ビッグイシューオンライン編集部より。2月1日発売の304号から、毎号各地のビッグイシュー・ストリートペーパーの販売者を紹介している「今月の人」を転載します。

イングランド南西部の町トーキーで、ビッグイシューの販売に全力を挙げ たくさんの常連客を獲得

 間違えないように。これはサンタクロースではない。写真に写っているのは、イングランド南海岸出身のビッグイシュー販売者、ラルフ・チャーチ(56歳)で、彼は今、スカンジナビアの大自然の中で犬ソリを操っているところだ。

304kongetsinohito2


 ラルフが数ヵ月前まで暮らしていたのは、イングランド南西部の小さな町トーキー。やさしい海風が吹くこの街は、“英国のリヴィエラ”と呼ばれ、小旅行を楽しみに多くの人が訪れる。

 失業をきっかけに7年間のホームレス生活を経験した後、ビッグイシューの販売者になったラルフ。雑誌の販売に全力を注ぎ、トーキーでたくさんのファンを獲得、ついに2014年クリスマスには1000ポンド(約14万7千円)を貯める。セーリングの心得があった彼は、そのお金で愛犬ジェスと一緒に住む小さな中古の船を購入した。「夢がかなった」と、彼は有頂天だった。

フィンランドでソリ犬の世話をする募集広告と出会う
旅の支度は常連客が支援

しかし、2015年11月、ジェスは交通事故で命を落としてしまう。
ラルフは打ちひしがれ、気力を失った。
あの時はつらかったです。
ジェスが大好きでした。みんなに愛されていた、完璧な犬でした。
私は途方にくれ、これからどう生きていけばよいのかわからなくなったんです。
とラルフ。  
悲しみのさなか、フィンランドでソリ犬の世話をする期間限定の助手の募集広告が、彼の目に止まった。「すぐにメールを送り、翌日、フィリップと電話で話をしました」。フィリップとは、フィンランド北東部にあるロシアとの国境の町クーサモで、「ザ・ボーダー・イン」という犬ぞり体験を楽しめるロッジを経営している人物だ。とんとん拍子に話が決まった。

 トーキーでは、ラルフが雑誌販売をしているセント・メアリー教会に、彼の常連客や友人たちが集まり、旅支度を支援してくれた。そして昨年10月、ラルフはロンドンのヒースロー空港からフィンランドへ飛びたった。
超現実の世界が始まったようで、私は昔の偉大な探検家になったような気がしました。
 ラルフはまったく新しい環境に飛び込んだ。「10日ほど気温が安定した日が続いたかと思うと、気温が下がり出し、雪が降って、降って、降り続いて、ひどかったです」と、彼はここに来た当初を振り返る。はやくも11月には、気温が零下20度まで下がった。

 ラルフは90頭のアラスカン・マラミュートの世話を手伝っている。犬の準備を整え、ハーネスを取り付け、餌をやり、犬舎を清潔に保つのが仕事だ。さらには、6頭立ての犬ゾリの操縦も習っている。

304kongetsinohito1


「初めて自分だけで操縦した時は怖かったですよ。指導を受けたけれど、自分が間違えたり、犬にぶつかったりしないかと心配でした。1チームに6頭の犬をつなぎます。私は犬たちを止めておくために、ブレーキを強く踏もうとして、ぐらっと揺れてしまったんです」

 次の瞬間、思いもよらないことが起きた。「ソリが前に傾き、犬たちの声がやんだかと思うと、私たちはとんでもない速さでゲートの外に飛び出していきました。地獄から逃げ出したコウモリみたいに!」

「気がつくと、雪の中で顔をうつ向けにして15ヤード(約13・7m)はたっぷり引っ張られていました。犬の前で大恥をかきましたよ。でもその後は、だんだん上手くいくようになり、犬とソリの扱いにも慣れました」

 ここでの体験は人生を変えたとラルフは言う。「こうした機会を与えてくれたオーナーのフィリップとカチャにとても感謝しています」

 彼は、ソリ犬たちとの冒険が終われば、トーキーの町へ戻るつもりだ。
「ここへ来る前にセント・メアリー教会で助けてくれた人たちにお礼を言いたい。戻ったら、みなさんに会いに行くのを楽しみにしています」 
(Andrew Burns/The Big Issue UK,www.INSP.ngo

『ビッグイシュー 英国版』
1冊の値段/2.5ポンド(約350円)で、そのうち1.25ポンド(約176円)が販売者の収入に。
販売回数/週刊
販売場所/ロンドンはじめ、英国の各都市







過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。