元アメリカ合衆国副大統領で気候変動問題に熱心に取り組んでいるアル・ゴアが、映画『不都合な真実』の続編を制作し、あらためて今日の世界が直面している最大の課題をさらけ出した。
不都合な真実2 予告編<11/17(金)公開>
69歳になった今も精力的に地球温暖化問題に取り組むアル・ゴア
10年以上前に撮影されたものだけに色褪せて見える映像だが、2000年当時のアル・ゴアは今より細身で、後ろになでつけた髪はまだ茶色い。ジョージ・W・ブッシュが正式に大統領に選ばれ、苦い敗北を認める事態に直面した時の映像だ。
あれから17年が経った。ゴアとのインタビューを控えていた私は、あの選挙結果が違っていたら、世界は今頃どうなっていただろうと空想にふけってしまった。さまざまなバックグラウンドを持つ人々が笑顔で手をつなぎ地球のまわりを囲んでいる…そんな妄想を頭から消し去ると、現実に引き戻された。
そう、ゴアは選挙で負けたのだ。しかしその後の彼は、大統領選に劣らぬ熱心さで「気候変動」という大義に熱心に取り組んできた。
2006年にドキュメンタリー映画『不都合な真実』で大ヒットを記録してから10年以上が経つが、69歳になった彼のバイタリティは全く衰えていない。事実、映画の続編、その名も『不都合な真実2:放置された地球』を制作したのだから。
居心地の良い会議室で、ゴア本人から新作について話しを聞いた。お腹まわりはいくぶん肉付き良くなり、すっかり白髪頭だが、あるべきところに落ち着いているというオーラが感じられた。
ゴアは昔ながらの(元)政治家タイプで、気さくで、よく笑い、好意的だ。おなじみの南部人特有のゆっくりした話し方で、今回のインタビューは私のおかげで実現したかのように感謝してくれた。
アームチェアにもたれて足を組んだ彼のスーツの下から黒のカウボーイブーツがちらりと見えた。今の状況にとても満足し、自分の信念に熱心に取り組むことに何のためらいもないといった様子だ。
われわれは、かつてないほどの大きな課題に立ち向かうことに、もっと意識を向けなければ。
淡々とそう言った。
ドキュメンタリー映画『不都合な真実』がもたらした影響
『不都合な真実』の内容も、今日ではそれほど過激的に映らない。温暖化が進むこの地球について多くのパワーポイントを用いてデータと科学を提示し、それに親父ギャグと沸騰した鍋に入れられたカエルのアニメを加えたものだった。気候変動は人類が引き起こしたものであるという考えを世に広め、世界規模の気候変動問題に取り組む顔としてゴアは一躍脚光を浴びる存在となった。
2007年にマーケティングリサーチ会社「ニールセン」とオックスフォード大学が実施した調査によると、この映画を見た66%の人が「気候変動問題について考えが変わった」と回答した。
同年、ゴアは「気候変動に関する政府間パネル」と共にノーベル平和賞を受賞し、気候変動の危機解決に取り組む非営利団体組織「クライメイト・リアリティー・プロジェクト(Climate Reality Project)」を立ち上げた。
今あらためて『不都合な真実』を見ると、そこで語られている科学は明らかだ。もう分かりきったことでは?続編を作る必要はあったのだろうか?でも腹立たしいことに、今日でも当てはまることが相当あり、その認識を持つことが大切なのだ。状況の変わらなさは心が痛むほどだが。
われわれは、テロ以外の脅威に立ち向かう準備はできているか?
ゴアはそう問いかけた。
Al Gore giving his updated presentation in Houston, TX in An Inconvenient Sequel: Truth To Power from Paramount Pictures and Participant Media.
10年前より明らかに異常気象が増えている今だから続編を撮った
2017年の今、続編『不都合な真実2:放置された地球』を制作した理由は2つあると言う。かなり悪化した現状と、はるかに改善された現状と。
気候変動による異常気象は以前よりもずっと増加し、その破壊力も増している。しかし今は、この危機に対する解決策がある。10年前はその兆しが見え始めたに過ぎなかったが、今はちゃんと存在する。この映画が、人々の行動と希望を奮い立たせてくれたらと思っている。
科学面の掘り下げは前作ほどではないが、今作からも事態がどれほど切迫したものであるかはしっかり伝わってくる。事実、2006年より状況は悪化しているのだから。
ゴアが訪ねたグリーンランドでは、駐留している科学者らが追いつかない速度で氷が溶けていた。マイアミではジーンズをゴム長靴の中に押し込んで街のメインストリートを襲った洪水の中を歩き、2013年の台風第30号(観測史上最強の熱帯低気圧)では、家を失い涙を流すフィリピン人男性の手を握るゴアの姿があった。
こうした世界中で起きている壊滅的現象は、議論を進めるうえで重要な意味を持つ。
今では、「母なる自然」という新しい参加者が議論に加わっている。彼女の声はとても力強く、私やどんな人間の声よりもずっと説得力がある。
そして、映画に出てくる南部出身の牧師のような話し方で続ける。
毎晩テレビで見るニュースは、まるで『ヨハネの黙示録』の世界のようだ。それぞれの事象を関連づけようとしないメディアもあるが、人々はよく分かっている。「地球温暖化」という言葉を口にしたことがない人ですら、何かとてつもなく大きなことが変わろうとしていることに気づき始めている。深刻な警鐘が鳴らされている。
Al Gore giving his updated presentation in Houston, TX in An Inconvenient Sequel: Truth To Power from Paramount Pictures and Participant Media.
トランプ大統領の誕生、ゴアの怒りがかえって映画を盛り上げる要素に
しかし、この映画をとても面白くしているのは自然災害ではない。
2016年11月8日、ドナルド・トランプが米大統領に選ばれたその日、「ぼうぜん」としか表現しようのない沈黙の後、勝利宣言スピーチのなかで、環境保護庁を廃止し、気候変動に関する何十億ドルもの支出を取りやめる旨が宣言された。
トランプの声が響き渡り、顔面蒼白になるゴアとスタッフの姿が映し出される。
それは、映画の目指す方向性が狂い、ぐらついた瞬間だった。しかし最終的には、逆境こそがこの映画がありきたりな展開に陥るのを防ぎ、かえってゴアの激しい一面を見せることとなる。
いつもは慎重に言葉を選ぶ彼が、こらえきれない風に言った。
われわれの民主主義はビッグマネーに乗っ取られ、権力と富を持つ者たちがあまりにも大きな影響を持ってしまった。
しかし、活動家であり政治戦略家でもある彼はこうも付け加える。
だからこそ、将来のことを真剣に考え、気候の危機を解決したい者たちは、積極的に関与していかなければならない。
そう、『不都合な真実2』を刺激的で興味深いものにしているのはゴア自身の怒りなのだ。普段は落ち着き払って、テンポ良くバランスの取れた回答を返す彼だが、映画の中ではちょくちょく落ち着きを失い、怒りに満ちた姿をさらす。この点について聞くと、一瞬沈黙してからこう述べた。
普段はあまり怒らないタイプですが、どうしても怒りが湧き上がってくることがあるんです。
そして、気候変動が世界中の最も弱い立場にある人たちに影響を及ぼしていることを熱く語った。終いには、顔を真っ赤にして大声で言った。
「目を覚ませ!」そう言いたくなることがある。今この問題に取り組まなければ、次の世代に申し開きができないだろ。この問題は、われわれ自身で解決しなければ!
危機感だけでなく「強い希望」を持って取り組んでほしいから
希望のメッセージを伝えることがこの映画でしたいことだと彼は主張するかもしれないが、それは重要な警告を伴うメッセージだ。
人々が立ち上がり行動を起こすなら確かに希望はある。前作の目的が情報を広めることだとしたら、今作が目指すのは人々を勇気づけることだ。
時間がないわけじゃない。
ゴアはきっぱりと言う。
この問題の切迫感と危険性を理解すると同時に、しっかり希望があることも理解すべきだ。気候問題に取り組んできたわれわれは、希望と絶望の間で揺れることがままあるが、私の中ではいつも希望が勝ってきた。
映画の中で、ゴアは再生可能エネルギーに投資している多くの国々を訪れ、状況が変わりつつあることを示す実際的かつ経済的な証拠を紹介する。
ドイツは総発電量の3分の1を再生可能エネルギーで賄っている。世界の多くの地域では、化石燃料より風力発電や太陽光発電のほうが安価だ。太陽電池の価格は『不都合な真実』が作られた頃より85%も下がった。筋金入りの共和党員でテキサス州ジョージタウンの市長(共和党の色である“レッド・ステイト”の中でも最も共和党色が濃い街とされている)は、地域の電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指している。
排出量を減らせば状況は改善する。そんなの常識だ。科学者たちの議論なんていらない。
とは市長の言葉。
「パリ協定」はじめ、環境活動におけるゴアが果たしてきた役割
パリでは昨年、195ヵ国がパリ協定のもと団結し、排出ガス削減・地球温度の上昇抑制・気候変動の影響を受けた国々による問題取り組みを支援する上で迅速に行動することで合意した。
パリ協定およびその中でゴアが果たす役割が今作の中心でもある。カナダのジャスティン・トルドー首相と雑談する姿、インドのエネルギー大臣と取引する模様、夜更かしして講演用スライドを仕上げる姿…カメラはゴアの日々の活動を追いかける。
気候変動対策における彼の影響力は、映画の中だけにとどまらない。
『不都合な真実』は、気候変動を議論するうえで最大の転換点となったし、人々に行動を呼びかけるうえで、ゴアの声は誰よりも大きく明快だった。パリ協定締結においても彼の巧みな交渉術が大いに貢献した。彼が絶大な影響力を持っていることは明白で、本人もそれを活かして必要な変化を推進しようとしている。活動を盛り上げたい者たちにとって、ゴアが味方でいてくれるのは喜ばしいはずだ。
気候変動をテーマとした映画というのは、とかく圧倒されてしまいがちである。否定する勢力、受けてしまったダメージ、対立勢力があまりに甚大だから。
インタビュー終盤、私は彼に必要とされている変化を起こすには時間があまりに少なく、状況変化のスピードも遅すぎるのではないかと意見した。すると、彼は笑ってこう言った。
ああ。でも、私はこの活動にもう40年も関わっているんだ。
一息ついてから、続けた。
著名な経済学者が言うには、物事が動き出すには思っている以上に時間がかかるが、いったん動き出せば、思っている以上のスピードで進むと。私たちはその第二段階に入ったところだ。
Al Gore in Paris, France for "24 Hours of Climate Reality" in An Inconvenient Sequel: Truth to Power from PARAMOUNT PICTURES and PARTICIPANT MEDIA.
インタビューを終えた私は、自分が暮らす地域ではどんな活動がおこなわれているかをネットで調べた。クイーンズランド州でのインド複合企業「アダニ・グループ」による炭鉱開発についての議論や、南オーストラリア州での再生可能エネルギーをめぐる争いなどがヒットし、目を通した。
映画の中でゴアが天罰について話したスピーチが頭で鳴り響いた。
人類を救うことは正しい。この地球を汚すことは間違っている。次世代に希望を繋がなくては!
『不都合な真実2:放置された地球』の最後の最後で、撮影をすべて終えた後に、トランプ大統領がパリ協定からの離脱を発表したことを知らされる。
しかし、アル・ゴア自身が具体化する強い希望を持ってすれば、トランプが何をしでかそうと、アメリカの、ひいては世界中の人々は正しい行動を取るだろうと映画は伝える。恐らくそれは徐々に膨れ上がっていくような、ダビデとゴリアテの戦いのようなものかもしれないが、いつか実現できるものと信じざるを得ない。
文:キャサリン・スミルク
翻訳監修:西川由紀子
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不都合な真実(1) 予告編
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