『スターウォーズ』続三部作で悪役カイロ・レンを、最新作『沈黙 -サイレンス-』では宣教師役を演じ、今やハリウッドの人気俳優に上り詰めたアダム・ドライバーが、自身の愛国心、政治観、スター・ウォーズ作品について語ってくれた。

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画像:http://starwars.disney.co.jp/news/20170415_01.html より


この記事は2017年5月に「ビッグイシュー・オンライン」に掲載したものです。
12月15日のスター・ウォーズ 最後のジェダイ公開をうけて、関連記事として一部更新のうえ再掲いたします。


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写真はビッグイシュー317号より
https://www.bigissue.jp/backnumber/317/


スティーブン・スピルバーグ監督の『リンカーン』、クリント・イーストウッド監督の『J・エドガー』、コーエン兄弟監督の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』など、この数年、ハリウッドの名監督による作品出演が相次ぐアダム・ドライバー。そもそもはテレビドラマ『GIRLS/ガールズ』で主人公レナ・ダナムの情緒不安定な恋人役を演じたことで有名になったが、昨年は一転して星の世界へ舞台を移し、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でカイロ・レン役を演じた。

ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(※2017年8月26日、日本公開)での控えめな演技もすばらしく、これまた名監督のマーティン・スコセッシによる『沈黙 -サイレンス-』には大きな注目が集まっている。この遠藤周作の小説を映画化した作品が年明けに公開され、『スター・ウォーズ エピソード8/最後のジェダイ』が12月15日公開予定なので、2017年はアダムの年になりそうだ。

 

9.11直後、18歳で海兵隊員に入隊した彼の愛国心

インタビューはロンドンの豪勢なホテル「ザ・メイフェア」でおこなわれた。細身で長身、柔らかい髪にダルタニアン風のひげをたくわえたドライバーは、ダークグレーと黒の出で立ちで姿を現した。数日後にアメリカ大統領選挙を控えたタイミングだったが、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の後、彼いわく「復讐」のため海兵隊に入隊したほどの愛国者を自認する彼は、2人の候補者について意見することを拒んだ。
僕が政治について何か言ったところで、変化があるとは思えないからね。
外から見ていると今のアメリカでは’総体的な崩壊’が起きているみたいだと私が言うと、「それはアメリカだけかい?」と返された。
僕には世界全体がおかしくなっているように思える。今回の選挙に限らず、世界各地で起きていることがね。でも、今のアメリカ政治は見ているだけで本当にイライラする。
18歳の時に彼を海兵隊に駆り立てた愛国心は、具体的というよりむしろ抽象的なものだったようだ。
僕が9.11の後で入隊したのは、ある意味、報復したいという強い気持ちがあったからさ。
感情的な動機を明かしてくれた。
でも意外だったのは、いったん軍隊に入ると、そんな思いはどこかへ消えてしまうってこと。政治的野心や入隊動機がどんなものであっても、一度小隊に入ったら、自分の周りの人たちのことしか考えなくなって、外の世界には目が向かなくなってしまうんだ。
2年8ヵ月兵役を務めたものの、マウンテンバイクで事故を起こし退役となり、戦地での勤務経験はない。当時は感情が高ぶっていたが、距離を置いた今は、サミュエル・ジョンソンが残した名言 「愛国心は、ならず者の最後の避難場所である」の意味が理解できるという。
これには一理あるよね。母国を誇りに思うことは当然のことだけど、それが愛国主義的な考えに走ると問題なんだ。これこそが正しい道、同じように感じない人は迫害すべきという風にね。全面的な愛国心というより、もっと微妙なもの。感情的に反応したのはうぶだったと思うし、最善の策ではなかったのかもしれない。


キリスト教弾圧下の日本が舞台、日米合作『沈黙 – サイレンス』

他人とは政治と宗教の話はしない方が良いという意見があるが、この考え方は映画『沈黙 -サイレンス-』を語るうえではちょっと不都合だ。というのも、この作品は17世紀、2人のイエズス会宣教師(アダム・ドライバーとアンドリュー・ガーフィールドが演じる)がリスボンからマカオ経由で来日し、幕府のキリスト教弾圧により棄教したとうわさされる彼らの恩師(リーアム・ニーソン)を探し出す物語だから。


『沈黙 -サイレンス-』予告動画

ドライバー自身は信仰心の厚い家庭で育ったが、大人になってからはそれほどでもないと言う。だが、この物語について知識があったことは役に立ったようだ。
聖ペトロのことはよく知っていたし、一番好きな人物なので役づくりに生かしたいと思った。17世紀の宣教師についてのストーリーだけど、他のことにも置き換えられると思う。この映画が一番伝えたいことは、信仰の危機とそのことに主人公らひとりひとりがいかに対峙するかということ。だから、信仰心がなくたって共感できると思う。

一番興味があるのは、すばらしい監督たちの作品で「演じる」こと

脚本以上に、このプロジェクトの構想を30年近く練ってきたマーティン・スコセッシという人物に魅了されたと言うドライバーだが、彼はすでにJ・J・エイブラムス、コーエン兄弟、テリー・ギリアムなどハリウッド界の名監督たちと仕事をしている。そして今後、一緒に仕事をしてみたい監督として、ペドロ・アルモドバルとミヒャエル・ハネケの名を挙げた。
大事なのは監督の芸術性。すばらしい監督たちと仕事をすることに一番興味がある。それが俳優として、僕の唯一の戦略だね。
しかし、監督業や製作側にまわることは一切考えておらず、あくまでカメラの前で演じていたいと言う。
製作サイドは会議も多いし、大勢の人と話さなきゃならないだろ。それは苦手なんだ。監督も、うまくいかないシーンがあったら何がどうダメなのかをきちんと説明し、次々と質問に答えなきゃならない。すばらしい監督にたくさん会ってきたけど、あんな世界は自分にはできないと思う。だから、僕は演じる側でいいんだ。
同じように彼は、セレブが自伝本を出版したときにつきものの詮索も避けたがっている。レナ・ダナム(人気ドラマ『GIRLS/ガールズ』の製作・監督・脚本・主演。この作品でドライバーは主人公のボーイフレンド、アダム・サックラーを演じた)が自伝本『ありがちな女じゃない (原題:Not That Kind of Girl)』を出版した後に起きた騒動について触れると、ドライバーはため息をついた。
自伝を書く気は全くない。それは、今回の騒動とは全く関係ないこと。僕はただ言葉を綴ることが怖いんだ。僕の話や僕が語りたいことを聞きたい人がいるとは思えないし。

カイロ・レンを演じることと現在の心境

昨年、スター・ウォーズ続三部作の第1章 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で意地の悪いカイロ・レンを演じたことで一躍ハリウッドスターにのし上がったドライバー。正直、新三部作(99年から05年に公開されたエピソード1-3のこと)がつまらなかったこともあり、今回の作品を成功させることにプレッシャーはなかったかを聞くと、「スター・ウォーズならではのスケール感、そして大勢の人が見る作品というプレッシャーは常にあった」と語った。


映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

作品の中で、彼はエディプス的な激情からハリソン・フォード演じるハン・ソロを殺してしまう。何百万もの人々の心を引き裂き、殺人者として人々の記憶に残ることをどう思っているかを聞いた。
僕の友人の子どもたちは、なぜ僕がハン・ソロを殺したのか理解していないみたい。でも秘密にしておくほうがおもしろいなと思って。妻にも本当のところは話してないし、劇場でみんなの反応を見るのも楽しい。
一番の衝撃的シーンについて、こう語った。

彼の次回作「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」は2017年末に公開される。彼が演じるカイロ・レンは殺人欲が高まっているので、いっそのことC-3POやジャー・ジャー・ビンクスなどうっとうしい登場人物をすべて殺してしまったらどうかと私が言うと、今日一番の大笑いを見せ、大きな声で「アハハ!それはダメだろ!」と言った。

最後に彼は、有名人たちの衝撃的な死、政治的激変、戦争、難民危機、生態学的混乱に事欠かない一年だったが、暗闇の中でもできるかぎり前向きなものを見出していきたいとスター・ウォーズを引き合いに出しながら語り、インタビューを終えた。
政治には本当にがっかりさせられてるけど、希望が見えない絶望的な時にも人は積極的に希望を探すべきだ。ひどい状況ではあるけど、僕はまだ自分の国を信じているし、何とか適応していく術を見出していきたい。
それは再びアメリカを偉大な国にするため、もしくは新しい名句にしたいのかと聞くと、乾いた笑いをこぼして言った。
僕はそんな名句を作ったりしないよ。

文:エイモン・フォルデ
INSPのご厚意により / The Big Issue UK
翻訳監修:西川由紀子


興味を持った方は、「ビッグイシュー日本版」317号のスペシャルインタビューもぜひご覧ください。
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