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経済性重視の定期検査で04年には作業員11人が死傷

原子力規制に関する法律が改正されて、国が実施する従来の定期検査が廃止され、事業者任せになる。事業者任せで安全が確保できるとは到底考えられない。法改正というより改悪と言える。筆者は、この法案を審議した衆議院環境委員会の意見聴取会に招かれ、反対の意見を述べた。残念ながら参議院も通過して4月7日に成立してしまった。

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定期検査では安全確保のために、一定の期間ごとに発電を止めて原子炉や発電機、ポンプ類などの健全性をチェックする。一定の期間とは現在は13ヵ月だが、トラブルの少ない原発については将来的には18ヵ月や24ヵ月と間隔を長くし、設備の利用率を上げる方向にある。また、定期検査をなるべく早く終わらせるために、運転中から準備を進めている。

過去に、こうした経済性重視が事故につながったことがある。2004年8月に美浜原発3号機で配管が破断、検査の準備をしていた作業員11人が死傷した事故だ。事故原因として運転開始以来28年間、一度も検査していなかったことが判明した。

定期検査の項目は多岐にわたり、国が実施する検査と事業者が実施する検査がある。後者は、かつては自主検査と呼ばれていたが、03年に定期事業者検査として法改正された。

この法改正の契機となったのが、その前年に内部告発によって明らかになった「東電トラブル隠し事件」だ。東京電力は、長年にわたってさまざまなトラブルを隠していた。機器・配管の違法な修理の隠ぺいや記録の改ざんは29件に達し、また、定期検査に合格するために不正な操作も行っていた。これが大きな社会問題となり17基の原発が順次停止、一時は全基停止状態に陥った。

しかし、東電の隠ぺい体質はその後も続く。今年2月14日には、東京電力が柏崎刈羽原発に大事故時の対応施設として建設した免震棟の耐震性が、想定される最大の地震規模に耐えられないことを2年間も隠したまま、原子力規制委員会の審査を受けていた。

隠ぺいや記録の改ざんは東電だけの問題ではない。ほかの電力会社も同様に数々のトラブルを隠していたことが02年の東電事件を契機に明らかになった。「深く反省し、徹底的に調査した結果、もう隠しごとはない」「社内あげて再発防止に取り組む」と深く頭を下げた電力各社だったが、06年、10年にも発覚し、隠ぺい体質はその後も変わっていない。

新制度は書類審査のみ
安全確保は困難に

法改正の目的は「事業者の安全確保に関する活動すべてに検査の網をかけ、懸念事項を重点的に確認するなど、メリハリのある検査とし、一層の安全性向上につなげる」ためだと説明されている。
新しい検査制度では、原子力規制委員会は書類審査のみとなる。これを補完するために、原子力規制庁の職員が任意に現場に立ち入れるようにするというが、事前通告なしの現場確認や書類確認などは法律に明記されてはいない。そもそも規制庁職員の人数や能力などから、原発施設内の活動すべてに網をかけることは実態として不可能だ。
また、悪質な検査記録の改ざんには1億円の罰金が課されるが、これは原発が運転すれば1日で稼ぎだす利益で、それほど重い罰とは言えない。
他方、20年には既存の電力9社が発電会社、送電会社、配電会社に分離され、電力会社の発送電分離が完成する。しかし、分離方式が欧米のような所有権を含めた完全な分離ではないとの批判が強い。それはともかく、発電会社は原発のいっそうの効率的活用を追求することになる。従来の体質からすれば、改ざん・隠ぺいの衝動にかられることになるだろう。
そして、書類審査ではこれを見抜くことができない。原子力規制委員会が現在行っている検査を廃止すれば、電力各社の隠ぺい体質を助長し、結果として安全を確保できなくなるのではないかと危惧する。このような体制での再稼働はとても容認できない。


(2017年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 310号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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