「管理が行き届いた、持続可能でイキイキした森林を夢見ています」

メキシコシティから南に840km、オアハカ州「ラ・トリニダ共有地委員会」のリーダーを務める森林管理者ロヘリオ・ルイスは言う。

「私たちは森を整備し、林業によって森林を再生させなくてはなりません。こうした活動は生態系にとって、とりわけ気候変動の影響に適応していくうえで必要不可欠です」

森林環境は気候変動の影響を緩和できる自然メカニズムであると同時に、気温上昇や降雨量の変動、害虫のまん延といった問題も発生している。 

「コミュニティ林業」の先進事例:メキシコのラ・トリニダ共有地

ラ・トリニダのあるシエラ・フアレス山脈の生態地域でも、こうした問題ははっきり認識されている。

2017年以降、オアハカ州中部に多く見られるマツの葉を食い荒らすマツハバチが大量に発生し、約1万ヘクタール(*)の森林が危険にさらされているというのだ。ルイスのコミュニティでも、805ヘクタールのうち106ヘクタールにダメージが出た。 ラ・トリニダは従来の土地制度に基づいた、地域共同体で所有・管理する土地で、売買可能な土地「エヒード」とは異なる。

*編集部注:およそ東京ドーム2,127個分に相当。仏パリ市の面積が10,540ha。

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Photo :Emilio Godoy/IPS
メキシコ南部オアハカ州のシエラ・フアレス森林は気候変動の影響にさらされているが、気候変動の緩和に一役買うこともできる。 


「今年9月には上空から生物農薬(バイオペスティサイド)の散布を行いました。今後は手動ポンプも使って散布していきます」とルイスは言う。この地では35年に渡り、私有林事業に対する闘争が繰り広げられていたのだが、その闘争の成果として、ラ・トリニダのような地域共同体管理の森林が誕生したのだ。ルイスも先日、この闘争を讃える式典に参加したばかりだ。

ラ・トリニダは291名の共同体住民とその家族から成り、2014年に定められた「8ヵ年管理計画」の間は、年間5,000立法メートルの木材伐採が認められている。このコミュニティ主導の取り組みは、メキシコ国内における「コミュニティ林業」の好例となっており、社会的・経済的・環境的メリットをもたらすモデルとして世界的にも知られている。

気候変動にさらされている今、森林に必要な公共政策とは

ラテンアメリカ第二の面積(196万㎢)を誇るメキシコは、2030万ヘクタールの温帯林、85万ヘクタールの中温性山林、5020万ヘクタールの低木地帯、790万ヘクタールの草地、1150万ヘクタールの熱帯雨林、そしてその他の植生エリア140万ヘクタールを有する(国立統計・地理研究所の2016年調査より)。

NGO「持続可能な林業のためのメキシコ市民協議会(Mexican Civil Council for Sustainable Forestry)」は、4886ある森林コミュニティとエヒードの中から、商業的に森林を利用している2100をリストアップした。その結果、適切な管理保全プラン、「国立森林委員会(National Forestry Commission)」が推奨する収穫プログラムの要件に従って運用しているのはわずか600、面積にして700万ヘクタールほどだった。

メキシコの木材総生産量は年間700万立法メートルに及ぶが、オアハカ州が占める割合はそのうちのわずか7%以下だ。

森の生態系は都市部へ水を供給し、水サイクルを調節し、食料を供給し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を吸収、その他にもさまざまな環境にプラスになる機能を提供していることが、科学的研究で明らかになっている。

「気候変動の脅威にさらされている今、森林に必要なのは公共政策です。経済的なインセンティブがあり、土地保有に関する法的安定性を提供し、きちんと管理することで林業の市場を拡大し、生産性を向上させる政策が求められている」と森林団体や専門家らは述べる。

自治体イクストランでの取り組み

600ヘクタールの森林がダメージを受けたオアハカ州のイクストラン自治体では、害虫との戦いに挑むべく、苗床で5種類のマツの品種改良に取り組んでいる。

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Photo : Emilio Godoy/IPS
メキシコ南部オアハカ州の自治体イクストランのコミュニティ森林、伐採した松の木をトラックから下ろす。森林というコミュニティ資産を、持続可能な方法で管理している。 


「11月と12月に種の選別を行いました。 我々が求めているのは、成長が早く、害虫への抵抗力が高い品種です」とサント・トマス・イクストラン森林組合のアドバイザー、セルヒオ・ルイスが言った。

イクストラン自治体は19,125ヘクタールの土地を所有し、うち30%が林業に使われている。自治体はエコツーリズム、ガソリンスタンド、店舗、家具工場、飲料水工場などを運営している。 2018年、苗床で36万の苗を植え、うち10万が森林再生に用いられ、26万が近隣コミュニティに寄付された。採種園(*)を作ることを目指している。州立シエラ・フアレス工業大学による準備研究では、イクストランの気候因子(気温、湿度、土壌の状態)の分析を進めている。

*形質のすぐれた造林用苗木を多量に生産するための樹木園

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Photo:Emilio Godoy/IPS
メキシコ南部オアハカ州の自治体イクストランのコミュニティ森林の労働者たちが苗木を検査している。苗床をつくり、気候変動に対する抵抗力がある松を育てていきたい考え。


2015年、6億8300万トンのCO2を排出したメキシコは、ラテンアメリカではブラジルに次ぐ第二位の排出大国となった。うち2000万トンは「森林の消失」が原因だ。

2015年、メキシコ政府は2030年までに「森林破壊ゼロ」とする目標を採択した。しかし、2011年からの5年間で年平均200,867ヘクタールの伐採が行われたこの国では、実現困難な目標だ(数字は政府監査機関「連邦最高監査局」による)。

シエラ・フアレス山脈の他の土地も、標高があるため害虫被害は免れているものの、気候変動の影響下にある。

例えばサン・フアン・エバンヘリスタ自治体では、森林管理者たちが気候変動に適応すべく準備を進めている。「森林整備を行うことで、山火事の拡大や害虫被害のリスクを減らせますから、とても大切です。整備されていない森と比べてCO2吸収率も高くなりますし、気候変動の加速を食い止めてくれます」当自治体の林業技術アドバイザーであるフィレモン・マンサノは言う。

150人の共同体住民から成るアナルコ自治体では、所有する土地1600ヘクタールのうち1000ヘクタールが森林、430ヘクタールが伐採用とされている。苗床では3000本の苗木を育てている。

マンサノは州立農大大学院の学者らと共に、「管理された森林のCO2吸収率」について研究を進めており、1ヘクタールにつき年間5トンのCO2が吸収されると見積もっている。

気候変動に関する「パリ協定」において、メキシコは2030年までに年間CO2排出量を最大1400万トン減少させると誓約した。その方法としては、持続可能な森林管理の促進、林業の生産性向上、森林プランテーションの推進を想定している。しかし、これらにかかる費用は117億8,900万ドル、CO2を1トン軽減するのに53ドルかかる計算だ。さらに、「森林伐採ゼロ」の実現には79億2,300万ドルが、「持続可能な森林管理」には38億6100万ドルがかかってくる。

2018年7月、メキシコ政府の森林管理部門はキャンペーン「森とともに、永遠に」の一環として、長期政策、投資拡大、法的枠組みの整備、自治体による森林管理の強化、方策設計への地域住民の積極的関与、及び気候変動との関連などを提案した。

ルイスも、生態系のより良いケアを提供し、恩恵を享受しようと呼びかけた。

2018年9月、15のパートナー団体から成るワシントン拠点の世界的ネットワーク「ライト・アンド・リソース・イニシアティブ(Rights and Resources Initiative)」は、報告書「コミュニティ共有地におけるCO2貯留のグローバルベースライン」を出版、メキシコの自治体管理による森林は280万トンのCO2を貯留しているとした。

マンサノは森林のさらなる管理を訴える。 「森林を管理することで、いかに地球環境の保全に貢献できるかを示していきたいです。 害虫への抵抗力が高い種を増やし、混合種を作り出すことも重要です」

By Emilio Godoy
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo



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