2018年10月18日、ルーテル東京教会にて『第1回「居場所を失ったひと・居場所をつくるひと ‐社会を地べたから変える力」』が開催されました。
当日はビッグイシュー325号にも登場いただいたことのある女子高校生サポートセンターColabo代表の仁藤夢乃さん、ビッグイシュー日本から佐野章二も登壇し、会場でのビッグイシュー販売もさせていただきました。
当日の様子を認定NPO法人まちぽっとのWebサイトからレポートを一部転載させていただきます。
当日の様子を認定NPO法人まちぽっとのWebサイトからレポートを一部転載させていただきます。
登壇
仁藤夢乃さん(女子高校生サポートセンターColabo代表)
佐野章二さん(ビッグイシュー日本 共同代表、ビッグイシュー基金理事長)
関野和寛さん(ルーテル東京教会牧師/牧師ROCKS)
奥田裕之(NPOまちぽっと) *企画コーディネート
本編
2018年度第1回は、居場所を失った少女を支援している仁藤夢乃さんと、ホームレス支援をしている佐野章二さんのお二人がゲストです。初対面だということでしたが最初からとても打ち解けてお話しをしていました。ご来場者は約80名。会場ではビッグイシューの販売者による雑誌販売も行われました。
(第一部の「お話しと音楽 関野和寛さん」はこちら)
「困難な少女を、見て見ないふりも搾取もしない社会へ」 仁藤夢乃さん
----------10代の頃
私は平成元年生まれで、10代のころは渋谷や新宿を、月に25日ほど彷徨う生活をしていました。なぜそういう生活をしていたのかは、いまだったら家族内の暴力などで自分の安心安全が守られなかったからと分かります。でも当時は何処にも自分の居場所が無くて、誰も分かってくれない、大人は皆いなくなれば良いと毎日思っていました。自分の気持ちや意思が尊重されるような経験はあまりなくて、親も先生も「子どもはこうあるべき」という姿に当てはまらないと、否定することが多かったと思います。
家族と顔を合わせると、ぶつかり合って大事なものを捨てられることもあったので、それを避けるために夕方の6時くらいに夜の街に出て、親が仕事に出ている昼間に帰宅するという生活を中高時代はすごしていました。
ただ親も苦しんでいて、一生懸命で、そして孤立していました。家族内の暴力行為や病気、両親の育ってきた環境なども高校生になると分かってきて、親の苦しみを近くで見て理解していたからこそ、そこから離れきれない、捨てきれないと感じていて、誰にもそれを話せずにいました。
高校2年生の時に学校を中退しました。当時のプリクラを見ると、「高校中退組17歳コンビ、今年は勉強しようね」なんて書いてありました。とても勉強ができる環境ではなかったんですが、やっぱり「どうにかしたい」、「このままじゃヤバイんじゃない?」って、そういうことは思っていたんですね。でも、それを誰に言っていいか分からなかったし、自分でも「いまさら」とか「そんなことを言うのは恥ずかしい」という気持ちもありました。
その頃は、「まだまだ人生はこれからだよ」といって関わってくれる大人がいなかったなって思います。
当時は金髪で素行も悪かったので、例えば親戚が亡くなってお葬式に行くと、みんなに“あ~あ”っていう空気で見られて、それをすごく敏感に感じるんです。そうすると、こっちもバリアを貼ってよけいにツンツンして挨拶もしない。
Colaboでは、夜の街に出て10代の子に声をかける活動をしているんですが、周りの人によく「そんな子は怖くて、声をかけられない」と言われます。でも、怖い目にあったことは一度もなくて、むしろ「声をかけてくれてありがとう」と言われることもよくあります。
少女を利用する大人たち
この活動をなぜ始めたかというと、街やネットを彷徨う子どもに声をかける大人には、手を差し伸べる人じゃなくて、利用しようとする人しかいなかったからでした。
いまも新宿や渋谷の街では毎晩100人くらいスカウトが立って、女の子たちに声をかけて違法な性売買やAVに斡旋しています。それも怖い人が声をかけてくるんじゃなくて、「仲間感」のある近い存在に感じられる人が、「どうしたの、お腹すいていない?」、「何か困っていることはない?」、「こんな所にいたら補導されちゃうから、良かったら泊っていく?」のように声をかけてきます。暖かい飲み物をもらったこと、自分に声をかけてくれたことが嬉しくて被害にあった子もいます。それだけで心をつかめるくらい孤立している状態なんです。
声をかけてくる業者や買春する男性は、私が高校生の頃にもたくさんいました。当時の私に声をかける人はそんな人たちばかりだったし、世の中にはそういう人しかいないって思っていました。
その状況は変わっていなくて、いまでも利益や見返りを求める大人が「サポート」や「援助」などいう言葉を使って、買春行為や性暴力を行なうことが変わらずに行われています。「泊めてあげるから」と言って性行為を求めるなんて、そんなの援助じゃないですよ。
大人の言葉に翻弄される子どもたち
私が関わっている少女たちには、貧困や虐待などのいろいろな背景がありますけど、「自分で何とかしなくちゃいけない」と思っていて、そのために「誰にも頼らないで何とかしよう」と考えて危ないところで働いたり、搾取されている子どもが珍しくありません。
その中には、大人から「逃げるな」とか「甘えるな」などと言われて育った子がとても多いんです。逃げることも大事だし、助けを求めることや、人を頼る力もとても大切なのに、いまは学校などでも「自立」ばかりを強調していると感じます。でもその「自立」って「孤立」じゃんって思うことがよくあります。
この活動をしていると、「自分を大切にしなさい」と言われてきた子に出会うことが多いんですね。ついつい言ってしまいがちな言葉なんですけど、これってただの説教なんです。「自分を大事にできてないよね」って言っているのと同じ。自分を大切にしたいって思えるのは、小さい頃から「がんばったね」、「よくできたね」などと言われてきたからだと思うんです。
でも、「生まなければよかった」とか「出て行け」、「うるさい」、「泣くな」、「逃げるな」などと、家族や先生や児童相談所の人に言われ続けてきた子どもたちには、そうは思えません。これらは、10代に性売買の経験がある子たちが、保護的な立場の大人から言われて嫌だった実際の言葉です。
こういうことを言われ続けてきた子どもたちは、「自分を大事にする」と言われても、それがどういうことか分かりません。「どうして大事にしなきゃいけないの?」と泣く子もいます。
自分のことを傷つけていることを自分で分かっていて、それで自分自身を責めている子もいます。つい「自分を大事にしなさい」って言いがちですけれど、「自分を大事にするってどういうことなんだろう」というスタンスに変えていくことが大切で、「自分の気持ちを大事に」とか「自分の選択を大事に」とか、そんな言い方が良いのかなって思っています。
生まれつき嘘つきな人なんかいない
最近は、「1/2成人式」という10歳の子ども対象のイベントを多くの学校で取り入れていますが、それが辛いと言う子も多いんです。そのプログラムで親に感謝の手紙を書いたりすると、親側は「嬉しくて涙が出た」というんですね。でも子ども側にとっては、うまくいっている家庭ならいいけれど、そうではないと辛い体験になってしまいます。
ある家庭環境に問題のある子は、ほどほどの感謝の文章を書いたんですね。そうしたら、先生から感謝が足りないと怒られて書き直しになったそうです。そのうちに、その子は思いもしない感謝を作文にスラスラ書いたりできるようになります。そして中高校生になると、その段階で出会った学校や児童相談所の人たちから、「あの子は嘘つきだから」とか「虚言癖がある」などと判断されることがあるんです。
でも生まれつき嘘つきな人はいないし、身を守るための嘘をついたことのない人だっていないと思うんです。嘘をつくことが身を守る術だと思ってしまったり、「自分の家には何も問題はありません」、「他の人と同じで自分は幸せです」のような雰囲気を出すことによって、おおごとにしないで生きていこうとする子もいます。本当のことを言わなくなってしまったことは本人の責任じゃないのに、それで責められている子どもがとても多いと思っています。
何事にもだるそうだったり、やる気がなさそうで、「もうどうなっても良いよ」、「やりたいこともないから、明日死んでもかまわない」と言っている子は、学校や周りから、やる気もければ進路のことも何も考えていないと言われてしまいます。実際に、それを考える余裕が体力的にも精神的にもなかったりします。明日が見えなくて、今にいっぱいいっぱいで、自分のことを諦めている子も多いんです。
でもその子たちのほとんどは、自分自身よりも先に、周りの人や大人たちに諦められたと感じる経験を持っていると思います。
阿蘇牧師との出会い
私は高校を中退した後に、ある牧師さんとの出会いを通して前を向いていけるようになりました。百人町教会という教会の牧師だった、阿蘇敏文さんという方です。
高校を中退した後、親を納得させるため予備校に行きました。その予備校にはいろいろなゼミがあったんですが、その一つの「農園ゼミ」の担当が阿蘇さんでした。私はそこに毎週土曜日に行くようになりました。何で行くようになったかというと、土曜日は自分の家にも友だちの家にも親がいる。渋谷などの街には人が多すぎて居場所がない。その点このゼミは土曜日の夜に泊まれてご飯もあるというのがよかったし、遊ぶスペースもありました。そこは、自分たちを否定せずに居させてくれた場所だったなって思います。
それまでは大人と向かい合って話をすると圧をかけてくるようで、話してもしょうがないと思っていたんです。でも阿蘇さんは横に並んでくれているような、先を一緒に見てくれるような大人だったなって思っています。阿蘇さんは牧師さんだったんですけど、宗教のことをそこでは一切話しませんでした。「変わったお爺ちゃん」という感じが、すごく良かったなって思います。
いろいろな活動をしていて、暴力を受けている方や外国籍の方、山谷の方など、様々な苦しみの中にいる人を支援していました。私は阿蘇さんとの関わりを通して、社会の問題を知ったり、いろいろなことと戦っている弱い立場に置かれてしまった人たちと出会ったり、声を挙げていくこととか、連帯して支えあう人たちがいるということを知りました。
畑に来る人たちはすごく変な人も多かったんですけど、私のことを「かわいそうな子ども」とか「ダメな子ども」としてではなくって、普通にしゃべってくれたんですね、ただ普通に。それが嬉しかった。
女の子を「救いたい」とは思っていない
青少年支援というと、子どもは保護される対象だから大人は支援してあげなきゃ、救ってあげなきゃという風潮があります。とても良い人で「救ってあげたい」と考えている方もいるんですけれど、当事者はそういう感覚を敏感に感じ取って、上から目線に感じたり、嫌がったりすることがあるんです。だから私は対等の関係でありたいし、一緒に考えていきたい。
教会は救いの場所だと思うから、ここでこんな話をして良いのか分かりませんが、私は自分が『少女たちを救いたい、仁藤夢乃さん』とか記事に書かれたりするのを見ると、いつも「マジでやめてよ~」って思うんです。だいたい「救いたい」とか思っていないし。女の子に「救ってくれないんですか」と言われたりすると、「神様じゃないから救えません」、「一緒に考えることはできるよ。でも選択するのはあなただし、救うのは無理かも」って言っています。
居場所とは、「関係性」のこと
学校では、「家族に感謝しなさい、家庭は支えあうものだから大事にしなさい」と言われます。でも私もそうでしたが、その家族が上手くいっていない子がたくさんいます。だから「家庭」という形に囚われず、例えばこの教会に色々な人が集まっているように、何かあったら助けてくれる人がきっと誰かいる、そんな場所があるといいと思います。
「居場所」ってそんな所じゃないかと思いますし、そこは大人が子どもに作ってあげるものじゃないと思います。どうしてそこが居場所になるかというと、そこに関係性があって、役割があるから。ここにいても良いんだって安心できるような、ホームになるような関係があるからだって思うんです。
「居場所作りをしましょう」、「居場所が大事」っていう人が多いんですけれど、どこだって居場所になると思うんです。居場所は「場所」ではなくて、そこにどんな人がいるのか、どんな関係性を作っていくのかが大切。そんなことを考えながら活動をしています。
ある女の子の話し
Colaboは、「すべての女の子に衣食住と関係性があるようにしたい」と思って活動しています。昨日の夜のアウトリーチ活動で、ある女の子にジーパンをあげたらすごく喜んでいました。何ヶ月も家に帰らないで売春をして生活している16歳の子で、保護は望んでいませんでした。
他の支援団体だったら、無理やりにでも保護施設に入れて更正させようとするのかもしれませんが、そういう対応をずっとされてきた結果、大人に対してすごく不信感を持っていて、保護施設に入るなら売春のほうがマシという感じだったんです。その子は昨日初めて来たんですけど、わざわざ来たということは、私たちとの関わりを試してみようと考えてくれたんだなと思って、「また来週もおいでね」と声をかけて別れました。
他にも、例えば10日期限切れの牛乳を飲んで体を壊したり、コミュニケーションが上手く取れなくてバイトができなかったり、生きていくための知恵や術なしに、社会に裸で放り出されたように見える子がたくさんいます。
この子たちに街で声をかけると、「保護じゃないよね」っておびえた表情をすることがよくあります。公的機関では、この子たちが悪い子で「叩きなおす」というように扱われることが、すごく多いんですよね。そうじゃなくて、その子たちがどうしたいのかという意思を聞いたり、細かいケアをして関わる視点が必要だと思っています。その子たちが安全な大人とつながる前に、危険な人に取り込まれていることが現状かなって思います。
Colaboの活動
最後に、私たちの活動紹介をしたいと思います。Colaboでは、まず「泊まれる場所を作ろう」ということで宿泊施設を運営しています。ここには全国から相談があるんですね。去年は本人からの相談が134件で大人からが50件くらいだったんですが、今年は本人からの相談が9月までに200件を超えています。本当はその子たち皆が駆け込んでこれる場所を作りたいと思っています。
ただ実際にシェルターを運営してみると、加害者側の追いかけてくる執念がすごいんですよ。だから女の子たちの安全のためにも、いまはつながった子以外には場所を教えないようにしています。
一緒にごはんを食べることも大事にしています。皆さんも何か相談したいことがある時には「相談があるんだけど」とはなかなか言わないですよね。「食事でもどう」とか「お茶しない」とか言いますよね。
同じように、私たちも「今度ご飯食べにおいでよ」という声かけをして、何かあった時に「そろそろご飯したいね」って、女の子から言ってもらえるような関係性を作りたいと思っています。
誕生日や成人式のお祝いもしています。特に誕生日は大切にしています。私がそうだったから分かるんですが、「自分は誕生日なんか気にしない」っていう子ほど気にしているんですよ。私は名前が“夢乃”なんですが、15,6歳の頃は自分には夢がないって思っていて、でも生まれたときは両親が夢のある子になって欲しかったんだろうなって考えると泣けてくるんです。だから誕生日は一年で一番嫌いって思っていました。
そういう子はたくさんいると思うので、気付いたら「おめでとう」とか「今年も良い1年になるといいね」とか、皆が声をかけてくれると良いなって思っています。
問題解決型の取組みでは、問題を解決できない
「相談を目的としない場づくり」が、いまの支援の場では不足していると思っています。「あなたは誰、名前は何」「どこに所属していて、どんな環境にいて」「どんな問題を抱えていて、どうしていきたいの」という感じの問題解決型のかかわり方では、実際にこの問題を解決することは難しいと思います。
例えば、危ない彼氏と付き合っていたと思っても、無理に引き離したらこちら側が信頼されなくなってしまう「綱引き」みたいな所が私たちの活動にはあります。だから女の子達の、「揺れに寄り添う」ような関わりをしたいと思っています。
問題解決をすることじゃなくて、「出会って、関わって、一緒に生きていく」。私はそれ自体が、この活動で一番大事なことだと思っています。
ピンク色のバス「つぼみカフェ」
昨日から、私たちから出て行かなければ出会えない子たちに会いに行く活動を始めました。ピンク色のバスを歌舞伎町の新宿区役所前と渋谷の公園において、隔週水曜日の夜に交代で行う「つぼみカフェ」です。
「つぼみカフェ」は10代の女の子限定の無料カフェということで、ご飯があって携帯の充電ができて、服とか化粧品や避妊具ももらえるよって呼びかけています。もの欲しさに来てもいいし、悩みがなくても来ていい、何かあった時に思い浮かぶひとつになればいいなって思っています。初回だったんですが、15名の女の子が来ました。やっぱり大変な体験をしてきた子もいて、緊急保護もありました。
女の子たちにとって、いまは前よりも環境が厳しくなっていて、ハンバーガーショップや居酒屋も夜間は若者が入れなくなってしまいました。変な言い方ですが、女の子たちが夜中に安心して溜まれる場所をつくりたいって思っています。これがちょうど昨日、新しく始めた「居場所」の取組みになります。
「ビッグイシューのホームレス支援活動と社会変革」 佐野章二さん
この企画は、20代の仁藤さんと長く活動を続けている佐野さん、お二人の活動を通して「NPOの持っている価値」を考えることがもう一つの目的でした。 佐野さんからは、ビッグイシュー設立当初の話から現状の課題、そしてこれまでの活動の延長で、今後の社会を変えていくために現在考えていること、実践していることについてお話しいただきました。----------
ソーシャルビジネス――起業と経営は違う
人はなぜホームレスになるのか
ぼくは、「ビッグイシュー日本」という雑誌を制作して、それをホームレスの方しか売れない独占販売の方法でその方たちの仕事をつくる、有限会社ビッグイシュー日本で活動しています。あえて会社でやりたいと思って15年間、事業を続けてきました。
ただ、営利法人の会社だけではできないこともありますので、販売者になった人も活動に関わってくれる、当事者でない人も一緒になって活動できる、NPO法人「ビッグイシュー基金」も11年前に設立して両輪で活動しています。
先ほど、夢乃さんは「問題解決型」じゃダメだってお話しをしていましたが、ぼくもその通りだと思います。ぼくたちは、「自助型の応援」をしています。これを別の言い方で説明すると、支援される人がただそこに留まるんじゃなくて、支援されながら「そんな支援は嫌だ」とか「こんな支援をして欲しい」と言えるような、選択肢がたくさんあって選べるような応援といえると思います。
人は何でホームレスになるのか、ということなんですけれども。失業して仕事がなくなると、収入がなくなりますよね。収入がなくなったら家賃が払えなくなって住まいを追われる。でもこれだけでは、そうなりません。住まいを追われた時に誰でもいいから「助けて」と駆け込むところがあれば、ホームレスにはならない。けれども、そういう絆がないという3つ目の条件が揃ってホームレスになってしまいます。
ホームレスになる具体的な事情は、100人いたら100人全員が違うんです。でも共通することが一つある。それは「一人ぼっちになる」ということです。自らだったり、貶められてだったり、望まずにだったり、いろいろな状況のもとで社会的に孤立してホームレスになります。
設立時は女性しか応援してくれなかった
Colaboが始めた、バスを使ったカフェの活動はとても素晴らしいと思います。ちょっと漏れ聞いたところでは、「なぜそんなことをするのか」といちゃもんをつける人もいるようですね。ぼくたちも、ホームレスの人が雑誌を使って仕事をする事業を始めた時はいろいろ反対されました。
事業をはじめる時に、応援するから頑張れと言ってくれた人は女性にはいました。でも男性で賛成してくれた人は一人もいませんでした。「99%、いや100%失敗する。自分が保障する」とも言われました。悪意じゃないんです、ぼくを心配してそういう風に言ってくれたんです。ある協力をお願いした人は、びっくり仰天して「佐野さん、それはムチャクチャや。まず売れる雑誌を作ること自体が難しいのに、もっと難しいホームレス問題の解決、という2つは別々にやるのが筋で、それを一緒にやるなんて狂気の沙汰や」と言われましたね。
そう言われたんですが、大阪弁で「そんなん、やってみな、分からへんやん」と。それで「佐野さんがホームレスになる気ならやりぃ」という感じで始めたのがビッグイシューです。
起業時の4つの苦労と、経営時の7つの壁
やっぱり起業する時は苦しくて、4重の苦労がありました。1番目は雑誌販売の苦労です。メディアの人などからは、「もう雑誌の時代は終わった。若者は雑誌を読まない」と言われました。2番目は、路上で物を売り買いすることに対する規制です。日本には路上で販売するという文化や制度がありませんでした。3番目は、インターネット時代に入ってきていて情報そのものがタダになってきたということです。4番目は、極め付けで「誰がホームレスにわざわざ近寄って買うんだ」という4重苦でした。
まずは何とか起業の苦労を乗り越えました。次は経営、起業とは全く違うんです。「起業」というのは、陸上競技で言うと100メートル走、瞬発力が大切なんです。だけど「経営」というのは持久走、マラソンなんです。両者は別物で、そこにも7つくらいの壁があります。
簡単に説明すると、まずホームレスに対する「偏見の壁」です。誰にホームレスの人に近寄って買わない。次にそもそもホームレスの人って働くのか?という「労働の壁」。雑誌作りにはお金がかかるので、資金調達をどうするのか?資金調達が難しい上、最初に出た赤字がなかなか解消できない「資金と赤字の壁」。プロでも売れる雑誌作りは難しいという「技術の壁」。ビッグイシューに限らないようですが、若い男性などが雑誌を買ってくれないという「販売の壁」。そして「規制の壁」。これについては路上でいつでも移動が可能な「移動販売」ということにして問題をクリアしました。 最後は、「経営採算の壁」です。普通、雑誌社の経費の3割は流通経費、7割が制作費です。僕らの場合は販売額の半分以上を販売者に提供、彼らをサポートする人件費を含めると流通経費が7割、残り3割で制作経費を賄っています。普通の雑誌社とは真逆の経費構造なっていて採算を取るのが非常に難しい。
自助型の応援――ジレンマはのりこえられるか
雑誌販売による仕事の提供
ぼくたちの活動の優先順位では、まず何よりも仕事を提供したいと思っています。今日も会場入口で販売者が雑誌の販売をしています。ホームレスの方だと近寄りにくいかもしれないけれど、それでも近寄って買いたくなるような優れた雑誌をつくるのが使命だと思って頑張っています。
雑誌発行事業は、現在まで登録者数は延1,822人、卒業者は199人、現役販売者は114人です。累計の販売冊数は811万冊となっています。1冊を350円で販売していて、そのうち販売者に入るお金は180円と、販売額の半分以上が販売者さんの収入になります。これまでに販売者さんへ提供した収入の総額は12億1915万円となっています。
雑誌販売では大赤字を抱えてはいますが何とか続けています。赤字が発生する理由として、先の経営採算の壁に加え、販売者の減少があります。路上生活をする人が10年で7割くらい減っているんです。その理由なんですが、東京のホームレス支援団体の人たちなどが中心に頑張って2009年に日比谷で「派遣村」をやりましたよね。その時から生活保護がとても受けやすくなったんです。その結果として路上生活者の数が減り、同時に販売者も減って、雑誌の売り上げも減って赤字になるという訳です。
それでも、生活保護は受けたくないと言って路上を選ぶ人もいます。生活保護を受けるために実家へ調査が入るのは嫌だ、家を捨ててきたから今さら連絡できない。若い女の子ではない大人でも、家との関係はいろいろです。そのように残っている人々のためにも赤字になっても、仕事は続ける必要があるわけです。
「寄り添わない」支援を目指す
活動の中で「自立」っていう言葉を使うこともあるんですが、最近は「自活」して欲しいというようにしています。仕事づくりとならんで側面支援の活動は、「NPO法人ビッグイシュー基金」をつくって11年続けてきました。雑誌を売っている会社だけではできない、側面的な生活全体を応援するというか、暮らし方を選べるというか、そんな選択肢の提供をNPO法人で行っているわけです。
夢乃さんたちの活動は、街で出会った若い女の子に寄り添っていくんですよね。それは、すごいことだなって思いました。一方でぼくたちの活動は、仕事を作った上で、その仕事をするかしないかを個人で選択してくださいね、そしてそれを続けられるよう、あなたに必要だと思うプログラムがあればどうぞ参加し活用してください、というかたちです。
夢乃さんと後で議論するためにあえて言うと、「寄り添わない」支援を目指したいと思っていて、それを「自助型の応援」と言っています。
自助型の応援は考え方であり、スタイルなんですが、手法的な言い方をすれば4つあると思っています。1つ目は「情報提供的」な応援。情報を提供することで当事者の選択肢を増やしていくという応援です。2つ目は「原因対応的」な応援。仕事がないという理由でホームレスになっているので仕事や雇用な場を提供するという応援です。3つ目は「生活自立的」な応援。いろいろな相談活動や月例サロン、実験的なステップ住宅の提供などを行う応援です。
4つ目は「元気回復的」な応援です。まず元気になってもらわないと、どんな良いことだとしてもその人のものにならないですよね。宗教には人々に希望を与える力があります。だけど私たちは宗教団体ではないですから、別の方法で、宗教団体以上に人々がどうしたら元気になって意欲を持ってもらうのかを考え、サッカーや野球などのスポーツ活動や文化活動をしています。
ホームレスになってしまうと、「自分はダメな人間だ」と自己否定をしてしまいます。だけど、自分を肯定してほしい。どういう状況が自己肯定しやすいかというと、スポーツなどをしていて「楽しんでいる」状態じゃないか、「生きていて良かった」と思えるときなんじゃないかと思いますね。仲間ができれば「自己承認」にもつながります。
ビッグイシューのジレンマ
情報提供的な応援としては、「路上脱出ガイド」の発行と配布を行っています。これまでに10万冊以上を配りました。仕事がない、食べ物がない、泊まるところがない、それでも「路上に出てもこれくらいのリソースはあるよ、だから元気になって、そこから脱出してね」ということなんです。
いま全国の路上生活者は4,977人、5千人を切りました。われわれがこの冊子を配ったから路上生活者が減ったとは言いませんが、その一翼は担っていると思っています。これはNPO法人のほうで進めていますが、この活動で路上生活者が減るものだから、会社の方で行っている雑誌の販売者も減って、結果的に販売部数も減るということになっています。
これは「ビッグイシューのジレンマ」です。これを乗り越えるために、販売者が近くにいない市区町村では通信販売や定期購読の仕組みを始めています。
ホームレスとギャンブルの関係
ホームレスの方が「普通の暮らし」に戻ろうとするときには、依存症の問題が出てくることが多いんです。人は様々理由で依存症になりますが、一度「病」にまで進んでしまうと脳が変化して簡単には抜け出せないことが分かってきています。アルコール依存症は問題が見えやすいんですが、見えないギャンブル依存症が特に課題です。
いまの日本社会は、政治家の皆さんが主導してカジノで経済成長していこうという、ぼくたちから見るともう滅茶苦茶な方向に進んでいます。ここは教会なのでちょっと言わせてもらえると、その政策を進めている人たちは「いつか、行くべきところに行くだろう」といいたい(笑)。
ホームレスになる大きな理由のひとつに、「借金から逃げる」ということがあります。借金から逃げる最悪で最良の方法がホームレスになることです。ホームレスの方にどうして借金したのか聞いてみると、ギャンブルが理由の人も多い。依存症を自覚していながら抜け出せない人もいます。 ビッグイシューで何年も活動してきましたが、この問題には何とかして決着をつけたいと思っています。それで、まず「ギャンブルレポート」3部作を作りました。(※)これは、ホームページから無料でダウンロードできるようになっています。これを読んでいただければ、問題の大変さがわかります。
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※『新版 疑似カジノ化している日本―ギャンブル障害を乗りこえる社会へ』(2018年10月15日発行)
日本のギャンブル依存症者は536万人、その有病率は男性9.06%、女性1.6%とされています。米欧の0.2~5.3%と比べ、突出して高い数字です。背景には日常に深く浸透しているパチンコの存在があり、人口の28人に一台、世界のギャンブル機の6割が日本に設置されていると言われています。
https://bigissue.or.jp/action/gambling/
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国としてカジノを推進していくという方向性に対しては、ホームレスになる大きな原因の一つがギャンブルであることを客観的な調査活動を行った上で意見を出し、社会の中でその問題について議論をしてもらいたいと思っています。
これも、ぼくたちなりのホームレス支援のやり方です。そしてこのような活動を通して社会の仕組み自体が変わっていかないと、ホームレスに代表される「社会から排除されがちな人々」に対する市民や社会の意識も変わっていきません。ぼくは、市民や社会の意識が変われば、社会そのものも変わると思っています。
NPOは社会を変えられるか?自立した財政基盤の必要性
NPO法人ビッグイシュー基金ではいろいろな活動をしていますが、行政の補助は殆ど受けていません。だから「カジノの推進」や「働き方改革」など、行政の施策に対して「一体何をやってるんだ」と反対意見を言い、それを変える提案を出すことが出来ると思っています。
そのための作業をするには、行政からではないお金集めが必要です。そこで私たちは、一般の皆さんに対して「社会を変えるのはあなたの寄付です」と呼びかけています。「お金がないから寄付してください」ではなくて、「一緒に活動しませんか」と呼びかけて、「忙しくてできない」と言われたときに、「寄付をすることはボランティアをすることと同じくらい立派な参加だから、ぜひ寄付参加をしませんか」とお話しているんですね。
個人的には人にお願いをすることは苦手なんですが、「活動に参加しませんか」という言い方で、ビッグイシュー基金は年間3,500万円くらいを個人の方からいただいています。このようなノウハウも、希望されるNPOなどがあればすべて提供したいと思っています。
ホームレス支援活動と社会変革
「ホームレス支援活動と社会変革」ということでは、我々が行ってきたプログラムを貧困問題の解決にも役立てることはできないだろうか思っています。具体的には、7つの内容を考えています。
1つ目は「情報提供」です。路上生活者の数は減っていますが、路上という場所にいないホームレスの方や、そうなる可能性を持つ生活困窮者者の方がものすごく増えています。そういう人たちに手にとってもらえるものを作りたいと思って、『路上脱出・生活SOSガイド』を昨年10月に大阪で作って7ヶ月で1万冊を配りました。
路上生活者は5,000人を切っているんですよ、それでも大阪版だけで1万冊がすぐなくなったんです。だから、路上生活者以外の人への情報提供をもっとしていきたいと思っています。『路上脱出ガイド・東京23区編』を改定した『路上脱出・生活SOSガイド(東京23区編)』も年内の12月1日に完成予定です。
2つ目の「ギャンブル障害問題の調査・研究」については、先ほど申し上げました。3つ目は、「住宅―低家賃住宅の開拓と情報提供」です。最近は空き家が増え、低家賃の住宅も出てきています。生活保護を受給しますと、大阪だと単身者だと住居費がだいたい4万2千円くらいになるので、低家賃住宅の開拓と情報提供をしていきたいと思っています。
4つ目は、「社会的不利・困難を抱えた若者応援ネットワーク」です。これは「もうひとつの仕事つくり」ということもできます。シビックエコノミー運動とも呼んでいます。そこでは社会問題の解決、新しいアイデア、仕事場づくり、市民参加、汎用性がキーワードになっています。
あとの3つの、「当事者個々人への仕事・生活プログラム―ベーシックインカムの検討」、「市民交流サロンづくり―オフィスの拡張と関連して」、「人と人をつなぐ『社会性スポーツ』の全国展開―ダイバーシティサッカー協会の設立」はこの言葉の通りです。
NPOと社会変革
最後に、NPOと社会変革という点について3つくらいの道筋を考えています。1つは、ささやかだけどビッグイシューがやってきたことを、貧困問題解決のためのプログラムつくりに参考にしていただいたようなやり方です。
これは「NPOによるコラボ&コレクティブパワー」ということで、限られた分野で深く展開して、そこから社会を変えるということです。どのNPOにも、ましてコラボできれば、もうすでに、そのノウハウとパワーは充分あると思うんです。
もう1つは、市民が少しでいいから暮しの中で価値観と行動を変えていくことです。たとえば、暮らしの一部で自前のエネルギーをつくって使うこと(すでにキットが売られている)や、シェアやコレクティブハウジングのように住まい方を変えることなどです。さらに社会保障を根本から変えるために市民が先の「ベーシックインカム」を考え議論することなどです。
最後の1つとして、私はNPOとは社会を変えていくための「陣地」だと思っています。その陣地がどうあればいいのかを考えることにつながる、社会像やそのあり方の議論を広く行うことだと思っています。コラボ、暮らしの自活、社会変革の陣地としてのNPOが相補的で動きやすい社会、などNPOが下からの社会変革の担い手になることだと思います。
「居場所を失ったひと・居場所をつくるひと ‐社会を地べたから変える力」
登壇:仁藤夢乃さん+佐野章二さん+関野和寛さん+奥田裕之(司会)ここからは登壇者3名のお話です。対象は違っても、どこか似た活動をしている皆さんのシリアスでありながらユーモアのあるお話でした。
【つぼみカフェの取組み】
佐野さん夢乃さんのバスの取組みがとっても面白いので、それを詳しく聞かせてもらえませんか。
仁藤さん
韓国でバスを使った青少年支援活動をしているいうことを知りました。ソウル市だけでそのような団体が10以上あって、同じ場所である曜日は完全民間で運営するバスが止まっていて、別の曜日には行政が運営しているバスが止まっていたりして、選べるくらいバスの活動があるということを聞いて、こういう場所が必要だな、作りたいなと思いました。
バスは「赤い羽根福祉基金」のご支援で購入しました。中古で手ごろなバスを探していたところ、ちょうど質素な感じのキャンピングカー仕様のマイクロバスがあったのでそれを購入することにしました。ただ色が手すりみたいなグレーだったので、自分たちの居場所を一緒に作るということが大切だと思って、女の子たちとデザインも一緒に考えながらピンク色に塗りかえました。
最初は、男子もバスに入ることができるようにしようと考えていたんですが、実際に来た男子がスカウト側の子で、上司に「偵察して来い」って言われてきたような感じだったので、お弁当を渡して「外で食べてね」と中には入ってもらいませんでした。本当はその子も似た状況にあってサポートが必要だと思うんですけれど、女の子の性的搾取が深刻で、少年たちがスカウト側として使われているかなり危ない状況です。
中学生も何人か来てくれました。3日間家出をしていて、このバスがあるっていうことを知って、そこをゴールにふらふらの状態でたどり着いた子もいました。その子たちはバスの準備をする前から近くにいたんですけど、自分から「助けて」とかぜんぜん言ってこないんです。そういう子ほどアピールをしてきません。
【「支援をしない」という支援】
仁藤さん佐野さんは「選択肢を増やしていきたい、ただそれだけの思いでやっている」とお話していましたが、私たちもその子たちを「保護してあげたい」とか「支援してあげたい」のようには思っていないんです。こんな話をできるところは他にあまりないんですけど、私たちは「支援」したくないんですよ、本当に。『「支援をしない」っていう支援』が大切だと思っていて、女の子たちも自分が主体だし、支援をされたいわけじゃないんです。選択肢を増やしていくサポートができればいいなって思っているので、佐野さんの活動にすごく共感しました。
たとえ売春している子であっても、「たいへんだったね」、「苦しかったでしょう」とは私たちは言わないんです。「へー、そうなんだ」、「どうしていきたいの?」と言って、話をしてもらってそして一緒に考えるようにしています。
関野さん
「支援しない支援」という考え方は、とてもすばらしいと思います。教会って、人が来てくれればハッピーで、帰ってくれたらもっとハッピーなんですよ(笑)。人って「援助」しようとすると、だいたい最後は牙を向いて去っていくんですよね。いろいろな人が教会にきますが、すこし援助したある人に殺害予告書を送られてしまって、その結果、ぼくは警視庁の特定指定保護人物になってしまいました。「特定指定保護人物」ってどんなことをしてくれるんですかって警察に聞いたら、何かあったらすぐ行きますと言っていました。当たり前だよ(笑)。
助けることはできない。だけどやらないよりはマシで、スピーン一杯で海をすくっているのかもしれないけど、こういう人間って面白いじゃないですか。お二人の話を聞いてそんなことを感じました。
【仕事づくりの大切さと難しさ】
仁藤さん私たちができていないのは、「仕事作り」の部分です。仕事が無いから女の子たちが性売買などに行くんですよね。そういう業者が上手なのは、ハードルを下げて「住むところもあるよ」、「仕事もあるよ」、「奨学金が返せるよ」などと言って取り込んでいくんです。だから仕事作りもだいじだなって思うんですけど、それはまだ出来ていません。少女向けのいけてる雑誌を、ビッグイシューで作ってもらったりするといいかもしれません(笑)。
佐野さん
少女向けの雑誌を作れといわれたら、これはまた大変なんですけど、何かを一緒にやりましょうっていうことなら、しっかり話し合ってやりたいなと思います。
例えば、すぐにできることならビッグイシューに応援に来てくれる女子大生が、2~3人販売者の横に立ってくれることがあるんですが、そうすると売上げが2倍になるんですよ。Colaboの女の子が本当に仕事をしたいと思っていてビッグイシューを販売したら、おじさん販売者の2倍は売れますね(笑)。おじさんと若い女の子のコラボ販売もある。「ホームがない」という意味では、仁藤さんが支援している女の子たちも広い意味でのホームレスですからね。大歓迎しますよ。
仁藤さん
私も10代のころは、「自分たちってホームレスじゃない?」って言っていました。「難民高校生」という本を書いたのも、子どもの頃にニュースで「ネットカフェ難民」という30代の男性を見て、「うちらじゃん」と思ったからでした。
ホームレスのおじちゃんがColaboに寄付してくれたことがありました。路上で誰かにもらったけど自分では使わない「使い捨てカイロ」を、郵送費をかけて送ってくださったんです。でも開けたらそのカイロが、めちゃめちゃタバコくさくて(笑)。でも気にせず使わせていただきました。そういうつながりはとても嬉しくって、その中に震えたような字でしたけど、一言お手紙も入っていたんです。
仕事作りを考えるときに難しいのは、そういう少女たちと関わりたいというキモイおじさんがいっぱい来ちゃうところですね。興味本位で売春していた子を見にきたり、孤立しているっていうことがばれちゃったり。Colaboの名前を出すとそういう部分が難しいので、他のいろいろな関わりの中で選択肢を増やしていくかたちがいいのかなって思います。
佐野さん
Colaboを表面に出すことは難しいとお話しされていましたが、考えると、いろんなことが出てきそうです。日本社会は路上についての制約がきついんですが、でも、その気になればだいたいのことは出来ます。こういうことがやりたいというアイデアがあったら、悪知恵をめぐらせてお互いに相談して頑張りましょう。
【来場者からの質問】 仁藤さんに質問です。10代の阿蘇牧師との出会いが自分が変わるきっかけだったとお話ししていましたが、どんな「選択肢」を提供してもらって、その状況から脱出できたと思いますか?
仁藤さんそれまでは、周りの大人はすべて自分に無関心で、ただ流れていく人たちのように思っていました。阿蘇さんと出会って、普通に扱って普通に声をかけてくれる大人もいるんだと思って、大人もヤバイやつばかりじゃないんだって思えたことが、選択肢の一つになったと思います。それから困った時は自分で耐えたり、自分自身でそれを何とかしなくちゃと思って諦めていたことが、周りの人に声をかけて手伝ってもらったり、助けを求めたりすることもありなんだって思うようにもなりました。 10代の頃は「死にたい」と思うことが数え切れないほどあったんですが、「死にたくなくなる日」ってある日突然やってくるんじゃないんです。いろいろな人との出会いを通して、その波がだんだん緩やかになってきて、「死にたい毎日」が「たまに死にたくなる」になって、「そういえば最近はあまり死のうって思ってないな」くらいの感じでした。「人とのかかわりって、なしじゃないな」と思えたことが一番大きかったと思います。
【来場者からの質問】 出会いの後に、仁藤さんの家庭や居場所など、何か具体的に変化したことはありましたか?
仁藤さん家族との関係については、女の子たちにもよく「親が変わることはないから、それは諦めたほうがいいよ」と話すんです。親に期待して、「ママに変わって欲しい」とか「パパとママに仲良くなって欲しい」とか思ってしまうんですけど、親だって悪いことをしようと思っているわけではなくって、もうそういう関係性なんです。私の場合も、親と少しでも良い関係を持てるように距離を取ったり、ガードをしないと関係を保つことは難しいです。いまそれがようやく出来るようになったのかなと思っています。
「成果はなんですか?」、「具体的な前向きな話はないんですか?」ってよく言われますけど、ほとんどの女の子たちは、まだ絶望の中にいます。上手くいった場合でも、「もし上手くいかなくなれば、また来ればいいよ」って送り出します。もし上手くいかなくても、何度でも来たらいいし、一緒に考えるし、それで「私なんかダメだ」って思う必要はないからって。そういう関係性を作れていること自体が一番大事なことだって思います。
一応、助成金などの報告書には、相談件数は何件とか、同行支援は何件とか書きますけど、本当は何人支援したとか、そんな数字はくだらないなって思っています。今回、バス事業を始めて良かったと思ったことのひとつに、15,6歳の頃から関わっていた今では20歳くらいの女の子たちが、テレビで見たといって3人くらい「手伝いたいんだけど」って連絡をしてくれたことがあります。昨日も半分当事者、半分ボランティアみたいな感じで手伝ってくれました。初めて来た子たちに「ここ座る?」とか自然に話しているのを見て、一緒に自分たちの居場所をつくりたいと思ってくれているんだなって感じました。
こういうことこそが「成果」といったら違うのかもしれないんですけれど、「簡単じゃないこと」なんじゃないかなって思います。
皆さんからのコメント
最後は登壇者の皆さんに加えて、会場で雑誌を販売していたビッグイシューの販売者、そして突然のお願いをしてしまいましたが元販売者にも感想とコメントをもらいました。ビッグイシュー販売者
今日はビッグイシューを買っていただいてありがとうございます。私は3年くらい路上で生活をしています。ここだけでしか話せないことなんですが、実は去年に路上で寝ていた時に10代後半くらいの女の子にパンを盗まれまして、それがすごくショックでした。いや、別にお金が盗まれたとか、暴力を受けたとか、そういうことなら無いこともないのでいいんですが、若い女の子がパンを盗むっていうのはすごいショックなことで、現状はどんなことになっているんだと思っていました。
今日はColaboの話を聞いて、原因はまったく違うんでしょうけど、結局は似たようなことなんだろうなと思いました。女の子への性産業だけじゃなくて、ぼくにも貧困産業の人たちがたくさん話しかけてきます。ビッグイシューで一番いいと思うのは、強制的な部分がないこと、時間をくれることです。仁藤さんの話をきいて同じように思ったのは、「整理する時間をくれている」ところです。やっぱり、自分の中で整理しないと前に進めないんです。
あと、お話しした皆さん「不真面目」っていうか、「肩肘張ってない」感じがとても大事だなってすごく思いました。やっぱり、人間味のある人たちの支援ってすごくいいと思います。
ビッグイシュー元販売者
福岡で3年ほどビッグイシューを販売していて、卒業して4年くらいになります。現在は別の県で人材派遣会社の正社員で働いています。今日は、たまたまホームページを見て休みの日とばっちり合ったんで来てみました。来て正解だったなと思います。いろいろな話を聞けたし、堅い話になるのかなと思いきや、皆さんけっこうぶっ飛んでいて、しかも一番ぶっ飛んでいたのが牧師さんだったという(笑)。
以前は販売者で、いまは就職してビッグイシューのサポーターになっているので、両方の立場ということになります。Colaboとビッグイシューのコラボレーションは面白いと思いますが、やっぱり10代の女の子だから、販売を人にやれって言われてしたくはないだろうし、もっともっとやれることがあるんじゃないかなって、率直に思いました。
関野さん
今日は楽しい夜でした。キリスト教のタペストリーがあるんですが、それを見るとイエス・キリストは馬小屋で生まれたホームレス、聖母マリアは15,6歳で結婚前に妊娠しちゃった女の子、少しだけど今日の話と関係している部分もあります。2つの団体の話を教会で聞いて、キリスト教も悪くないなって思って帰ってもらえると嬉しいです。
仁藤さん
今日はありがとうございました。ビッグイシューの販売者と元販売者の方の言葉に、私も励まされました。不真面目な人間でよかったんだよって、許されたような気持ちになりました(笑)。 青少年支援といって行政などの公的機関と連携すると、「こうあるべき」とか「こうしなさい」ということがあって、私はピンク色が好きなんですけど、最初は紺色の服を着て、髪の色も暗くしていたんです。最近は私のことを理解してくれる人も出てきて、好きな服を着て、好きな髪色にして、好きな爪をつけて活動をしていけるようになりました。
困っているからって、誰かの言いなりにならなきゃいけないとか、困ってる感じを出さなきゃいけないとか、そういうことじゃなくて、一人一人が強制されずにありのままに生きていけて、困ったら何か手伝うことはできるよって、そんなふうにこれからも活動を続けていきたいなって思っています。
佐野さん
今日は本当にありがとうございました。ぼくも76歳で、早く走ったり体力的に難しい場面も出てきています。議論をすると動きたくなるじゃないですか、動けないのに議論するのは不健全だと思っていて、これでも抑え気味に話しているんです。
この場には、支援活動をなさったりNPOをなさってる方もいらっしゃると思います。NPOがこれからどう社会と相渉っていくのかということが、社会のためにも、今後のとても大事な課題になっているんじゃないかなと思っています。今度はそんな話もしてみたいと思います。
おわりに
牧師として人間のいろいろな場面に関わっている関野さん、50歳近く年齢が離れていても共通する感触がある仁藤さん佐野さん、そしてコメンテーターのお二人も含めて、「真面目で不真面目」な皆さんのお話しでした。仁藤さんがお話した「簡単じゃないこと」が、たぶん今の社会で一番大切なことなんでしょうね。
(文責;奥田裕之)
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転載ここまで
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・「家出少女」を体験する研修。夜の街をさまよう少女たちに寄り添う「支援者養成講座」がスタート:一般社団法人 Colabo上記の記事は『ビッグイシュー日本版』325号にも掲載しています。
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。