あなたの愛犬がストレスを感じているように思えたら、実はそれはあなたが感じているストレスを映し出したものかもしれない。『Nature Research』に掲載された研究*によると、ペットの犬のストレスレベルは飼い主のそれと“同期”することがあるという。犬たちは飼い主の「親友」であるだけでなく、人間の精神状態を映し出す存在で、場合によっては彼らの健康に悪影響を及ぼすこともある。

*Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners (2019年6月6日掲載)
急性ストレスが人間同士、犬同士で「同期」することはこれまでにも証明されてきたが、人間と犬という異なる種のあいだで、長期的ストレスが同期するとの結果が今回の研究の成果。

飼い主と犬の毛髪中のコルチゾール値を1年間計測

スウェーデンの研究者らは、58匹の犬(シェットランド・シープドッグ33匹、ボーダー・コリー25匹)とその飼い主について調査を実施した。犬の性別・品種・活動レベルは偏らないようにした。 まずは犬と飼い主の性格を「標準性格検査表」を使って評価。犬の性格検査表*は、飼い主が記入した。

*犬の性格検査表

そして、犬と飼い主の毛髪に含まれるホルモン「コルチゾール」の値を1年間計測。コルチゾールとは生理学的ストレスを示すホルモンで、精神的苦痛が高まると値が高くなる。運動したとき、病気になったときなど、短時間でも反応する。
Image by Gordon Johnson from Pixabay
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毛髪はゆっくり伸び(1ヶ月に約1センチ)、血中を循環する物質を吸収するため、長期的なストレスレベルを測定するのに適しているのだ。

調査の結果、飼い主と犬のコルチゾール値には重要な相関関係があることが分かった。夏場は58匹中の57匹、冬場は55匹のコルチゾール値が、飼い主のそれと合致したのだ。つまり、犬のコルチゾール値が飼い主のそれに合わせて増減していたのだ(参考)。

この相関関係は、犬の「活動レベル」や「性格」よりも、「飼い主の性格」に影響されていた。飼い主のストレス値が高いと、その犬もストレス値が高くなる傾向が見て取れたのだ。

オスよりメスの方が影響を受けやすい

また、雄よりも雌犬の方が、飼い主のストレスレベルとより強い関係性があることも分かった。先行研究からも、雌犬は雄犬より感情に敏感であることが判明している(ネズミやチンパンジーについても同様)。

Image by skeeze from Pixabay
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雌犬のオキシトシン(愛情や絆に関わるホルモン)が増えると、飼い主との「密接度」が高まり、ひいては飼い主のオキシトシン値も増えることが証明されている。雄犬には、このような連鎖は見られなかった。

今回の研究においては、飼い主のストレスレベルが高まった要因までは特定していない。しかしストレス要因が何であれ、人間側の反応が愛犬に影響を及ぼすことは明らかだった。

見過ごされがちな犬のメンタルヘルス

人間と犬の強い絆については、研究者が長年議論してきた。1万5千年以上も前から築かれてきたこの関係性は、動物界の中でも特殊なものだ。

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Flickr/Tamsin Cooper, CC BY-SA 今回の研究で使われたボーダー・コリー

犬はわれわれ人間とともに進化し、それゆえに人間の感情に寄り添いながら、アイコンタクトでもって絆を育んできたことが証明されている。
今回判明した「種を超えた関係性」は、ほとんどの場合プラスに働くが(特に人間にとって)、マイナス面もないわけではない。他の多くの動物のように、MRSA感染症* やQ熱**といった寄生虫による病気を人間と犬が共有することがあるし、犬に噛まれる事故も社会的に問題視されている。

*ヒトや動物の皮膚、鼻腔、咽頭や気管に存在。高齢者など抵抗力の弱い人が感染すると、重症感染症の原因となる。
** 人獣共通感染症の一つ。感染動物の尿、糞、乳汁などから菌が排泄され、この菌に汚染された空気中の粉塵などを吸うことでヒトに感染する。日本でも毎年数十人の感染者が報告されている。


えさや犬小屋など必要なものを与えないことの酷さはよく理解されている。だが、犬たちのメンタルヘルスについては見過ごしがちだ。

愛犬の健康のためにも飼い主はストレスフリーな生活を

犬は感情豊かな生き物だ。喜び、安心、恐怖、不安...さまざまな気持ちを抱く。慢性的にストレス下にあることは、人間にとっても犬にとってもよくない。病気になるリスクが高まり、生活の質も落ちてしまう。
飼い主の状態が犬のストレスレベルに影響を与えるのなら、逆に犬たちがよりよく生きることを手助けすることもできるといえる。自身のストレス度合いを減らせば、愛犬のストレスレベルも減らせる可能性が高いのだ。

Image by FOTOKALDE from Pixabay
Image by FOTOKALDE from Pixabay 

自分のストレスを減らすことは後回し...という人も、愛犬のためなら何かしたくなるのではないだろうか。ストレスを減らす方法はいろいろあるし、「自然に親しむ」など犬と一緒にできることもある。

By Bronwyn Orr(獣医、シドニー大学博士)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

参考リンク


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