PDFで公開済みの『若者政策提案書』の本文を、ブログ形式で閲覧できるよう編集いたしました。日本で欠如する「若者」世代の政策的支援のあり方を、ぜひ私たちと一緒に考えましょう。
すべての若者が安心して生きていくために―現状と提案
貧困層の子どもたちが集中する「底辺校」には不登校や高校中退が多く発生するが、逆に「進学校」と言われる高校の中退率は非常に低い。
「底辺校」の親の学校体験の少なさはそのまま、子どもの学習環境への理解や進路への準備の理解の乏しさにつながっている。家族、学校など子どもを支えるはずの存在が逆に、若者たちにとって厳しい人生を強いるリスクになっているのである。
今必要な支援は大きく二つある。一つは、学校が単なる教育の場に留まらず、社会へ出るための学びの場、居場所、福祉や雇用や保健医療に及ぶ地域のネットワークづくりの中心(プラットフォーム)になるよう改革していくこと。
そして二つめは、学校教育から外れてしまった若者に対して、オルタナティブな学びの場・居場所そして社会への参加を保障することである。
(1) 「生きていくための力」をつける:学校教育の改革
キャリア教育が導入され、職場体験やインターンシップも広がってきたとはいえ、中卒者や高校中退者、高卒未就職者、労働市場への不安定な参入者の問題は、一般的なキャリア教育施策では解決できない。
しかし学校の現状は、階層分化する生徒・学生の実態に対応した教育にはなっていない点に大きな課題がある。学校は、さまざまな不利を重層的に抱える若者に必要なものを用意する必要がある。生徒の具体像に合致した包括的な教育支援が必要である。
1. 実社会と向き合うための教育
普通教育優勢の高校教育は、仕事に就いて自立できるための具体的な教育や支援という面が弱い。とくに、知識中心の授業についてゆけない生徒のニーズに配慮することなく、実技・実習を通した学びを軽視しがちである。また、個別の状態に合わせて、進学に代わる職業教育・訓練や就職支援をする体制が弱体である。
そのため、早期に社会へ出る生徒は知識も職業上の技能もない状態で労働市場に入ることを余儀なくされ、不安定な単純労務に身をさらすことになりやすい。
早期に社会へと出ていく生徒には、「実社会と向き合う場」と学校を離れたあとの「生きていくための力」を提供するための教育が必要である。
2. 学校と職場を媒介する新しい教育の仕組みを作る
学校から仕事へとスムーズに移行できない若者の問題を解決するには、学校と会社(雇用)の中間に教育(座学)と生産活動(実践)がミックスされ、職業教育と社会参加活動の両面を有する教育訓練の場があれば、教育効果が高まる。
欧州では、学校在籍中にリスクのある生徒を把握し、カウンセリング、キャリア教育、学校と事業所(企業)との連携(デュアル・システム)による職業訓練、学卒後安定した職に着地できるまでの、移行的・訓練的な場での活動が効果的であることが認められ普及しつつある。
日本においても、学校から職場へのストレートな移行ができにくくなっている状況のなかで、学校と職場を媒介する新しい教育の仕組みを作ることが、とくに不利な条件をもった若者には必要だと認識され始めている。
事例研究:バイターン(神奈川県立田奈高校)
就職を希望する生徒たちが進路を考える場として、企業でのインターンシップとアルバイトを合わせて体験するプログラムである。
バイターンを経て就職する例も生まれている。地元企業であれば地域づくりにもつながるため、企業、生徒、地域のいずれもが歓迎できるシステムになっている。バイターンを正規の授業に位置付け、単位化することも模索されている。
事例研究:デュアルシステム専門コース(大阪府立布施北高校)
中小企業が集中した地域にある布施北高校は全日制普通科だが、学校と職場との一体型の教育をするデュアルシステム専門コースを作った。生徒の社会性を高め、自信・意欲を引き出し、基礎学力の低さを克服するには実社会と繋がった教育が有効と考えたからである。
1年生は週に1回(1日中・1年間)、企業・施設へ実習に行く。2年生、3年生は、社会に出て必要な知識を学ぶ。デュアルシステムの神髄は、地域と学校との人材育成に関するコラボレーションにある。
3. 自分の人生を築く「主体」としての成長促進
学齢期から「自分の権利」や周囲に助けを求める方法を知り、問題解決できる力の育成が必要である。同時にサポートを受け続ける存在ではなく、自分の生き方を選択できる「主体」として自尊感情を育てる経験の場、役割を担える力をつける学びの場を学校や地域につくり、成長を促進する必要がある。また若者の声やニーズを聞き、政策や教育内容、人事・経営方針に反映させる仕組みも必要である。
4. やり直しができる柔軟な教育システム
中卒や高校を中退した者や、卒業したとはいえ学力にハンディのある若者の学び(直し)の機会が少ない状況を改め、いつでもどこでも学び(直し)ができる多様な機会を広げることや、就業に役立つ技能や資格取得のための学びの場を用意する必要がある。通える学校を選んで学び直し、いつでもやり直しができる柔軟な学校選択、学校に代わる学び(直し)の場が必要である。
(2) オルタナティブな学び(直し)の場とコミュニティづくり
不登校から中退、長期のひきこもりとなった若者、中退以降に就労できない若者など、学校から離れた若者たちに対しては、それに代わるオルタナティブな「学び(直し)の場」や「若者のコミュニティ」を地域でつくる必要がある。
1. 貧困から脱出するための学び(直し)
学び(直し)については、現在、生活保護世帯の中学生を対象とする学習支援事業が全国130ヵ所の地域で行われている。
しかし、高校入学で支援を終了することなく、社会参加までの長期の支援が必要である。また学力格差が生じる小学生の学習支援を強化すればもっと効果があがるはずである。
学習支援事業には、地域の大学生や退職した教員、その他のボランティアの参加を推進する必要がある。そのことが地域社会を作るネットワークとしても期待できる。
2. 居場所と学びのネットワークづくり
中学・高校で家庭が貧困であるために部活などに参加できないという「放課後格差」がある。また、不登校や高校を中退した子どもたちには、学校に代わる多様な居場所と学びの場を重視する必要がある。それには、NPOやフリースクールなど民間と行政の協働によって、社会活動、文化活動、娯楽活動、スポーツ活動への参加機会を保障しなければならない。
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「この社会は平等ではない」と生活保護世帯の高校生は語った。もう一度やり直せる教育システムを(青砥恭) : BIG ISSUE ONLINE
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