電通がその市場規模について報告書を出したり、映画やドラマの題材になったりなど、かつてと比べるとかなり世間にその存在が認知され、理解が進んできたLGBT。

とはいえその存在を頭では理解していたとしても、実際に家族や親しい友人、同僚など周囲にLGBTの人がいないと「LGBTについて深く知る」「その心情に寄り添う」きっかけはなかなか少ないのではないだろうか。

今回は、1年前に家族や同僚、世間にゲイであることをカミングアウトした中村俊介さんにLGBTについての基本的なレクチャーをいただきつつ、打ち明けた時の周囲の反応や、打ち明ける気持ちになった理由について話を聞いた。

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中村 俊介(なかむらしゅんすけ)

1984年東京都生まれ。
中学の頃に、同級生が女の子に興味を持つなかで、自分はみんなと違うようだと気づく。高校・大学・新卒で入社した会社と転職した会社で、ゲイであることを隠してきたが、 “大切な人へのカミングアウト”を支援するNPO法人バブリングで活動するうちに考えが変わり、2016年から徐々に周りにカミングアウトし始め、2016年年末に家族や同僚、・友人、そしてNHKの番組「バリバラ」でカミングアウトした。

Q:まず、LGBTの基本について教えてください

僕がこれまで得てきた知識でお話しますね。芸能人でいうとマツコ・デラックスさんもはるな愛さんもKABAちゃんもみんな同じ「性的マイノリティ」カテゴリにくくってしまわれることが多いのですが、LGBTにもいろいろな種類があるんです。図を使って説明しますね。

セクシャリティマップ
電通ダイバーシティ・ラボ制作の「セクシュアリティマップ」より

まず、「カラダの性」があります。
この図で言うと、カラダの性が男か女か、ということ。実際にはそのほかに、男性とも女性とも言えない体だったり、おおむね男性のカラダをしているが、一部が女性にしかない要素を持っていたり、その逆というケースもあります。

そして、「ココロの性」。それは「カラダの性」と一致している場合もあれば、そうでない場合もあります。僕の場合は、男の体で、男の心で、ココロの性とカラダの性が一致していないわけではありません。

そして、「スキになる性」があります。ここが、男性だったり、女性だったり、両方だったり…ということがあります。僕の場合は「スキになる性」が男性なので、「1」にあたるんですね。

この図のとおり「男性の体で、心は女性、スキになる人は女性」(5)ももちろんいます。
その場合は、男性の体であっても、「レズビアン」の人です。
体の性ではなく、ココロの性とスキになる性の組み合わせで「ゲイ」か「レズビアン」を判断します。

たとえば「女性の体で、心は男性、スキになる人は男性」のゲイ(7)の人と「男性の体で、心は女性、スキになる人は女性」のレズビアン(5)の人が付き合っていたら、はた目には特に珍しくないカップルに見えるかもしれませんが、実はちょっと珍しいカップルだったりするわけです。

こういった、「性的マイノリティ」であるLGBTにあたる層は、7.6%、つまり13人にひとりはいる、とされています。(※「電通ダイバーシティ・ラボ」調べ)

Q:家族・周囲へのカミングアウト、反応は

昨年の冬、父・母・姉・姉の夫・兄が集まった時に、実は…と切り出しました。
姉と姉の夫は、「いいんじゃない?」とすぐに受け入れてくれましたが、母はかなりビックリして、戸惑ったようでした。
もちろん知識としては持っていたようなのですが、「それはテレビの中のこと」「ドラマの中の世界」のように思っていたようで、まさか自分の息子が…?なぜ…?と混乱したようです。

そして今年の夏、Facebookでも公開しました。(その時の投稿内容はこちら

 そしたら、1,000を超える「いいね」・「超いいね」と、300を超える、ほぼすべてが肯定的なコメントをもらったんです。「俊介は俊介だよ」「何も変わらないよ」といったコメントが多くて。自分ももちろんうれしかったんですが、僕の親もそれを見て、とても嬉しかったようです。カミングアウトに対してポジティブな反応ばかりだったのを見て、かなり安心したんでしょうね。

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その後、職場でもカミングアウトしました。事前に伝えていた人も3、4人くらいはいたのですが、朝礼のなかで30~40人くらいの前で話したんです。社員交流の促進を目的に、5分くらいのプレゼンタイムという機会が持ち回りであるので、僕の番のときにドキドキしながら「じつは僕はゲイです」とカミングアウトしました。皆さん、「え?」と戸惑い、そのときはシーンとなっていましたが、オープンにしてよかったな、と思います。

僕の仕事は保険の営業職なんですが、同僚に「お客さんにLGBTの方がいらっしゃるんだけど、こういう場合はどうお話したらいいんだろう」という相談を持ち掛けられたり、本社のダイバーシティ推進プロジェクトに入れてもらったりなど、僕が感知できるマイナス面はまったくないといってよく、新しい関係がつくられていった感じがします。

Q:32年間言えなかった理由と、カミングアウトした理由

最近でこそLGBTの存在が認知されてきましたが、自分が中学・高校の頃だと、テレビの中でも現実でも、ゲイをネタにしてふざけたり、それを「そんな趣味ねぇよ(笑)」みたいなノリが普通だったので、「人に言ってはいけないことなんだ」「拒絶されてしまうんだ」という刷り込みがずっとあったんだと思います。言っていいことなんか絶対ない、と思っていたので、ずっと隠し通すつもりでした。

年頃になってからは、何かというと「彼女いるの?」と聞かれます。「いない」と答えると「え~、どうして?」とさらに突っ込まれるのが面倒だったので、かわし方がだんだんうまくなっていきました。実在しない架空の彼女のキャラクターを仕立て上げて嘘をついていたこともあります。そうすればそれ以上突っ込まれることはあまりないので(笑)

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でも僕は人と話をするのが大好きなのに、「大事な人にも本当のことを言えない」というのは心のどこかに申し訳なさというか、居心地の悪さを感じていました。でも、公開できるわけもないと思って、自分の気持ちを押し殺して、感覚を麻痺させていました。

転機となったのは、2年前の「NPO法人バブリング」という団体との出会いです。 この団体は、LGBTに限らず、「目に見えない生きづらさを抱えた人が大切な人へのカミングアウトしたくなったとき、それを支援する」という団体なのですが、その団体をサポートするようになって、いろんな人の生きづらさと出会いました。

LGBTはもちろん、吃音や依存症や不育症、児童養護施設出身、難病など…。
その方々のカミングアウトを支援する団体において、自分がカミングアウトしないと信頼されないよなあ…と思うようになっていったんです。

それで、家族に、友人に、同僚にカミングアウトしていきました。

職場へのカミングアウトは、チームで働くことの多かった前職ではしづらかったかもしれませんが、今の職場は割と「一人でやる仕事」も多く、言いやすかったという面もあると思います。どんな人にもカミングアウトしたらいいよと言うつもりはありません。
カミングアウトしたくなった時に、それを支援したいな、という気持ちです。

Q:LGBTを許容できない人のマインドの根底には何があると思いますか?

LGBT=「エロ」「性的な趣味」などの「人前で言うべき話ではない話」と捉えているのかな、と思うことはあります。LGBTは環境や教育によってなるもの、とか、治るもの、だと思ったりしているのかもしれないですね。

あとは、「男は男らしく」「女は女らしく」と言って厳しく育てられて来た人にも、受け入れられがたいのかなあと思うことがあります。

Q:家族や大切な人へのカミングアウトの際に、相手がこういう反応だったらいいなと思う理想の形はありますか

『彼らが本気で編むときは、』という生田斗真さんと桐谷健太さん出演の映画があるのですが、トランスジェンダー役を演じる生田斗真さんの母親役、田中美佐子さん演じるフミコのような対応が理想ですね。

(『彼らが本気で編むときは、』予告動画)
   

「あなたの好きなもの、なりたい姿を肯定するよ」という姿勢があれば、どんな人も安心してカミングアウトできるのかなと思います。

『彼らが本気で編むときは、』公式サイト
http://kareamu.com/

Q: 「あなたの好きなもの、なりたい姿を肯定するよ」は、LGBTに限らず大切ですね?

そう思います。最近よく「ダイバーシティ」という言葉が使われますが、これは「違い」に対して寛容、優しい、包摂的であることなんだと思います。

LGBTは、13人~20人に一人はいると言われています。クラスや職場にも、かなりの確率で存在するので、「このコミュニティの中にもいるかもしれない」という気づきを入り口に、様々な「違い」を受け入れ、平和に過ごしていく人々を増やしていくという意味ではとてもいい題材だと思っています。

保護者や先生が、まずはその存在を知り、受け入れ、配慮した行動をとることで救われる子どもたちはとても多いと思いますね。

Q: 保護者や先生が、LGBTへの理解を深めるのにオススメな書籍、サイト、イベントはありますか

LGBTERという、当事者へのインタビューサイトや、海外ではドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ』などがおススメです。

(『ジェンダー・マリアージュ』予告動画)


そして、僕が関わっているNPO法人バブリングが10月に開催するイベント「イチゼロイチイチ」も、LGBTの人にも、その周囲の人にも、まったく関係のない人にもオススメです。

今年のテーマは「教育とカミングアウト」です。

「マイノリティ」を体感できるワークショップや、当事者の気持ちを表した展示、カミングアウトした生徒と先生のトークセッションなど、教育関係者の方はもちろん、そうではない方にもご来場いただきたいな、と思います。

「知る」ことは、優しさにつながると思うので、まずは気軽にお越しいただければと思います。
イチゼロイチイチ
2017年10月9日(祝・月)
東京都渋谷区恵比寿西1-33-8 コート代官山B1
03-6408-9085
詳細・チケット購入はWebサイトから 
http://npobr.net/1011/

――
「カミングアウトすることで新しい世界が開けた」という俊介さん。「カミングアウトを強制するわけではないけれど、僕は、生きづらさを抱えている人の“希望”になりたい。そのために何かできることがあれば、何でもやりたいと思っています。」と明るく笑顔で話す姿が印象的でした。
ぜひ上記イベントもチェックしてみてくださいね。

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  https://www.bigissue.jp/backnumber/307/








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