日本・韓国で進行するホームレスの若年化

日韓両国で進行するホームレスの若年化―日韓ホームレス交流プロジェクト報告

2012年8月28日~30日、「日韓ホームレス交流プロジェクト」が韓国・ソウル市で実施された。
韓国にとって歴史的な大型台風が朝鮮半島を襲い、日程の変更を強いられたものの、予定通りビッグイシューコリアや他の支援団体の視察、フットサル交流試合、「第2回日韓ビッグイシューフォーラム」を行うことができた。ホームレス問題に関わる両国の当事者、研究者、支援者が一同に会し、意義深い3日間となった。

主な交流先であるビッグイシューコリアに関する基本的な情報は『ホームレスと社会vol.6』の安基成氏のレポートをお読みいただくとして、本稿では本プロジェクトを通じて印象に残った点をいくつかお伝えしたい。

(有限会社ビッグイシュー日本・長崎友絵)

家賃月5500円の住居支援―ビッグイシューコリア訪問

2010年7月の創刊時9名だった販売者は約50名となり、販売の現場はコーディネーター6名で運営している。コーディネーターの業務は、販売のサポート、住宅入居支援、貯蓄の促進、IT教育、文化・スポーツプログラムのほか、市民参加の場作りなど、多岐にわたる。

販売者の3割にあたる15名が、敷金10万ウォン(約7000円)、家賃月8万~15万ウォン(約5500~1万円)程度(100ウォン=6.8円で換算)という安価で入居できる、国の「買上賃貸住宅制度」を利用し、住宅に入居している。

入居者には、サッカーやバレエのプログラム参加者が多く含まれるといい、文化・スポーツ活動が販売者の意欲にプラスに働く側面も垣間見えた。

住宅入居支援の意義について、あるコーディネーターは「安定した住まいが安定した就労を支える」と話す。日本でも住宅費補助制度を利用してアパートで暮らし、販売をしながら就職活動をして卒業した販売者のいたことを思い出し、強い共感を覚えた。

また、買替時に生じる中古スマートフォンの寄付を募り、すべての販売者にスマートフォンを貸与している。同時に、ネットリテラシーを学習する場も提供している。誌面の売場案内にはTwitterのIDを併記しており、読者とのコミュニケーションツールとして活用していることがうかがわれた。

「市民参加の場づくり」の面では、BIG SHOP(販売者が休憩できるスペースを提供するカフェなどの協力店)や、表紙を拡大したパネルを掲げてビッグドム(ビッグイシューのボランティアを指すことば)と共に行う小さなパレードなど、柔軟な発想で工夫を凝らしている。

雑誌の認知度を上げ、販売者の生活を左右する雑誌売上を向上させるための工夫や、販売者との関わりにおける心がけなど、事務所訪問の翌日以降も、スタッフ同士が顔を合わせるたびに熱心に質問が交わされた。

チョッパン相談センター―支援団体視察

市内の再開発が進む地域にある「龍山区チョッパン相談センター」を訪れた。

チョッパンとは、1泊7000ウォン(500円)程度、1室1坪強の宿泊所で、日本のドヤに近い。その利用者の9割は男性で、多くが高齢である。

当施設では、チョッパンで利用できない洗濯室やシャワー設備、簡単な診察、訪問看護などのサービスを提供する。政府の援助のもと学校法人が母体となり、4人のスタッフと4人のボランティアで運営している。

施設を出て近隣のチョッパンを見学する途中、チョッパンの住人の男性達が道端で談笑する風景を目にし、山谷や横浜・寿町の光景を思い起こした。

ボールを介して即仲間に―フットサル日韓交流試合

唯一の晴天に恵まれた29日の午後、日韓の選手・ボランティア総勢40名以上が参加し、フットサル交流試合を行った。昨年のホームレスワールドカップ・パリ大会に参加した両国選手、今年のメキシコ大会に参加する韓国選手を中心に全8試合、4時間にわたりコートを走り回った。

日韓戦では日本チームは念願の1勝ならず、次回に持ち越しとなった。最終試合では両国のコーチやスタッフも含めた全員によるミックス戦を行い、ふだんとは違う色のユニフォームを着たプレーヤー達に熱い声援が送られた。

メキシコ大会に参加する選手たちへ日本チームからエールを送る場面もあり、1つのボールを介してたちまち「仲間」になってしまうフットサルの力をあらためて実感している。

試合後の交流会では、ユニフォーム交換が行われ、バレエプログラムに参加中の韓国選手、ダンスプログラムに参加中の日本選手それぞれから、お礼のポーズとダンスが披露され、拍手がおくられた。

若者の過酷な状況に類似性―第2回日韓ビッグイシューフォーラム

28日に予定されていた本フォーラムは、台風の影響で場所と内容を変更し、30日に開催された。両国ビッグイシューの活動報告の第1部に続き、第2部は若者をとりまくホームレス問題をテーマに進められた。

まず、日本側から、広義のホームレス支援関係の運動・政策の展開が紹介された後『若者ホームレス白書』(ビッグイシュー基金)をもとに、若者ホームレス問題の状況を紹介。家庭的基盤や人間関係の脆弱さ、福祉行政につながりにくい障害や精神疾患の問題、さらにはひきこもりや養護施設出身者の卒業後のケアの問題など、隣接する諸問題との地続き性が指摘された。

つづく韓国の支援者・研究者からの報告によると、若者の雇用不安・雇用の質の低下(非正規雇用の増加、低賃金、社会保険からの排除)が不安定な住居状況に直結しているという。考試院(元は国家資格受験勉強のための、非常に狭い部屋)やネットカフェなど、質の悪い環境で生活する若者が多い。

このことには「当事者が多数集まる場には出向かない」、「社会からの烙印を嫌って、支援の対象となるチョッパンには泊まらない」といった、韓国における40―50代の典型的なホームレス像と異なる、若者独特の行動形態が影響しているという。『若者ホームレス白書』の調査に対して、「炊き出しには並びたくない」「路上で寝るよりは食費を削ってでもネットカフェで寝る」と話した日本の若者ホームレスと、どことなく似ているように思われる。

また、大学生の12.8%が精神疾患を抱えている、10-30代の死亡率の第1位が自殺であるなど、韓国の若者がぎりぎりのところまで追い詰められている実態が明らかにされた。

質疑応答の時間には、会場から質問が相次いだ。若者ホームレス支援について、心理的ケアに関するプロボノとしての協力を希望する専門家も現れた。

両国の若者が置かれている過酷な状況の類似性には注目せざるをえないものがある。しかし、いくつもの共通点があるからこそ、政策や団体同士の連携のありようなど、互いに知恵を出し合っていけば、解決に向けた光明が見出せるのではないかという希望も感じられる場となった。

日程変更により、総合的なホームレス支援施設「タシソギ支援センター」を訪問できなかったことが、唯一惜しまれる。しかし、両国の参加者が、終始友好的な雰囲気で語らい、双方の現状を知り、意見を交換しあうことで、刺激を受ける貴重な時間を過ごすことができた。

この3日間を通じて、海の向こうでも私達と共通の課題に対して、それぞれの立場で取り組む人々が数多くいることを実感した。互いに刺激しあい、協力しあえる仲間と出会うことができて、とても心強く感じている。

出典:雑誌「ホームレスと社会」vol.7(明石書店 2012.12.20発行)