ビッグイシュー・オンライン編集部より:PDFで公開済みの『若者政策提案書』の本文を、ブログ形式で閲覧できるよう編集いたしました。日本で欠如する「若者」世代の政策的支援のあり方を、ぜひ私たちと一緒に考えましょう。
日本型青年期モデルは崩壊した
1990年代以後、成人期への移行に困難を抱える若者が増加したのは、青年期から成人期への移行を規定する社会システムが、学校、企業、家族、地域社会の変容のなかで機能マヒを起こした結果であった。
バブル崩壊後、まず高卒者の労働市場が悪化し、卒業時に就職先が決まっていない者や、フリーターになる者が増加した。学ぶ意欲が失われ、中退者が増加し、若者の社会的訓練の場は脆弱な状態となった。1990年代末になると大卒者の労働市場も悪化し、2000年代には若年雇用問題が勃発した。これらの現象と平行して婚姻率の低下と出生率の低下が進行した。若者の社会的地位とライフコースは大きな変容を遂げたのである。
若者の生活基盤の弱体化
最後に卒業した学校からスムーズに就職できていない者の比率が、急激に増えた様子を見てみよう。
図1はそれを示している。1980年代末に中学を卒業した集団を先頭に、最終学校卒業時に「就職」以外で学校を離れる者が増加し、最も新しい世代では3割以上が「就職」も進学もしていない状態にある。より詳細に見ていくと、20歳未満の失業率や非正規雇用率は著しく高く、中卒または高卒の20歳未満は、それだけで正社員の対象からは外されつつある。
男女別にみると非正規雇用の増加は、男性より女性に顕著である。男女ともに非婚化が進んでいることを考えると、結婚または出産まで働いたあと家庭に入るという女性に特有のライフコースは衰退し、安定した職場にも家庭にも帰属することのできない女性が増加しているという実態がある。
また、失業率が高く有効求人倍率が低い地方では、正規雇用と非正規雇用の間にそれほど差が見られないほど、不安定で低賃金の職場が増えている。
失業率、フリーター率、ニート(無業者)率にみる就業上のタイプは、学歴と見事な相関を描いている。中卒、高校中退、高卒など、学歴が低いほど不安定な就労状況に入りやすい。
とくに、卒業時に就職環境が悪かった人たちは、その後も不利な状況を引きずっている。その典型は、2001年から05年に卒業したグループで、この世代は団塊ジュニア世代以上に壮年期に深刻な課題となると予想されている。*
*労働政策研究・研修機構『若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状2―平成24年版「就業構造基本調査」より―』2014年
ニートの若者に関していうと、90年代末から2000年代初めにかけては労働市場の悪化を受けて就業経験のあるニートが増えた。ところが2014年までの5年間をみると、就業経験のあるニートが減少し、就業経験がある場合も離職からの期間の長い人が増えている。
つまり、ニート状態に長くとどまる人が増えていて、景気の回復があっても労働市場に参入しにくい人が滞留している可能性がある。他の先進工業国でも同様の傾向が指摘されていている。これらの若者たちの実態から、もっとも不利な条件を抱えて労働市場から排除される若者たちの姿が見えてくる。他の国々に遅れて日本においてもこのような若者たちが明確に確認できる段階に入ったのである。
自立の困難を抱える若者の増加
学校からの出口、つまり就労でつまずく若者たちにはさまざまな背景がある。
まず、生育過程での問題がある。2000年代以後の所得格差の拡大は、若者を包む家族の状況にも大きな影響を与えた。経済的余裕が失われ、かつて「親が犠牲になってでも子どもにはよい教育を」という信念で子育てをしてきた「中間層」がやせ細り、子どもの教育を考える余裕すら失われた「下層」が増えた。所得の低下は離婚の増加とも密接に関わっている。「家族が安泰で、子どもが一人前になるまでその成長を支える安定した家族がある」という家庭の常識が大きく揺らいでいるのである。
また、学校歴における不登校や中退者に、心身の疾病や障害問題、家族関係や経済問題を複合的に抱える例が少なからず見られ、それが就労困難につながっている。労働市場における格差拡大のダメージは、これらの若者に集中しているのである。
若者の二極化は先進諸国に共通しているが、もっとも不利な立場に置かれているのは、さまざまな理由があって早期に学校を去っている若者である。高度化し、競争が激化した労働市場のなかでは、高学歴の流れに乗っていない若者が、安定した仕事を得て生活基盤を築くことは容易ではなくなっている。
非正規雇用や無業の状態でスタートした若者が正規雇用に転ずる確率は低く、正規雇用者が同じ企業内を異動する(内部労働市場)のに対して、非正規雇用者は企業から企業へと外部労働市場を移動している。職業訓練を受ける機会に恵まれないため技能や技術をもたない若者が、失業しやすく不安定な雇用状況に置かれるようになったのは、若者を企業内部に抱えて失業させなかった日本型雇用慣行が明確に転換したことを示している。
2014年1月に子どもの貧困対策法が施行になったのは、日本の子どもの6人に1人が貧困の状態にあるという実態を反映したものであった。子どもの時期の貧困は、若者の時期の貧困につながっている。
若者の貧困の主な原因は不安定で低賃金の仕事にしか就けないことにあるが、その傾向は低学歴層と低年齢層で際立っている。その背景に家庭の貧困があることが多い。
学歴は家庭の所得との相関が高い。この傾向は過去10年間でより明確になっている。経済的に恵まれた家庭に育ち、親の後ろ盾をもって実社会に出ることのできる若者ほど高学歴化と労働市場の高度化に対応できる。その条件がない若者にとって自立することは極めて厳しい状況にある。
複合的リスクを抱える若者
若者が育つ家庭の貧困化は、1990年代から2000年代にかけて親の所得が減少したことに原因はあった。
学校現場では、親の失業や倒産、離婚、病気や障害、DVやいじめの経験などの複合的な困難を抱えた生徒が、長引く不況下で目立つようになり、教師の力だけではどうにもならない状況が見られる。しかも、このような生徒は特定の高校に集中している。
2011年に内閣官房社会的包摂推進室は、さまざまな問題を抱えた若者の幼少期から現在までのプロセスを分析した。対象とした事例は高校中退、ホームレス、非正規就労、生活保護受給、シングルマザー、薬物・アルコール依存、自殺などの問題を抱えた18歳から39歳の53事例である。
調査対象となった事例が抱える潜在リスクは重複しており、「社会的排除」に陥ったプロセスも類似していた。別々の社会問題として扱われてきたものが、「社会的排除」というひとつの社会問題として統一的にとらえることができることがわかった。
社会的排除のプロセス:3つのパターン
報告書では社会的排除に陥る一番大きな問題(キー・リスク)を、それが起こるライフステージと場所でみて3つに分類している。
これらのリスクが単一に発生することは稀で、複合していることが多い。その実態に対する理解を深めることによって、どの時点での介入・支援が必要であるかを見極めることができる可能性がある。このような問題意識を関係者が共有して、社会的排除の状態まで至らないような環境を整える必要があることを、報告書は問題提起している。
いつでも・どこでも支援を受けられる体制
若者支援の現場を通して、つまずいている若者の実態が少しずつ明らかになると、新たな課題がみえてくる。支援機関に来る若者は、困難を抱える若者の一部にすぎない。現状のシステムでは、例えば家庭が崩壊するなどの困難度の高い若者を把握することは難しく、彼らとつながることができない。
また、学校教育が終わってしまうと、社会関係が断ち切られがちである。早期に発見してすみやかに支援を開始し、継続的に支援や見守りを続ける必要があるが、地域社会は衰退しており、新たな仕掛けを作らない限りは、困難な問題を抱える若者を救うことはできないだろう。
若者支援のためには、公的責任において、若者の自立を保障する社会システムを確立することが必要である。現在の行政や専門機関は有機的に連携して動いているわけではないため、困難を抱える子どもや若者の存在に気づき、本人のニーズを総合的に判断して、適切な資源につなげ、見守っていくことは、現状では極めて困難である。それらを解消するための新たな社会システムを構築する必要がある。
その動きの一環として、全国に広がった子ども・若者支援の現場の声と調査・研究の成果を受けて、2010年4月に「子ども・若者育成支援推進法」が施行された。この法律は、2000年代に顕在化した子ども・若者の問題に対して、国と地方公共団体と民間が連携して取り組むための基本理念を打ち立てたものである。同年7月には、推進法を具体化し、5年間の長期計画「子ども・若者ビジョン」が策定された。
推進法は、これまでばらばらだった行政や民間の諸機関がネットワークとして協働するための「子ども・若者支援地域協議会」と「子ども・若者総合相談センター」を設置し、関係機関が連携しながら継続的に支援していく体制を構築するよう自治体に求めている。2014年10月の段階で推進法の理念にのっとって体制整備に乗り出した自治体は71(2014年10月現在)に留まっている。率先して体制づくりを開始した自治体の経験を、全国に広げるべき段階にある。
2015年度は子ども若者ビジョンの見直し作業の年である。過去5年間の経験を踏まえて、より現実の要請に応える新バージョンを作る必要がある。
若者が社会の死角に落ちないようにするためには、自立に向けた支援を切れ目なく継続していく社会システムが必要である。また、一時の就職支援で終わるものであってはならない。幼少期から成人に達するまでの多様で継続的で、しかも体系的な支援環境が必要である。
既存の専門機関の連携体制を再構築し、足りないものは新たに補い、困難を抱える子ども・若者がどこから入っても、適切な支援のルートに乗ることができるような社会システムを推進する必要がある。国民的な合意のもと、すべての自治体が若者の実態を踏まえて積極的に取り組んでほしい。
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