ホームレス状態の人たちの路上脱出を応援する事業としてビッグイシュー日本が設立されて、本日9月11日で15周年となる。

この15年間で811万冊の雑誌を販売、12億1915万円の収入を販売者に提供し、延べ1822人が販売者として登録、199人が卒業。販売者は、どのように路上生活を卒業していくのか、ご存じだろうか。

 2018年7月26日、約4年間販売者として高槻の町に立ち続けた安東智さんの送別会が高槻市読破交流会の皆さんによって行われ、路上脱出までとこれからについて語った。


高槻写真1
*読者交流会の様子

読者交流会とは、ビッグイシューの読者とその地域を担当する販売者との交流をはかるために行われているイベント。

高槻の場合は、以前の販売者が販売場所を追われるトラブルがあり、それを聞いたボランティアの方が近くにある「高槻市市民公益サポートセンター(通称:サポセン)」のセンター長に相談に行ったのが始まりだった。販売場所を移動せざるを得なくなった販売者の話を聞くことで支えていこう、と有志が読者交流会を企画。

以来、サポセンの会議室をお借りして2014年から販売者さん3代にわたり、年3回程度、計15回近く開催されている。

高槻の読者交流会は販売者が主催という形式をとり、読者同士が集まって交流できる機会をつくることが目的だ。販売者が主催ということは、挨拶や司会進行も販売者。参加者の皆さんは慣れない進行ぶりも含めて、あたたかく優しいまなざしでその様子を見守ってきた。

毎回の読者交流会には、自己紹介だけで盛り上がることもあれば「6分間リーディング」(6分間だけ集中して自分の好きな記事を読み、感想をシェアする)をしたり、テーマを決めて話したり。時には「歩こう会」とのコラボや高槻のシンポジウムへの参加、新年会の開催など様々な活動をしてきた。

今回は安東さんの第7回読者交流会と兼ねて、卒業記念会。

参加者の1人が卒業祝いに手作りの赤飯と卵焼きを差し入れし、それを食べながら和やかな調子で会は進んだ。

「ステップハウス」入居をきっかけに高槻に立ち続けた安東さん

まずは安東さんの4年間を振り返った。

安東さんは農家の実家を出て大阪に来るも、紆余曲折を経てホームレス状態になってしまう。そんな中、2014年に大阪の炊き出しに行った際、ビッグイシューのスタッフに会い、「やってみて、合わなかったら辞めたらいい」という言葉に背中を押され、「まあ、それくらいの気持ちでいいなら」とビッグイシューの販売を開始した。

販売1日目は、昼から夕方まででなんと1冊しか売れなかった。
「その時点でよく辞めませんでしたね?」との質問に、「(最初の無料10冊が)まだ9冊残っていて、もったいないから」と持ち前の真面目さが参加者の笑いを誘う。

翌日、売り場を変えて販売すると、残った9冊がすぐに売り切れたこともあり、続けてみようという気持ちになった。

最初の1年は場所を新大阪、天満、樟葉など様々な場所で販売されていたが、2015年にビッグイシュー基金のサポートする「ステップハウス」に入居し、それを機会に、以後高槻の販売者として立ち続けることに。

2016年からは読者交流会がはじまり、安東さんの真面目な人柄が参加者に伝わり、高槻での様々な講演会やイベントへの出演を打診されるようになった。

経歴を振り返りながら、今日を迎えるまでにあった小さな事件やハプニングについても話が及び、参加者の笑いを誘った。

ネガティブでマイナス思考だったのが4年間の販売者生活を経てタフに

安東さんについて、高槻の担当になった当初を知る人は「もっと寡黙な人だった」、「ものすごくネガティブだった」そうで、参加者の一人は安東さんとのエピソードを以下のように披露した。
2015年の食祭(安東さんの参加したイベントの1つ)で「すごいね、20冊くらい売れたね。」と声をかけると、安東さんは「いや、まだ10冊くらいしか売れていないよ。」と答えたんです。でも実際に数えてみるとやっぱり20冊くらい売れていた。「この人、すごくマイナス思考だなぁ。」と思いました(笑)
今では、「(安東さんは)愚痴を言うことがあっても、そこにユーモアが含まれるようになった。」という。

なぜこの変化が起こったのだろうか。
安東さん曰く、1つの要因はビッグイシューの販売やイベントを通して、購入してくれる人や前を通りかかる人など、様々な人と関わったことが大きかったらしい。
中には心無い言葉をかけてくる人もおり、そのような人たちとも関わるうちに精神的に強くなった。

「やめたいと思ったことはないのですか」と問われると、笑いながら「毎日やめたいと思っていたよ(笑)」と語る。
それでも、2015年にステップハウスへ入居したことが大きな支えになった。その支えがあって、もう4年ほど野宿をせずに暮らせているし、販売者として路上に立ち続けられたという。

最後に、ビッグイシューの企画で描かれた安東さんの似顔絵の表紙に、参加者一人一人に感謝のメッセージを書き、参加者全員にプレゼントした。

高槻写真2

これからの安東さんと高槻の販売場所

8月からは、大阪の作業所で勤務される。持病があり、体調のことを考えて体力的負担が少ないことからその職場を選んだのだそう。

最後の読者交流会でも優しい笑顔で、ユーモアのある口調でお話しされていた安東さん。新しい場所でも活躍されることを願っている。

卒業式の参加者は合計10名で、常連さんからホームページを見て初めて参加された方まで多岐に渡った。

安東さんが売り場を離れた後、高槻にはまた新しい販売者が立っている。
読者交流会の司会も新しい販売者になり、次回の開催を楽しみにしていただいているようだ。 https://www.bigissue.jp/location/takatsuki/




あなたの町でも読者交流会をしてみませんか

読者交流会で司会ができる販売者ばかりではありませんが、まずは地域の人々で集まってビッグイシューを読んでみませんか。
販売者の参加が必要な場合は、ビッグイシュー日本までお問い合わせください。



取材協力:佐合由衣







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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。