2018年の世界的な死刑執行件数は前年度より31%減少、少なくともこの10年では最も少なかった。しかし国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」は、数字としては減っているものの、依然として世界各地で ”冷酷な” 死刑がはびこっていると訴える。
 

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© Pixabay

同団体の事務総長クミ・ナイドゥは言う。

「世界レベルでは死刑執行件数は大幅に減っています。このことは、死刑廃止に消極的な国々までもが方針見直しの検討をすすめ、死刑が『正しい答え』でないと認識し始めていることを裏付けています」

「このような残虐な刑が『歴史的遺物』となるのも時間の問題だと見られています」

アフリカのブルキナファソでは2018年に死刑を全面廃止、マレーシアとガンビアでは死刑執行の「一時停止」が公式に宣言された。イランでは死刑がごく一般的な刑罰ではあるものの、執行件数は50%減少している。

(編集部注)2018年末までに、世界196ヶ国中106カ国で死刑が廃止されている。

このように死刑反対派にとっての明るいニュースがある一方で、依然、死刑は執行されている。公正な裁判を受ける権利、尊厳ならびに敬意を保障する重要性など、基本的人権の侵害は続いている。 同団体によると、2018年の世界的な死刑宣告数は2,531件で、2017年の2,591件よりわずかに減少した。全死刑執行件数の3分の1以上はイランが占めており、さらに全体の約78%はイラン、サウジアラビア、ベトナム、イラクの4カ国のみで執行されているのが実状だ(*)。

*2018年に死刑執行された人数は690人(中国を除く20カ国)で、2017年より31%減。


ベトナムと中国の事例

ベトナムでは現在600人が死刑宣告を受けている。その一人、ホー・デュイ・ハイ(当時23歳)は2008年に窃盗と殺人で有罪を宣告されたのだが、本人は、拷問にかけられて無理やり「供述書」なるものに署名させられたと無実を主張している。

(編集部注:2014年、本人の妹が立ち上げたFacebookページでこの不当な一件が拡散され、国民や人権団体のプレッシャーがかかり、死刑の前日に「執行停止」の大統領令が出された。)

2015年、ベトナム国会の法務委員会は、この事件の取り扱いにおいて刑事訴訟法の「重大な違反」があったことを認めた。

彼の母はアムネスティ・インターナショナルにこう語った。

「息子が(不当に)逮捕されてから11年、私たち家族は引き裂かれたままです。これ以上、この苦悩に耐えられません。 塀の向こうで息子が苦しんでいると思うだけで、胸が締め付けられます」
「大切な家族を連れ戻すには、国際社会の支援が必要です。それだけが私に残された唯一の望みなのです」

正確な数字は不明だが、中国も世界有数の死刑執行国であり、毎年数千人が死刑宣告を受けていると見られている。死刑が「凶悪犯罪」のみならず、国際法や国際基準に反する「非暴力犯罪」などにも適用されているのだ。

2018年6月には、中国南東部の陸豊市の当局が「大量宣判大会」を指揮、薬物関連の罪で逮捕された10名は公衆の面前で死刑を執行された。

死刑を再開する国々

世界の他の地域では、死刑を再導入する動きも見られる。中には、数十年にわたり停止していた死刑制度を再開する国々もある。

スリランカのマイトリーパーラ・シリセーナ大統領は、40年以上ぶりに死刑を再開すると発表、フィリピン同様、薬物犯罪者にも死刑を適用すると発表した(編集部注:シリセーナ大統領はフィリピンのドゥテルテ大統領の麻薬撲滅作戦を称賛、同様の麻薬対策を目指している)。さらにはスリランカ政府として、「優れた倫理感」および「高い知性と強い精神性」を有する死刑執行人の求人広告まで新聞に掲載した。

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写真:Ranmali Bandarage/IPS 
スリランカ、コロンボの「ウェリカダ刑務所」の外壁。
スリランカのマイトリーパーラ・シリセーナ大統領は40年ぶりに死刑を再開し、薬物犯罪にも死刑を適用すると発表した。


アフリカのスーダンでも死刑宣告を再開、2018年5月にはノウラ・フセインという若い女性に死刑宣告が言い渡された。彼女は16歳の時、自分の意志に反して、アブドゥルラーマン・モハメド・ハマドという男性との結婚を強要された。婚姻成立を拒むと、その男にレイプされた。男が再び彼女をレイプしようとしたとき、自分の身を守ろうとした彼女ともみ合いになり、男はナイフで刺され死亡した。

正当防衛の証拠があるにもかかわらず、女性は有罪となり、死刑宣告を言い渡されたのだ。この一件は国際的な抗議にまで発展した(編集部注:「Justice for Noura」という運動に発展、100万人以上の署名を集めた)。

フセインはアムネスティ・インターナショナルに次のように語った。

「裁判官に死刑宣告を言い渡され、呆然となりました。死刑になるほどの罪を犯したとは思っていません。こんな不当な処置がなされるなんて...女性だからなおさらなのです」
「家族からはこの件に関わりたくないと縁を切られてしまったので、一人でこのショックに向き合わねばなりませんでした。本当に辛かったです」

その後、(国際的な反発を受け)死刑宣告は取り消され、代わりに懲役5年と8,400ドル(約90万円)の罰金が課せられた。 しかし、検察官らはいまだに再審で死刑を求刑している。

死刑廃止をめぐる世界的な戦いはまだまだ終わりが見えないと、ナイドゥは言う。
「死刑廃止に向けた世界的な合意が、ゆっくりながら着実に形成されつつあります。ブルキナファソから米国まで、具体的な取り組みも始まっています。こうした前例に倣うかどうかは、その他各国に問われています」

「安全な社会に暮らしたいとは誰もが望むことですが、死刑は決してその解決策ではありません。 世界中の人々の継続的なサポートをもってすれば、死刑に完全な終止符を打つことができる、私たちはそう信じています」

By Tharanga Yakupitiyage
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo
Amnesty ・International : Death Penalty(英語)
死刑廃止 : アムネスティ日本 AMNESTY - アムネスティ・インターナショナル

参考リンク
「死刑をなくすことにより、より犯罪が増えるのでは?」「凶悪犯に、これ以上私たちの税金を使うのは賛成できない」などの死刑についてのよくある質問と回答

関連リンク

死刑囚の選ぶ「最後の食事」とは?-写真家ヘンリー・ハーグリーブスの作品から毎週死刑が執行されているアメリカの死刑制度を考える

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