“政治の話をしない政治家”はおとがめなしの一方で、芸能人が政治の話をすると「芸能人がそんな話をするなんて」と専門家以外が政治の話をすることがタブー視されがちな日本。

しかし、日本では相対的貧困率が高く(*)、欧米と比べると税と社会保障による再配分が機能していない。そのため、シングルマザー、若年層、中高年女性といった集団の負担が大きい。さらにその負担は可視化されづらいゆえに、制度や仕組みは変わらないままだ。


「選挙に負けたやつらは口を出す資格はない」!?

「その状況が嫌なら選挙に行って、支持する政党に投票すればいい。正当な選挙の結果、少数派は負けたのだから、負けた層には何も言う権利はない」ーそんな意見もSNSなどで見受けられるが、民主主義と多数決を混同してはならない。

“社会的少数派は苦しみに耐えるべき”という考え方は、およそ近代的でもなければ文明的でもない。人権がかかわるようなことこそ、人権が脅かされやすい少数派の意見に耳を傾ける必要がある。また、公的な政策づくりには反対意見の人の税金も使われる。いかに意見を調整して合意を取り前に進めるか、が本来あるべき姿なのだ。

参考:「民主主義」について湯浅誠さんにインタビュー

しかし格差が拡大している状況においても、政治に関心を持ちづらい。

「どうせ高齢者が多数派だから、若い世代の意見は負ける」「公約は選挙のためのもので、果たされることはない」「選挙で明らかになったはずの民意が踏みにじられている」……etc.
若い世代が、政治に関心をなくしていくであろう原因はいくらでもあるのが現状だ。

そこで、東京大学社会科学研究所教授の宇野重規さんは、中高生に政治学を考える5回の講義を行い、その内容を著書『未来をはじめる「人と一緒にいること」の政治学』にまとめた。

2019年1月1日発売の『ビッグイシュー日本版』350号のスペシャルインタビューのうちのひとつは、その宇野重規さん。
今大きく変わりつつある世界と、民主主義について聞いている。

「3つ以上の選択肢のある場合、投票結果は民意を反映できていない」!?

そのひとつが、選挙の方法。多くの人で物事を決めるときに、3つ以上の選択肢があると結果が必ずしも民意を反映したものにならないことがあるという指摘だ。

たとえば、ここにX、Y、Zという案がある。そこに21人が「一つを選んで」投票したところ、1位:X(8人)、2位:Y(7人)、3位:Z(6人)という結果になったとしよう。
現在の日本の選挙の方法では、「もっとも民意を反映している」としてXが選ばれる。

しかし、ナウル共和国で採用されている「ボルダ・ルール」はこうだ。「1位3点、2位2点、3位1点」を21人がX,Y,Zに点数をつけて総合点で判断する。

たとえば1位、2位、3位にそれぞれ、4人が「X,Y、Z」、別の4人が「X、Z、Y」、さらに別の7人は「Y、Z,X」残りの6人が「Z,Y、X」と点数をつけてみるとどうだろうか。「1択」の場合はXが8票獲得し当選するが、「ボルダ・ルール」の場合はYが45点、Zが44点、Xは37点となる。図解するとこうだ。

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「そんなの、今の選挙方法で選ばれた人が選挙の方法を決めるんだから、こんなルールが採用されるわけはない」と思うかもしれない。

しかし、実際の選挙とまではいかずとも、日々の仕事で「商品パッケージの決め方」や、プライベートでの「飲み会や旅行先の決め方」に採用してみることから始めてもいいのではないだろうか。

政治は政治家だけがやるものではないのだ。まずは自分の小さなコミュニティで、少しずつみんなの意見が反映されるという経験を培い、その範囲をそれぞれが少しずつ広げていくことで、政治のイメージも変わっていくかもしれない。

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『ビッグイシュー日本版』350号ではそのほかにも、

・2019年ビッグイシューかるた「生き方術」
・新春エッセイ:時を超えるサイエンス/福岡 伸一
・スペシャルインタビュー1:ヨーロッパ、旧石器時代の「洞窟壁画」人類が世界に拡散する中で残った美術/五十嵐ジャンヌさん
・スペシャルインタビュー2:ジェーン・フォンダ
・リレーインタビュー。私の分岐点:ブルボンヌさん
・国際:ホームレス状態を追体験するスイスの社会派シティ・ツアー
・ホームレス人生相談 × 枝元なほみの悩みに効く料理:「英語を勉強したいけどいつも三日坊主」販売者と枝元さんが回答

など、盛りだくさんです。

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