公文書の管理や情報公開が問題となっている。そもそも公文書とは? 情報公開は市民にどんな意味があるのか? NPO法人「情報公開クリアリングハウス」理事長の三木由希子さんに聞いた。


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Photo:竹内弘真

待機児童の入所決定過程は?なぜ、給食に異物が混入?
すべてが文書の公開でわかる

公文書や情報公開というと、日常生活からは縁遠いものに感じる人が多いかもしれない。しかし、実際には「一般市民にも無縁ではない身近な制度」だと三木由希子さんは言う。

「たとえば、保育所の待機児童問題で、どんな基準で入所者を決定しているのか知りたくて市役所に情報公開を請求した人がいます。また、給食に異物が混入した問題で、給食を校内でつくる自校方式から外部委託にした途端、異物混入の報告が増えたという話を聞き、真偽を確かめたくて教育委員会に情報公開を求めた人もいます。こうした情報を手に入れるために必要な費用は、資料1枚につき10円のコピー代しかかかりません」

情報公開クリアリングハウス(以下、クリアリングハウス)の前身「情報公開法を求める市民運動」は1980年に生まれた。元々は「食品添加物や農薬の使用基準について、市民が行政の議論に参加したくてもできなかったり、薬害の被害者が政府の情報にアクセスもできず、結果だけを押しつけられてきたことが背景の一つでした。そうした状況に異議を申し立て、市民の“知る権利”を具体化する手段として生まれたのが、99年に成立した情報公開法です」。

三木さんは「行政が公文書をしっかりと管理・保存し、必要に応じて市民がそれを知ることができるかどうかは、民主主義の根幹にかかわる大切なこと」だと言う。

そもそも、公文書(行政文書)とは何だろうか?

「定義は、行政の職員が作成・取得し、組織的に用いられ、行政機関が保有している文書のこと。記録がきちんと管理・保存されていなければ、私たちが情報を得たい時に、時間と空間を超えて情報を共有することはできない。記録がなければ、政府や自治体、議員が何をしているのかも知ることができません。そうした状況で首長や議員を選挙で選ぶのは、暗闇で物事を選ぶに等しいことになります」

だからこそ、政府が何をしているのか、いつでも知れる状態にしておくことが重要になってくる。疑問をもった市民や、各分野で活動しているNPO・ジャーナリストが情報を入手して発信することで、社会にどのような課題があるかを私たちは知ることができる。「09年に制定された公文書管理法にも、行政が用いる情報は『健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源』であると定められています」
車椅子ではない人と同じタイムで避難可能に。

例外的な「1年未満保存」を悪用
ブラックボックス化、情報隠ぺいの手段に

クリアリングハウスは、情報公開制度を使ってみたいと考える市民やNPO、ジャーナリストなどに向けて支援活動を行うほか、情報公開制度の運用状況を調査し、課題を明らかにするアドボカシー(政策提言)活動や、自身が申立人となって情報公開を求める訴訟・提訴なども行っている。

たとえば、「福島第一原発事故関係の公文書に10年、20年後もきちんとアクセスできるように情報公開を請求して、検索可能なデータベースにする作業を今も続けています」。作業を積み上げてきた結果、近々、データベースの情報数は5400件に達するという(※)。

※福島原発事故情報公開アーカイブ


しかし、この公文書の保存期間について大きな問題があると、三木さんは話す。
「『法律案又は政令案の審査の過程が記録された文書』の保存期間は30年、『国会における決算の審査に関する文書』は5年など、全行政機関で共通の大くくりな基準はありますが、さらに細かいものは各省庁の現場判断になります。この時“法の抜け穴”になっているのが、短期で目的を終える文書に例外的に認められている『1年未満保存』という基準なのです」

たとえば、現場で1年未満保存と決められた公文書は「ファイル管理簿に登録しなくてよい」「廃棄は各行政機関の判断で行い個別審査を受けない」ものになってしまう。その結果、1年未満保存の行政文書がどのくらい存在するかもわからず、それを確認するすべもないのが実情だという。

「今は1年未満という基準が完全に“ブラックボックス化”しており、最近の一連の事件でも、情報の隠ぺいを容易にする手段として悪用されていることが明らかになった」と三木さんは指摘する。


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文書の利用実態があれば保存・管理は当たり前
原則「1年未満」基準の廃止を

実際、国有地の売却を巡る経緯が問題となっている「森友学園」の場合は「国有地の代金を10年かけて分割払いするというのがそもそもの契約。ですから、その間は土地を管理する財務省には説明責任があるはずで、学園との交渉記録は1年未満保存文書として廃棄せず、保存しておくべきでした。今回、森友問題は政局化してしまいましたが、『今後どうすれば国有地の売却は信頼に足るものになるのか?』という論点に立ち返らないと、問題は何も解決されません」

12年から南スーダンに派遣されていた自衛隊の日報が“廃棄された”として不開示になった後、保管データが出てきた問題も、根底には1年未満という基準の存在があったという。
「1年未満という保存期間そのものがおかしいし、派遣中は必ず日報の原本を保存するなどとしていれば、こんな問題にはならなかった。原則として1年未満という保存期間は廃止するべき」と、三木さんはずさんな管理体制を批判する。

さらに、加計学園の獣医学部新設で、安倍首相の意向が働いたかどうかが問われている問題では、当初“怪文書”とも称された文科省の関係文書が再調査によって存在を認められた。

「この一件では、行政文書としての利用実態があるにもかかわらず、それを“個人保存文書”にして、きちんと保存・管理していなかったという重大な問題が浮かび上がりました。内閣府が文科省と交渉したのであれば、それも含めて記録して残しているのが当たり前。そのことを政治の側からも行政の側からも指摘してもらう必要があります」と三木さん。

「公文書管理も情報公開も、何か問題が起きると入り口としては盛り上がりますが、情報の中身が問題になってくると、そちらに気を取られて主たる問題ではなくなってしまうのが残念です。一番大事なのは、この制度が『公益を追求するものである』という大原則。現状では、制度の理念を無視した“脱法的”運用がされていると言わざるを得ません。政府に不利益があっても公益にかかわることであれば、その情報は健全な民主主義のため、ぜひ公開してほしいと思います」
(香月真理子)



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※以上、2017-07-15 発売の
『ビッグイシュー日本版』315号「ビッグイシュー・アイ」より記事転載

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THE BIG ISSUE JAPAN317号 
特集:いま遊べ!――子育ての未来
「保育は社会全体の問題」と言う、ジャーナリストの猪熊弘子さんに「日本の保育の今と未来」について聞きました。
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