ビッグイシュー・オンライン編集部より:2014年12月14日(日)に開催された「若者政策提案書・案」の発表シンポジウムがより、高橋温さんによる講演の内容をご紹介いたします。
【生活支援】 就労支援だけで自立はできない。
第二部では、当日会場で配布した『若者政策提案書・案』の内容について、若者政策検討・提案委員の方にご登壇いただき、主に担当していただいた第2章の内容について、カテゴリーごとに説明していただきました。
宮本みち子委員長(放送大学 副学長)
【学び】青砥恭委員(NPO法人さいたまユースサポートネット代表)
【つなぐ】白水崇真子委員(一般社団法人キャリアブリッジ代表理事)
【生活支援】高橋温委員(弁護士・NPO法人子どもセンターてんぽ理事)
【出口】津富宏委員(静岡県立大学教授・NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡理事長)
高橋温委員による【生活支援】についてです。
高橋:僕は「子どもセンターてんぽ」という子どもを対象にしたシェルターをやっている。子どものシェルターについて簡単に説明すると、家に安心していられない子ども、居場所がなくなって街中にいるような子ども、そういう子どもたちがとりあえず逃げてくる場所。
大体二ヶ月くらいで、次の行き先を見つけて出ていく場所である。先ほど、学校という所属があって、そこから出た後に就労で困る子どもがいるという話があった。
しかし、私のところでは、その前提となる家がない子どもたちについて、どう考えるべきかという話になる。
シェルターをやっていて思うのは、就労支援だけでは自立はできないということ。よく「自立しろ」と言われるが、自立とは一体何なのか。
ひとつとして、「経済的な自立」ということはある。それ以外にも、家事ができる、お金の管理ができるなど、「生活面での自立」というのもある。
もう一つ、「精神的な自立」ということもある。それは、「ひとりで自分のことを決めて生きていけること」だと社会的には言われるが、僕は違うと思う。
単純に一人で生きていけることだけではなく、自分のことは自分で決めつつも、必要な支援を周囲に適切に求めていけること。それが精神的に自立するうえで大事だと思っている。つまり、自立するには周りの人との関係が不可欠である。
若者政策といっているが、若者の側からすると、この大人社会に入っていって一緒に生きていこうと思えるかどうかという問題。こちらから「おいでよ」と言っても、若者からみて「お前らのところには行きたくない」「厳しいし、楽しくなさそう」と思われてしまえば、一緒にやっていくことはできない。
必要な支援を求めてもらうために必要なのは、まず若者が求めていることに応えていくことが出発点。それが、提案書に書いている「若者のニーズに応じた支援が必要」という意味。
では、具体的にどういうことを求めていくのか。まず一つ目に教育や職業訓練を保障するための支援が必要。これは比較的わかりやすい。
単純に言えば、子どもたちは生まれた家、育つ家は選べないので、その家の条件というものがある。その条件によって子どもたちは、何かをあきらめなくてはいけないのだろうか。社会が若者に受け入れてもらうためには、やっぱり同じだけのチャンスがあるべきだと思う。
どうするかはそれぞれで、必要ないという人がいても、チャレンジする人がいてもいいが、まず前提として同じだけのチャンスが必要。その意味でも、教育や職業訓練はすごく大事。
住むところをなくしてシェルターに来る子どもが私の出発点なのですが、家がなくなると、住所がなくなるわけです。住所がないというのは、履歴書に書く住所がないということ。給料を振り込むための預金口座もつくれない。
私たちのところに家から逃げてくる子は、口座をもっているが、親が管理しているという子がものすごく多い。バイト代が入っていたけど搾取されたと言って逃げてくる。すると、その口座が使えないので、別の口座を作りたいが、それにも住所が必要。携帯も親に管理されている。別の携帯をつくるにはやはり住所が必要。
住むところがないのは、寝る場所がないという大問題だけでなく、次のステップに行くためのいろいろな制度を使うための前提がなくなるので、住居の確保が必要になってくる。
神奈川県には県営住宅がいっぱい空いているが、その一定の割合を若者に無料で貸すとか優先的にいれてくれればいいのだが、住宅政策の部署と若者・子どもの支援の部署は行政のなかでもまったく違うところなので、それらをリンクさせるのが難しい。
でも、現実的に空き部屋があるので、誰かが頑張って政策を組み立てれば、難しくなく住居が確保できるのではないかと思う。
お金、物質、住まいも必要だけど、寄り添っていく人が一番必要!
一番典型的な「帰る家がない子ども」は、養護施設等で育っている子どもたち。
いろいろな子がいるが、小さいときに入って途中で家に帰れる子も中にはいる。小さいときには虐待があったが、小学校や中学校入学のタイミングで家に帰るとか。でも、0歳や1、2歳で入って、そのままずっと18歳まで施設にいる子どももかなりいる。
それでも、18歳になったら施設を出ないといけない。そのときに親と連絡がとれる子どももいるが、逆に親から「今度は稼ぎ手になったのだから、家にお金を入れてくれ」と経済的な搾取の対象になる可能性があって、親を頼れない子どもも多い。
そういう子どもが行くところは、制度としては自立援助ホームがある。ただ、そこは仕事をすることが前提。先ほどのように教育や職業訓練のチャンスを与えるべきだという政策ができたとして、教育費は無償であげましょうという制度ができても、現実的に生活する場がないと学校や訓練には通えない。生活費などごはんを食べるお金がないと学校や訓練には通えない。だから、単純に教育費だけじゃなくて、その間の住まいやサポートする大人が必要になってくる。
それから、貧困や虐待を受けた子が高校を中退している割合は非常に高い。
虐待環境でずっときて、シェルターに入るまではすごく頑張っている。最初の面接でも、「入ったら頑張って自立します」と一生懸命話しているが、いざ安全なところにきて、夜も怒鳴られずにご飯が食べられて、安心して寝られる環境にくると、逆につらかったことが全部出てきてしまう。精神的なバランスを崩して眠れなくなったりとか、初めて症状が出てくるという子は結構いる。
そういう子たちに、「もう一度社会と関係をもって頑張ろう」と思ってもらうまでには、やはり時間がかかる。何ヶ月とかじゃなくて、何年というスパンが必要。でも、その間、そういう人がどこにいられるのか。いまの社会の制度にはそこは非常に足りない。
それで『若者政策提案書・案』には、療養型の児童自立生活援助事業にもとづく施設が必要だと書いている。
いろいろなことがうまくいって、仮に一度自立しても、私もみなさんもそうですが、人生ってずっとうまくいくわけじゃない。
時々つまずいたり、失敗したり、悩んだりする。多くの人は、そういう時に支えてくれる家族や親せき、友達がいて、そういう関係性の中で自分のつまずきを解消してまた前に進む。でも、家庭と切れている子はそれができない。そういう若者に対して何が必要なのか。やっぱりずっと寄り添っていく人がすごく大事。
お金、物質、住まいの支援も必要だが、結論としていろんな問題抱えている人に適切な支援するには、やはり誰かがその人をきちんとわかってあげて、一緒に悩んで一緒にぶつかっていって一緒に解決してあげて、という伴走型の支援をして寄り添ってあげる人が必要だと思う。
『若者政策提案書』が完成しました|活動報告・イベント案内|ビッグイシュー基金
編集部より:随時記事を追加していきます。記事の一覧はカテゴリーページ「若者政策」をご覧ください。
ビッグイシューをいいね!で応援!
最新情報をお届けします
無料メルマガ登録で「ビッグイシュー日本版」創刊号PDFをプレゼント!
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。