ゾウに「衛星コラー(首輪)」をつけ、移動パターンを記録。マサイの家畜を守り、人間とのトラブルを防ぐ

2017年にケニアで外国人として初めて野生動物の治療許可を得た滝田明日香さん。ケニア、マサイマラ保護区(※1)で小型飛行機を自ら操縦し、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する。ケニアでも今、新型コロナウイルス感染症が広がっているという。 

※1 ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系を一にする。 

ゾウの保護、第一線で活躍する
マラエレファントプロジェクト 

今年1月、NPO法人「アフリカゾウの涙」(※2)の共同代表の山脇愛理がケニアにやって来て、私たちは今後、毎年悪化している“人間とゾウの衝突問題”にどのようにかかわっていけるかを話し合った。 マサイマラでのゾウの保護の第一線では「マラエレファントプロジェクト」という団体が過去10年ほど活動している。彼らは最初、主にゾウに「衛星コラー(首輪)」をつけてゾウの移動パターンを記録する活動、その後は密猟阻止パトロールに専念して、近年になりゾウと人との衝突問題に取り組んでいる。

※2 アフリカゾウの保護のため、山脇愛理さんとともに立ち上げたNPO法人。 

「マラエレファントプロジェクト」の代表のマークとは10年以上のつき合い。彼が若い頃、初めてマサイマラにやって来た時からの知り合いだ。スワヒリ語を流暢に喋る190㎝の長身のケニア白人である(ちなみに私のスワヒリ語も同じくらい)。彼の亡くなったお父さんも国立公園の保護職についていたが、マークも同じヘリコプターパイロットになり“上空から畑を襲うゾウの追い払い”などで活躍している。

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マラトライアングルのタンザニアの国境の近くは、保護区のすぐ外にカレンジン族の耕すメイズ(トウモロコシ)畑が続いている。近年になってゾウ保護活動で一番問題視されているのが、人間とゾウの衝突である。そして、あらゆる穀物の中でも一番好むのがケニア人の主食のウガリ(トウモロコシの粉を練っていぶしたもの)の原料であるメイズだ。 農家が1年間かけて育てたメイズの収穫の時期になると、ゾウによる畑の被害が急に増え始める。大切な作物を守ろうとして、農民は槍や毒矢で一所懸命に6tも7tもある巨大なゾウを闇夜の中で守ろうとする。ゾウは毒矢に刺されて数日や数ヵ月後に感染から死んでしまったり、逆に人間がゾウに殺されたりする可能性もある。真剣な問題である。  

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保護区の境界線のすぐ横に広がるメイズの畑

メイズの畑を荒らすゾウ
まるで”穀物依存症! 

畑を荒らすゾウは英語で「クロップ・レイダー(Crop raider)」 と呼ばれる。ゾウは3つの種類に分かれる。「ノンクロップ・レイダー(Non-crop raider)」は穀物荒らしをしないゾウ。「ソーシャル・クロップ・レイダー(Social crop raider)」は仲間と一緒にいる時だけに穀物荒らしをするゾウ。そして、1頭であろうと関係なく、メイズが熟すと必ず穀物荒らしをするゾウの「クロップホリック(Cropholic)」(穀物依存症。アルコール依存症などと同じコンセプト)がいる。

クロップホリックなゾウは民家に近づいて畑を荒らすことで起きるリスクをまったく気にしていない。過去に槍で刺されたことがあっても、メイズの匂いを嗅いでしまうとコントロールができなくなってしまう。普通に考えたら、小さい子ゾウを畑に連れていくのはリスクが高い行動だとわかっているはずだが、メイズの匂いに魅せられて自分の子どもや孫まで危険な場所に導いてしまう。まるでアルコールなどの依存症のある人間の行動と同じである。

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畑を襲うゾウの多くが毒槍などによって命を落としている 

そして、私たち「アフリカゾウの涙」が「衛星コラー(首輪)」をつけたいと思っているのは、そのようなクロップホリックなゾウである。
クロップホリックな個体をチェックすることで、いつ畑がどのエリアで襲われるのかを、手元の携帯のアプリケーションからチェックできるからだ。 このコンセプトはアフリカゾウだけではなく、マラコンサーバンシーとしても保護区の外に出てマサイの家畜を殺すライオンに使える。

そんなライオンにも衛星コラーをつけようと計画中だ。 ヌーの大群がマサイマラを横切って去っていくと、毎月のように保護区のライオンがマサイの家畜が住んでいる民家の周りを夜間に徘徊するようになる。そして、家畜が殺されると損害賠償を払うのはマラコンサーバンシーだ。 12月末にもすでにライオン2頭が家畜を殺して、そのうち1頭はマサイに殺されている。家畜が殺されてから対処をするのではなく、ライオンが保護区を出た時点でその居場所を把握することで事前に事故を防ぐためである。ライオンのいる茂みの近くには家畜を連れてこない、ライオンが近くにまで迫っている家は火を焚くなどの予防対策を取る。そうすることで、ライオンによる家畜被害が減り、人間に殺されるライオンもいなくなることになる。

ケニアでもコロナウイルス
自然界に敬意を失った人類 

このように、今年はいろいろエキサイティングなプロジェクトを計画していた。しかし、ケニアで3月12日に新型コロナウイルスの初めての陽性患者が出てしまった。学校は閉鎖され、コロナウイルス感染発生国からの入国は一切禁止、それ以外の国からも入国後14日間の自宅隔離が義務づけられた。今年のケニアでの動きは、コロナウイルス・パンデミックが今後どのように展開していくのかにかかってしまった。
このコロナウイルス・パンデミックは、私たち人類に何を訴えているのだろうか。これをきっかけにして、今の人類の持続不可能な生活スタイルやイデオロギーを考え直さなくてはならないのではないだろうか。このパンデミックを通して痛感するのは、いかに私たちが自然界に対しての敬意を失ってしまったかということである。自然と共に生きてきた道を忘れ、自然を破壊し、野生動物を殺し続けてきた。目に見えない神を崇拝するのに、目に見える自然を破壊することに躊躇しない。今まで森の奥で野生動物と共存していたウイルスが、森林伐採や野生動物市場によって、抗体がない人間の世界に広がってしまったのだから。 (文と写真 滝田明日香)

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「#私は象牙を選ばない」
新しいキャンペーンをスタート! 先月の3月3日「世界野生生物の日」に、「アフリカゾウの涙」はWILDAIDと共同で、SNSを中心に“日本の象牙卒業”への賛同の声を広める啓蒙プロジェクトを公開。野生動物や環境問題に普段は縁のない人たちにも知ってもらうきっかけとなり、また関心を持った人がすぐに賛同行動に移せるように、インスタグラムを中心にしたキャンペーンです。 私たちを日々応援してくださっているみなさんにも参加していただけると、さらなる拡散につながります。参加の方法は、インスタグラムで@wildaidjapan に入っていただき、そこから本キャンペーンの「REDonNOSEエフェクト」を使って自撮りをして投稿してください。ぜひ、参加してください。 

▼マラソラ・プロジェクトへの寄付のお礼とご報告▼
マラソラ・プロジェクトには多くの方から寄付が寄せられました。2020年3月現在の寄付額は831万円。継続して寄付を募っています。なお、寄付いただいた方はお手数ですが、メールでinfo@taelephants.org(アフリカゾウの涙)まで、その旨お知らせください。 

MARA SORA PROJECT支援金振込
口座名:MARA SORA
ゆうちょ銀行から振込の場合
口座番号 10130-79020661

*その他の銀行から振り込む場合
店名:〇一八
店番:018
普通預金 口座番号 7902066
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以上、ビッグイシュー日本版381号より「滝田明日香のケニア便りvol.16」を転載。

たきた・あすか

1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務する。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。 
https://www.taelephants.org/

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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。

本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。

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