率もとても高く、3割以上の方が50%以上と答えています。これは住居費を払うために働いているといっても過言ではないような状態になっています。

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広義のホームレス経験者6.6%、親別居グループでは2倍に

住宅困窮経験についてです。定まった住居がないという、広義のホームレス経験をしたことが「ある」という方は、アパートに住んでいる方の場合で28.9%、社宅や寮、シェアハウスなどは3割の方がそのような問題を経験しているということです。

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全体で見ると、広義のホームレス状態を6.6%の方が経験をしていらっしゃいます。これを多いと見るか少ないと見るか、比較対象が無いので何とも言えないのですが、20人に1人を超える方がホームレス状態を経験をされている、というのはやはり多いのではないかと思います。


親の持ち家に住み続ける若者たち

続いて定住・転居の志向ですが、今の住居に「住み続けたい」という回答が6割を超えているような状況です。これは若者にしては非常に高い数字なのではないかと考えられます。

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今まで、一般的には若い人にとって、特に親の持ち家は「出ていくべき場所」という風に考えられていたと思いますが、むしろ「住み続けるべき場所」と考えている人が増えてきたと思われます。


「暮らし向き苦しい」58%、4割が「3年後にはもっと苦しくなる」

次に暮し向きについて聞いたところ、苦しいという方が6割弱、3年後どうなるかと聞いたところ、もっと苦しくなるという方が4割近くおられるということがわかりました。

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「住居」と「仕事」が「幸福」の内実

最後に幸福の条件を聞きました。そうすると、健康を重視される方が8割、住居を重視する方が47%、仕事を重視する方が47%でした。

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若者、貧困の研究というと、ほとんどの研究は雇用、仕事といった側面からの研究です。今回の研究では、若い人たちが「住居」と「仕事」を同じ程度重視しているという状況がわかりました。


まとめ:21世紀の住宅政策を考える

結論に入ります。20世紀後半と比較すると、「住宅問題」は大きく変化したと思われます。

20世紀後半の住宅問題というのは、地方から大都市に行って苦労しながら「梯子」をのぼっていくというタイプの住宅問題だったと思います。それに対して、今の若い人たちは、「梯子」をのぼって次の段階に進んで行くという展望が持つことが困難です。若者たちは、自分の住宅が確保できないという大きな問題に直面しています

また、その実態をより詳しく見ていくと、例えば親の持ち家に住んでいる人、自己借家に住んでいる人では「格差」というよりか、「別世界」を形成している印象を抱きます。全く違う領域に分裂してしまっているような感じがします。

そして、もう一点重要なことは「親持ち家」の役割についてです。90年代の末から政府の規制緩和によって非正規雇用がものすごく増えました。なぜ、そういう政策が可能だったのかというと、親の持ち家が潤沢に存在したからだと思います。ここで、雇用の不安定な低所得の若者を吸収することによって、社会が壊れるのをなんとか食い止めてきたということなんだと思います。

しかしながら、親の持ち家で何とか食い止めているという状況が、いつまで持つかはわかりません。そして、それが望ましいのだろうか、ということが問われる必要があると考えています。


住宅政策に対する示唆としては、「中間層の家族が持ち家を買う」というような場合だけでなく、低所得層、単身者、借家に対する政策のシフトも必要です

OECD加盟国で家賃補助の制度がないのは、日本と地中海沿岸部だけです。これを日本でも実施していく必要があります。


そして、今回新たな課題として指摘できるかもしれないのは「持ち家の維持」という問題です。家というのは20年、30年経ってくるとかなり傷んできますし、親もかなり低所得になります。現在の低所得の若い人が親の持ち家で暮らしているというのは、ある意味で社会的な役割を果たしているとも言えるかと思います。


最後に社会に「サイクル」を作っていく必要があると考えています。若い方々が「次の段階」として住むことができる、「低家賃の良質な住居」があまりにも不足しています。先ほども申し上げた通り、諸外国には家賃補助制度はあります。フランス、デンマークで出生率がやや回復に向かった一つの政策は、家賃補助であったとも言われています。

わかりやすくいえば、若い人を親の家から出すんだ、という考え方です。社会の流れを止まった状態でなく、流れを作っていくことが必要なことだと思います。20世紀後半のようなサイクルではなく、多様な生き方が積み重なり、社会が流れていくような将来をイメージしたいと思っています。繰り返しになりますが、住宅からのアプローチで社会の将来を展望していきたいと考えています。


親元から出られない若者が増えている

稲葉:私はNPO法人「自立サポートセンターもやい」で生活困窮者の相談支援活動を行っています。

「もやい」の事務所には年間700世帯から900世帯の方の相談を行っています。実際来られている方の約3割が20代、30代の方で、その傾向は2003年頃からあります。

親との同居が4分の3を占めているということについては、一時期「パラサイトシングル」という言葉が流行ったように、いわゆる自己責任的な見方もできます。しかし、生活困窮者の支援を行っているNPO側からみると、親元から出られない若者が増えているという風に見えます。

今回の調査において、どういった項目からそれがわかるかといいますと、親と同居しているグループと、別居しているグループの比較というところからわかると思います。たとえば、住宅安定確保にまつわる問題の経験についてです。

賃貸契約に必要な保証人が見つからなかった、アパートの初期費用を用意できなかった、あるいは家賃を滞納した、など自分で家を確保するにはさまざまな困難があります。親の同居・別居で見ると、同居では問題の経験が少ない一方で、別居では問題経験者が28.6%に上っています。

また、いわゆるホームレス状態、ここでいう「ホームレス」というのは路上生活だけでなくて、ネットカフェ、友だちの家、カプセルホテルなど、広い意味でのホームレスということを指します。そういったホームレス状態を経験したことがあるかどうかに関しては、親同居グループでは4.6%に対して、親別居グループは13.5%と非常に高い数値を出しています。

今の低所得の若者にとって、1人で部屋を借りる、独立した住まいを確保するということが難しく、ホームレス化をしてしまう率が高いということが言えます。ですから、そう言ったリスクを回避するためにも、頼れる人は親に頼らざるをえない、そして親の家から出られない人が増えているのではないかと思います。

こういった状況は、私たち民間のNPOの相談支援の現場からは今まで見えてこなかった問題です。というのも、私たちのNPOに相談にくる若者たちというのは多くが親との関係が切れてしまっている、あるいは元々親がいないような子どもたちが中心です。

ある意味で、親との関係が切れている人は、若者の中ではマイノリティです。マジョリティの人たちの状況というのは、今までの相談現場からなかなか見えてこなかった問題です。今回の調査では、そういった若者たちが「親元から出られない」という状況が見えてきたと思います。


社会における「時限爆弾」

「親元にいるからいいじゃないか」と考える方もいるかもしれませんが、将来的な観点から言うと、ある意味で、社会のなかに埋め込まれた「時限爆弾」のようなものであって、私たちの社会の持続可能性というものを大きく損ないかけないものだろうと感じています。

今のところ親の所にいて、当面の生活はできるかもしれませんが、いずれは親も高齢になっていきますし、そうなれば親からの援助も途絶えてしまう可能性があります。一方では、家が老朽化していくといった問題もあります。

また、20代のうちはまだ親元に居ても何も言われなかったけど、それが30代、40代になってくると徐々に親子間の関係も悪化してくるということもよくあります。私たちのところにも、親元に居るけれども、刺すか刺されるかの関係にまで関係が悪化している方からの相談の電話が来ることがあります。そうした時に居られなくなって、ホームレス化してしまうリスクがあります。

将来にわたって日本社会が抱えるリスクは、ここにあるのではないかと思います。


大卒でも貧困になる

もう一点、大卒で貧困状態に陥っている人が数多くいるということも、私から伝えたいことです。

私たちの団体に相談をする方々のなかにも、大学を卒業して正社員として働いてきた経験がある若者が増えてきています。その背景には、近年大きな社会問題になっている「ブラック企業」の問題があります。

今回の調査結果で直接的には触れていませんが、仕事に関する困難という点で、リストラ、倒産、長時間労働、人間関係トラブルなどを経験している方が多くいらっしゃいます。

こうした仕事上の問題は、生活困窮の要因になっていると考えられます。住宅の問題、雇用、学校現場での出来事などが複雑に絡みあって、なかなか親元から抜け出せない、あるいは一人で部屋を借りてもなかなか安定しない、といった状況があるのではないかと思っています。

こうした人たちに対する支援策はどうあるべきか、という点についてですが、昨年生活困窮者自立支援法が改定され、来年度から本格施行される予定となっています。これについても様々な議論はありますが、私はこの生活困窮者支援法のなかで住宅支援、居住支援という非常に弱いのではないか、という点を指摘しています。

住宅に関しては、今の日本社会にあるセーフティーネットはたいへん使いづらいことになっています。来年度からは生活困窮者自立支援法の一つのメニューとして、住居に関する支援が提供されることに決まっています。ですが、その中身は住宅支援、居住の支援というよりも「再就職までの間、一時的に支援します」という趣旨となっており、実際に困っている方には非常に使いづらい制度となっています。

こうした点の改善を私たちで一緒に考えていきましょう。「住宅政策提案書」にもハウジングファーストという言葉を載せていますが、まずは居住の安定を図る、住まいを提供するというところから始まる支援、それが必要なのではないかと考えています。






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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。