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最終処分地適正地図、遅れる政府の公表

「どうする! 原発のゴミ・全国交流会」が6月3、4日に岡山市で開催され、全国21都道府県から約180人が参加して熱心な討論がかわされた。初日は基礎的な情報共有、2日目は意見交換という形で進行した。


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▲岡山で開催された全国交流会の一場面


この時期の開催となったのは、政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分地に関する適性地図を2016年中に公表するとしていたのが遅れ、この夏頃になりそうだと報道されていたからだ。

高レベル放射性廃棄物は、原発の使用済み核燃料からいわゆる死の灰を取り出し、ガラスと一緒に固めたもの。極めて放射線のレベルが高く、人が側にいれば十数秒で死に至る被曝をするほどだ。しかも、この放射能が無視できる環境レベルまで減るのには億年単位の時間が必要で、これを人間の生活環境に漏れてこないように隔離しておくことは現在の技術では不可能だ。

そんなに厄介なものなら、これ以上作り出さないことが最優先されるべきだ。日本学術会議も発生上限を確定することの重要性を政府に提言している。しかし、政府は原子力の継続使用を考えているので、漏れ出てきても健康に深刻な影響が出ない程度にすることで済ましている。それとて机上の計算で確実ではない。

政府は00年に高レベル放射性廃棄物の最終処分法を作った。考えられている処分方法は300mより深い地中に埋め捨てにするというもので、最終処分は地層処分とも呼ばれている。

法律に基づいて処分地選定と処分を実施するための組織として「原子力発電環境整備機構(以下NUMO)」を設立。処分地の選定は3段階で進められる。最初は文献調査、次にボーリングなどによる概要調査、最後に坑道を掘って地下深部を把握する精密調査を実施する。NUMOは02年から全国の自治体に処分地の公募を始めたが、未だに文献調査に応募する自治体が出てこない。もっとも07年に応募書類を提出した自治体があったが、町長リコールの反対運動が起きて新町長が取り下げた。

対話活動を行い、自治体に
調査の申し入れ行う方式を導入

この事件がきっかけになり、政府が自治体に申し入れる方式も併用することとなった。そして、13年12月には最終処分関係閣僚会議が「科学的有望地」を地図で示し、その地域に集中的な理解活動を行いながら文献調査の申し入れを行うことを決めた。しかし、今年になって政府による文献調査の申し入れは処分地決定と同等に受け取られる可能性があるという理由で、「科学的有望地」は「科学的特性、地図は議論の出発点」と変更された。しかし、それを決める要件や基準は変わっていない。

「科学的特性」の内容は、火山や活断層を避けることは必須で、著しい隆起や浸食の大きい地域、地下の地温が高いと予想される地域などが除かれ、その上で、輸送の安全のため沿岸からおよそ20㎞内が好ましいとされた。NUMOはこの好ましい地域を中心に、こまめに対話活動を行い、調査を受け入れてくれる自治体を探す計画だ。地下深部の状態などは精密調査をしてみないとわからない。ところが、その段階で避けるべき条件が決まっていないので、文献調査が始まるとそのまま最終処分地として決定される恐れがぬぐえない。

こうした基礎情報の提供の他、研究施設がある北海道や噂のある地域から誘致の動きや反対運動の報告を受けた。翌日のシンポジウムでは「脱原発首長会議」事務局長の上原公子さんが自治体の自己決定権の重要性を強調。また、岡山のパネリストは地域内での動きをキャッチすることの重要性を体験に基づいて報告。岡山では30年も前に建設業者を中心に処分地誘致へ向けた活発な動きがあり、これを封じてきた歴史がある。しかし、今また、適性マップ公表の政府発表を受けて誘致に向けた動きが見られるという。もっとも、県内全自治体は現時点で受け入れないことを表明している。

交流会では、再稼動や原発新設の動きがあるが、厄介な原発のごみをこれ以上は作り出さないこと、そして、すでにある廃棄物は処理・処分が必要で、当面は貯蔵を続けながら、より安全な処分方法を研究する必要がある、と確認して幕を閉じた。

(2017年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 314号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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