学習障害のある若者たちと、教えることが大好きなボランティア指導者がタッグを組むと、まさに生きる喜びを体感できる体験を生み出せるようだ。イタリアで発行されているストリートペーパー「Scarp de’ tenis」が、学習障害者向けに新体操教室を開催するミラノでの活動を取材した。
※以下は2018/07/22に公開した記事を加筆・修正した記事です。
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ルアナ(29)の右手にはブルーの、左手には濃い茶色のマニキュアが塗られてる。ちょっと剥げてるかもしれないけど問題ない。つま先立ちで2回ジャンプすると、青いリボンを宙に投げる。クルクルと円を描き、さらに2歩ステップを踏んだ足元にぴたっと落ちてくる。満面の笑顔で振り向くルアナ。今回もバッチリうまくいった!
ここはミラノ市リパモンティ通りにあるボクシングジム「Strength and Courage」。ひんやりしたジムで、小さなヒーターがフル回転で稼働している。中央リングの向こうにはサンドバッグがぶら下がっている。
コーチのバレンティナ・モンテネグロ (29) が手を叩きながら入って来ると、部員4人が後に続く(部員は全員で9人)。ボクサーたちが練習していない時間帯に、緑色の日よけでおおわれたこのジムで新体操の練習に励む彼女たちは世間一般がイメージするようなアスリートではない。何らかの学習障害(LD)があり、多くはダウン症候群なのだ。このようなチームはあまりなく、ミラノ市内ではおそらく唯一の取り組みだ。
このグループが所属する慈善団体「Sporting 4E」は1996年に設立された。ミラノ市南郊にある教会「Four Evangelists Chapel」で出会った保護者たちが、学習障害のある子どもや若者たちにスポーツや社会的活動のチャンスを提供しようと結成。最初にサッカーチームを、数年後に女性向けの新体操チームを立ち上げた。
イタリアのパラリンピック委員会 (CIP) を通じてイタリア・ナショナル・オリンピック委員会 (CONI) にも加盟している。サッカーチームからはオリンピック予選や欧州チャンピオンシップ予選に選抜された選手もいる。2001年以降、新体操メンバーも地方および全国大会に出場するようになり、優勝した選手もいる。
障害のある人たちのサポートこそが自分のやりがい
ボランティアで指導にあたるバレンティナは言う。
私たちは芸術性よりリズミカルさを重視しています。新体操は、フープ、ボール、ロープ、こん棒、リボン等の小道具を使いながら、音楽のリズムに合わせて体を自然に動かすスポーツ。メンバーはそれぞれ得手不得手があり、覚えるのは速いけど思うように動けない人もいれば、動きは抜群でもなかなか覚えられない人もいます。日中は公証役場で働くバレンティナだが、今はチームお揃いのユニフォーム姿で、マット横から身振り手振りで細かな動きを指導する。今はジャンプやピルエット(つま先を軸に回転する技術)のタイミングを指導中。チームリーダーであると同時に、メンバーたちのお姉さん的存在だ。
彼女たちと過ごすことですばらしい学びがあります。本当の幸せが見つかった気がしています。今、大学で教育科学を学んでいますが、フルタイムで働きながら大学に行こうと思うなんて自分でも驚いてます。でも、これこそ私がやりたかったこと。彼女には障害のある叔父がいて、子どもの頃から彼のことが大好きで親友のような存在だったと言う。
叔父のことが大好きで、学校が終わると会いに行き、その日教わったことや学校での出来事を報告してました。本当は叔父のような人たちのサポートがしたくて大学に進みたいと思ってましたが、先生からは卒業後はすぐに働きなさいと言われたんです。しかし、人生というのは、その人のあるべき場所へ導いてくれるものなのかもしれない。たとえ時間がかかろうとも。彼女は今、9名いるボランティア指導者のひとりとして活躍している。
新体操クラブのメンバーたち
新体操のチームメンバーを紹介しよう。 ミシェラ(37)はミュージカルと演劇が大好き、よく両親と旅をする。叔母になったばかりで、楽しそうに生まれたばかりの姪の話をする。
マルチェラ(38)はボールが好きで、空中に投げて回転するのをうっとり見つめている。
先述のルアナは新体操歴10年、リボンが得意だ。
くるくると円を描くように空中に投げ、ジャンプしてうまくキャッチできたら、もう最高よ!
笑顔で話してくれた。
シルビア(35)は、子どもの頃に体操競技を習っていた。サッカーチームに入ってる彼氏の話をよくする。
私たち、障害者向けの大会に参加することもあるんですよ。判定はあまり気にしてません。うーん、どうかな...たまにはするかな!とバレンティナ。
チームおそろいのトラックスーツもあり、白地で胸の位置に黒のラインと「Sporting 4E」のロゴが入っている。トラックスーツの下には、この寒さにもかかわらず、フロント部に緑の葉っぱがデザインされたぴったりの黒いレオタードを着ている。
時によろめき、毎回ジャンプをキメられるわけじゃないけど、動き、精彩さ、力強さにフォーカスして練習に励んでいる。
ほのぼのしていながら、精力的に生きる姿は彼女たちのすばらしい長所。体が思うようについてこなくとも動きを止めようとしませんから。
皆、ごく普通の生活を送る女性たちです。デイケアセンターに通う人もいれば、マクドナルドやレストラン「Eataly」のキッチンで働く者もいます。家族や友達に囲まれて暮らしています。バレンティナが説明してくれた。
BGMには、ルアナが基礎練習用に選んだタンゴが流れている。アドリブを効かせて、優雅ながら情熱に溢れたダンスを披露してくれている。
新たにボウリングチームも発足
4年前からは、新たに女性向けボウリングクラブの活動も発足。立ち上げたのはサッカーチームメンバーの父親だ。隔週の月曜夜に指導にあたり、招待があれば不定期でトーナメント戦にも出場している。活動を広げたくてね。サッカーも新体操もずいぶん長い間やってます。そこで全く新しいボウリングというわけです。練習というより、純粋にゲームを楽しもうってね。腕のある選手も多いが、あまり向いてない人もいる。
構え方、ボールを投げる時の姿勢、ボールの持ち方、倒したいピンに対し足をどう向けたらよいか等をアドバイスします。ボールはいつも同じ重さのものを使うように、とかね。ストライクを出すたびに、レーンに飛び出して、プロ顔負けのダンスを披露するメンバーもいるそうだ。
By Stefania Culurgioni
Translated from Italian by Marie-Hélène Hayles
Courtesy of Scarp de’ tenis / INSP.ngo
Photos: Mariangela Marseglia
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公益財団法人 日本ダウン症協会
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