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国連加盟国の3分の2が賛成採択。なぜ、日本は不参加?

被爆72年目の8月5日〜9日にかけて、原水爆禁止日本国民会議が主催する広島世界大会と長崎世界大会に参加した。主催者による数々の分科会に加えて、自主的に開催される催しもたくさん開かれていた。


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核兵器禁止条約の意義と今後を話し合う催し

今年は、7月7日に「核兵器禁止条約」が国連で加盟国のおよそ3分の2の賛成で採択されたことを大会参加者で喜びあい、同時に採択を拒否した日本政府を批判した。核兵器国の圧力にもかかわらず、これだけ多数の国々が賛成したことは画期的だといえる。核兵器はひとたび使用されたら、一瞬にして数十万人の命を奪い、被曝の影響は数十年におよび、核の冬と呼ばれる気候変動が起きて世界的な規模で億単位の餓死者が出ると分析されている。核兵器の使用は人道上許されないとする考えが広がった結果の採択であった。国際情勢の緊張から核兵器が使われる危機感が高まっていることも採択を後押しした。
同条約はあらゆる核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、使用、使用の威嚇、そして譲渡、援助、奨励などを禁止している。
長崎の田上富久市長は9日の平和宣言の中で、「一日も早い参加を目指し、核の傘に依存する政策の見直しを進めてください」と日本政府に呼びかけた。「核の傘」とは具体的には米国の核兵器によって日本を守る政策のことであり、日本が第三国に攻撃され深刻な事態に陥った時に米国の核兵器で守ってもらうのである。これこそが日本政府が賛成しなかった理由だ。これでは政府の核廃絶は単なる願望に終わってしまう。条約が採択された今こそ見直しのチャンスである。

台湾は25年までに原発廃止
韓国も脱原発政策を表明

 核廃絶への流れが強まる中、アジアでの脱原発の機運も高まっている。5日に開催された国際会議では台湾と韓国から脱原発政策の報告があった。
 台湾のゲスト、徐光蓉台湾大学教授は、16年に国民党から政権を取り戻した民進党(蔡英文総統)が脱原発法を制定、25年までに原発を廃止する法律が成立したと報告。台湾では6基の原発が稼働、新たに日本から輸入した2基の建設を進めていた。しかし、建設中の2基は00年に政権を取った民進党が廃止を決定、脱原発政策を打ち出したが、国会ではなお国民党が多数で法律の制定には至らなかった。その後、原発は完成したが、国民党の馬英九総統は国民の強い反対の声を受けて稼働を認めなかった。今回は議会内も多数派となり脱原発法が成立した。しかし、代替する再生可能エネルギーの導入計画がしっかりしていないなど、課題は多いという。
 また、韓国緑の党脱核特別委員会委員長のイ・ユジンさんは、今年5月に就任したムン・ジェイン大統領が脱原発政策を表明したと報告。具体的には韓国島南部にある月城1号機の早期廃止と建設中の新古里5・6号機の中止だが、後者は国民による議論を経て決定する方針だという。韓国は21基の原発が稼働中で12基が建設中という原発大国であり、この決定に対して原子力産業側からは批判の声があがっているという。
 両国ともなお課題は多くあるが、脱原発を政策として決定したことに大きな意義があり、その方向は変わらないだろう。
 国際会議の日本からのパネリストとして登壇した吉岡斉九州大学教授は、中国も原発建設は計画より大きくスローダウンし、再生可能エネルギーの急激な進展には目を見張るものがあり、東北アジアに脱原発の機運が高まっていると分析した。
 6日朝には中国電力の本社前で、島根原発の再稼働に反対し、上関原発計画の白紙撤回を求める要請行動が行われた。同計画の発表は実に35年前のことであり、地元祝島の島民たちの理解が得られずに今日に至っている。今では、山口県内の各自治体がこの計画に反対の声をあげている。建設の意義や経済性などを現時点で再評価すれば、この計画に合理性はなく建設の意義がないことは明白になるだろう。
 日本もアジアの機運に呼応して一日も早い脱原発をめざしたい。


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原爆投下から72年を経た広島・原爆ドーム前で

 (伴英幸)

(2017年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 316号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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