家を借りることがリスクの時代:檻のない「牢獄」と化した実家(藤田 孝典)

編集部より:ビッグイシュー基金と住宅政策提案・検討委員会が実施した調査「『若者の住宅問題』-住宅政策提案書[調査編]-」を通して、低所得かつ未婚の若者たちの多くが、親の持ち家に同居している実態が明らかになりました。

調査レポートより、NPO法人「ほっとプラス」代表の藤田孝典さんの文章を転載いたします。

家を借りることがリスクの時代:檻のない「牢獄」と化した実家

今回の住宅に関する調査結果には、想定を超える衝撃があった。
それは実家を出ることが最大のリスクであるということだ。親と同居する理由で約半数を占めるのは、「家賃が負担できないから」であった。賃金や収入が低く、家賃を払いたくても払えない若者は、親に依存しなければ生きていけない状況が見えてくる。

特に、低所得であればあるほど、親と同居している。そして、所得が低く、親と同居しているほど、結婚の予定がないと回答している。若者自身が実家を出ることが賢明ではないと判断し、そこに居続けること以外に選択肢がないと考えている。家を借りられないから実家から出られない。

これは実家がある最低限の生活は保障するが、自由な生活を奪う「牢獄」として機能しているといっても言い過ぎではないと感じる。

そして、若者が結婚できない理由も少子化の原因も、不思議なことに住宅に関する質問から浮かび上がることが興味深い。低所得層に対する家賃補助制度がほとんどない日本における課題といえる。住まいはまさに人々の生活の基礎で、それが侵されると健康で文化的な生活を送ることができない状況が見えてくる。

さらに、学歴が関係ないということも新しい発見であった。一般的に、低学歴の若者は所得が低く、学歴と所得の相関関係は極めて高い。だから、人々は一般的に、可能であれば大学など高等教育を受けて、収入を得られやすい仕事に就くため、有利な条件を整えようとする。しかし、低所得で親と同居している若者にとってはあまり関係がないようだ。

大卒でも低所得であり、住居を自由に選択し、自分らしい生活をおくる選択肢が提供されていない。これは非正規雇用の拡がりによる低所得が要因だが、大学など高い学費を求める教育機関の意義を問う内容でもある。要するに若者は大卒でも貧困に至っている。これは事実である。そして、その貧困に大学ではなく、親がともに対抗し、サポートをしている。

そして、学齢期のいじめや不登校などの経験を有する人が多いということにも驚きだった。フランスでは、このいじめや不登校の問題を社会的排除という用語で説明し、その状況が続くと、貧困や低所得と密接な因果関係を有するようになるとみている。学齢期や幼少期に社会的排除を受けると、まさに自立を阻害する要因として、根深くその傷跡が人生に突き刺さることを意味している。

私が所属するNPO法人ほっとプラスには、親が子を支えきれなくなり、親子で相談に来られる事例がある。あるいは親から「出て行け」と言われて、ホームレス状態になって相談に来られる若者もいる。親のサポートがなければ、なすすべなく容易に貧困に至る若者の姿が見えてきた。今回の調査ではそれが裏付けられる結果となった意義は大きい。

同時に、低所得層の若者は、精神疾患や生活課題を抱えており、住宅について考える余裕がない。約3割の若者は、うつ病などの精神疾患を抱えていると回答している。すでに働いて生計を維持することに困難な要因を抱えており、住宅だけでなく生活全体を親が支えている。親がいなくなった後の生活を想定すると、何らかのサポートが必要となるのは明らかだ。

しかし、日本の社会福祉制度は、この現役世代あるいは稼動年齢層ともいうべき、若者に対する支援が極めて弱い。若者の貧困対策は概ねとられておらず、企業に委ねてきた。その企業が十分な賃金を払わず、身分が不安定だとしたら、ということは想定していない。

ただし、希望がないわけではない。これらの若者を含むようにして、2015年4月から生活困窮者自立支援法が施行される予定だ。この法律はこのような若者を包摂し、支援できるだろうか。

この法律をきっかけにして、さらなる社会福祉制度の充実、すなわち若者が潜在的に求める一般的な家賃補助制度の創設や低家賃の住宅創出という新たな支援策を構築することができるだろうか。実態に即した支援を展開できるように、その法律の運用を注意深く見守りたい。

(藤田 孝典)

『若者の住宅問題』-住宅政策提案書[調査編]-より)

もっと詳しく:関連サイト

2月8日には、本調査をテーマにしたシンポジウムを開催(東京)

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