「今、本屋で図書館を考える」トークイベントレポート2を読む>


土田:いろんなキーワードが出てきましたが、綾野さんのほうで新たに感じられたこととか、何かあれば。



綾野:今、伊丹市内の本屋さんといろいろタイアップして事業をやらせていただいてます。もっと広げたいなと思っていたので、ぜひジュンク堂書店さんとか、『ビッグイシュー』さんとか、いろいろタイアップできたらなと。ずっと市民の方々と一緒につくりあげてきた図書館で、それは今後も変わらないですけど、もう少し持続的に何かやっていかなあかんな、ということを考えたときに、やっぱり企業の方とのタイアップというのは必須、というのが率直な感想です。

ベタな話だと、ちらしを棚に置かせていただいたりとか、ビブリオバトルのプレゼンの大会なんかもできたら。書店員さんの勧める本ということで、ビブリオバトルなんかを「ことば蔵」でやっていけたらな、と思ったり、『ビッグイシュー』さんがもしよろしければ、「ことば蔵」でなんか展示とかしていただけたら、「ことば蔵」もまた持続的に面白いことをやっていけるかなと思ってます。



土田: ありがとうございます。会場の方から何かありませんか?



男性A:図書館に勤めてます。『ビッグイシュー』さんはこれまで図書館で何かイベントとか、トークショーとかされたことあるんでしょうか。



ビッグイシュー基金スタッフ:東京のほうでは、司書や図書館員の方が集まる講座などで、ホームレス問題やビッグイシュー基金の取り組みについて紹介させてもらったりしています。



代表佐野:その他で言えば、東京都の日比谷図書館なんかを中心に研究会があります。そこでビッグイシューを通じて勉強会をしました。その時出た話題が何かというと、最後に編集長がおっしゃっていた、ホームレス状態の人たちと図書館がどう付き合うか。これはさっきのバンクーバーとサンフランシスコの例で申しますと、日本ではまだこういうポジティブな付き合い方がなく、試行錯誤ですね。ただし、そういった勉強会の積み重ねで、『路上脱出ガイド』の設置などが、少なくとも東京や大阪の公共図書館では始まったわけであります。



土田: また「こんなイベントをやったらいいんじゃないか?」というアイデアがあったら、教えていただけると、すごくうれしいです。



男性B: 「ことば蔵」には『ビッグイシュー』は置いてないんですけど、綾野さんはこれから置いていく計画とかあるんでしょうか。私自身が『ビッグイシュー』さんを紹介するイベントを考えてる最中で、交渉したいと思ってるんですけど、『ビッグイシュー』さんも「ことば蔵」でイベントをしたいと思ってますか。



水越:はい。



綾野: 『ビッグイシュー』を置くことについては課題などを整理したいです。この方(男性Bさん)は、運営会議にもよくお越しいただいていておられます。今までも『ビッグイシュー』のことはいろんな形で気に掛けて、運営会議で提案していただいてるんで、何か本当に実現していきたいと思います。



土田:あたたかいサポート、ありがとうございます。なかなか試し読みが難しいということもあるので、図書館に置いていただくのも、知るきっかけの一つとしてありがたく思っております。


「開館時間の変更とイベントの内容で、利用者層に変化があった」

男性C: いま、図書館とホームレス状態の方のこととか、ソーシャルワークみたいなものとの関係性の話があったんですけど、伊丹市の「ことば蔵」はリニューアルしたタイミングで、利用者の変化とか、もしかしたら困難を抱えてらっしゃる方の参加があるとか、何か気付いたことがあれば教えてください。



綾野:リニューアルして、平日夜は開館時間が延長になりましたので、そういう意味で会社帰りの方が増えてるかなという気はします。実際に運営会議も、会社にお勤めの方がお越しいただいたりする。実際にお勤めされてる方が、今やったら、「プレミアムフライデーにこんなことしたい」みたいな企画を出していただいたり、実際に講師に立っていただいたり、ということもありますので、変わったなという点では、現役世代の方が少し増えたのかな、という感じがします。

「英語で子育て交流会」などの、子どもさん向けのイベントもあり、子どもたちがよく来てくれてるかな、という感じがします。「読書介助犬」 (*)のイベントをやったりもしたんですが、子どもたちに来ていただいて、犬に触れたり、話し掛けたりしてもらいました。子ども向けのプログラミング言語を学ぶ「Scratch Day」ではシステムエンジニアの方が実際にやってくれたりしたんですけど、すごくたくさんのお子さんに来ていただきました。子どもの利用というのは、中心市街地に来たということもありますし、多くなったかなと思います。

(*)読書介助犬とは、自分に自信を持てない子どもが、犬を読み聞かせをするセラピーにおいて、本を読む子供に寄り添って耳を傾ける犬のこと。

「定時制高校の生徒が、図書館で読んだ『三国志』の全巻セットを目標にアルバイト」

女性D: 微力ながら『ビッグイシュー』を応援させていただいてる者です。図書館と本屋さんというのは、私はすごく共存するものだと思ってます。というのは、私は定時制高校の子どもたちの支援をしているんですけど、その子たちに話を聞くと、いわゆる居場所のない子どもが、朝から晩までずっと図書館にいた、ということがありました。最初は『三国志』の漫画から入っていって、だんだん年を重ねるごとに、ちゃんとした文庫本に入っていって、最終的にどうなったかというと、高校に入ってアルバイトして、これを全部自分のバイト代で買いそろえたいという夢を持って、頑張ってやって、高校3年生になったときに「全巻そろえました」という子がいてたんですね。それが、私、すごく印象に残ってて、今日のテーマにぴったりだなと思って、ぜひ今日は皆さんのお話を聞かせていただきたいと思って、参加させていただきました。



土田: ありがとうございます。ビッグイシュー304号の図書館特集で取り上げた「武蔵野プレイス」というところは、図書館をつくるときに「コンビニで座って、どこにも行く場所がなさそうな10代の子どもたちの居場所がつくれないか」という市民のアイデアから、10代専用のフロアをつくったそうです。そういった場所が増えていくと、素敵だなと思います。



女性E: 日本点字図書館のEと申します。目が不自由な方の本をつくって、貸し出している図書館です。「ことば蔵』では何か障がい者サービスで補助的なことをなさってますでしょうか。



綾野:今日、イベントにも来ていただいてる方に運営会議に来ていただくようになってから、障がい者の方向けのイベントが増えたなというのは一つあります。こないだの読書介助犬のときもそうだったんですけど、目の不自由な方がお越しいただいたりして、デイジー(*1)はやってるんですけど、サピエ(*2)、うちのほうで登録していないとご指摘いただきまして、来年度から予算要求もしていって、予算が通らへんのやったら、何か方法を考えなあかんと思ってます。それまであんまり企画とか展示とかもしたこと、正直なかったんですが、彼が来られてから、障害をお持ちの方のイベントも提案してくださいますし、気付かへんかったことを、気付かせてくださって、今は催しも多くなっています。障害をお持ちの方が、図書館のほうに足を運んでくださる形になってますので、地域課題の一つでもあると思いますので、そこは引き続き力入れてやっていこうと思います。



*1: デジタル録音図書。
*2: 視覚障害者など目で文字を読むことが困難な方々に対して、さまざまな情報を点字、 音声データなどで提供するネットワーク。




土田: 最後に皆さんのほうから一言ずついただければ。



福嶋: 貴重なご意見、ありがとうございます。図書館と書店は共存するものだ、というのはすごく心強いお言葉で、図書館と書店は違うからこそ一緒にやれる、というのを感じました。

図書館と書店と何が一番違うかというと、流れてる時間が違うんですね。書店というのは、今日出た本、わっと平積みして、どんどんアピールして売る。あるいは週刊誌、月刊誌も当然最新刊を売ってるわけですね。本は品切れが速いですし、雑誌もどんどん入れ替えていってしまいます。少し前のことを知ろうと思うと、なかなか書店ではそれができない。図書館にいったほうが、少し前に流行ったこととか、あるいは少し前に話題になったことの本を探すのに、非常に探しやすい。

今いろんなところで増えてきてる古書店は個人でやられてるところが増えてきてます。この近所にも実は、「本は人生のおやつです!!」という非常にユニークな、30代の女性1人でやってる店があります。

古書店は読者の本を売るところなんですね。例えば団塊の世代の方が、本はもうこれ以上読まないと、ごそっと売りにくる。あるいは、亡くなられた方のご家族が売りにくるので、ある一定のつながりのある本が、どーっと入ってきて。その後で本が売れていくと、「この本を買ってくれるお客さんがいるんだったら、こっちも持ってきたわ」というふうに、お客さん同士で本のやりとりができる。この時間というのは独特な時間で、単に古いだけじゃなくて、また新しく、かつてあった本に命を与えられるような場所でもある。

ですからそれぞれの業態で、本に関わる業態というのは、全然別々の時間を持ってるんじゃないかな、という気がします。売る時間というものを大事にしながら、本というものを介して立体的な言葉、文字、物語を伝えていくという役割。それはそれぞれが違うからこそ共存してるんじゃないかな、というふうにいつも思ってます。



綾野:伊丹市立図書館の「ことば蔵」、昨年「Library of the Year」という賞をいただきまして、市民の方とずっと一緒にやっていくというスタンスは変わりませんが、企業の方、ジュンク堂さんや『ビッグイシュー』さんとか、そういう企業の方とのつながりで、もう少し面白いことできないかなと思ってます。

あと、学校との関わりが少なかったんですね。地域の小学校とか中学校の生徒さんが、通学路で帰っていかれるんですが、小学校は仕方ないかもしれませんが、中学生も図書館の前を素通りしていったりするんで、さみしいなと思っていたので、ちょっと中学校や小学校に働きかけて、地域の学校とのつながりをもって、「ことば蔵」のファンになってくれへんかな、と思ったりしてます。

それと、図書館の司書が「地方創生レファレンス大賞」を狙いたいという野望があるそうで、それも目標になっていいかなと思ったりしてます。


また、清酒発祥の地と言っておきながら、なかなか図書館の中でお酒が飲めない。「ことば蔵」という名前は、図書館が剣菱という酒造会社の蔵の跡地にあることもあって「ことば」と「蔵」ということで、公募で出てきた愛称なんですが、「ことば蔵」と言っておきながら、開館のときも鏡開きまではしたものの、お酒を飲むのは外でね、ということになりました。いつか図書館法とか図書館条例の間を縫って、お酒が飲めたらなと思ってます。

そして、古書店を伊丹市内で始められた方がいらっしゃいます。いわゆる新刊を売ってる本屋さんとか、古書店の方とか、もちろん「ことば蔵」と一緒になって、ブックタウン協定みたいな感じで、真の意味で共存できるようなことができたらいいね、という妄想を話しています。



水越: 図書館は無料だから何時間いてもいい。座る場所もある。ホームレス状態の人も行き場のない若者でも誰でも行けるという、そんな公共機関は図書館しかないと思います。さっき夜間高校生の方が、図書館で本好きになられて、本屋さんで本を買うと。すごく時間がかかるみたいに思いますけど、図書館が本好きを育てるベースの役割を担っていただける場所じゃないかなと思います。

図書館特集の1回目の菅谷明子さんのインタビューでも、「図書館がなかったら今の自分はなかった」という方がいらっしゃるということでした。ことば蔵のチラシにも「図書館で人生が変わった」ということが書かれてますけど、そういう奇跡が起きる場所でもあるのかなと思います。 これは宣伝ですが、『ビッグイシュー』は図書館購読という、図書館にも置いていただけるようにという制度もございますので、ぜひ図書館で『ビッグイシュー』をちらっと見た人が、いずれ関心を持ってもらえたらうれしいなというふうにも思ったりします。

本の特集もよくやるんですね。図書館だけではなくて。ぜひお二人にもお力になっていただきたい、と思うことがあるかもしれない、どうぞよろしくお願いいたします。



土田: 最後の最後に、このジュンク堂大阪本店の近くで『ビッグイシュー』を販売している販売者さんからちょっとメッセージがあります。

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販売者:堂島で販売してます、吉富といいます。本屋さんの本にお勧めのコメントが一言二言書かれてるのを見て、自分の販売のグッズを考えることが多くあります。本屋さん、図書館の店員さんにも、もっと本を好きになって、いろんなアピールをしてもらえたらな、と私は思ってます。

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販売者:大阪梅田の歩道橋で販売している、濱田と申します。私は創刊のころ、2003年9月からやってますので、14年やっております。私は公共図書館に13年ほど勤務しておりましたので、司書の資格も持っております。私も販売させていただいているのは、図書館の経験を生かしてもらってるのかなと思っています。



(拍手) 土田: 今日は皆さん、長時間ありがとうございました。ぜひ図書館、本屋さん、『ビッグイシュー』をぜひこれからもよろしくお願いいたします。イベントを終わりにいたします。ありがとうございました。

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