2019年4月1日、『ビッグイシューUK』(英国版)が「ペイ・フォワード(Pay It Forward: 親切を次につなぐ、の意)」という新たな取り組みを導入すると発表した。急速な成長を見せているモバイルバンキングサービス「Monzo※」を利用し、販売者たちに新たな収入の流れを生み出す狙いだ。これにより、『ビッグイシューUK』は世界初の “転売可能”な雑誌となる。
※2015年に創業した英ロンドン拠点のフィンテック系スタートアップ。モバイルアプリだけで完結するネットバンキングサービスを提供。2016年2月、クラウドファンディング「Croudcube」で96秒間に100万ポンド(約1億3千万円)調達と最速記録を樹立。従業員は約300名。ミレニアム世代に絶大な人気を誇り、今や250万人が利用。2019年6月、今後は米国でもサービスを提供していくと発表。
写真:THE BIG ISSUE
『ビッグイシューUK』はデジタルバンク「Monzo」と提携し、購入者が売り手になることで販売者の収入を増やす仕組み「Pay It Forward」を導入
この新たな仕組みは、“世界をもっと面白く”をスローガンとする大手広告代理店「FCBインフェルノ」が考案した。社会のキャッシュレス化が進む中で、ホームレスの人々が直面するであろう新たな問題(銀行口座が持てないため、キャッシュレスペイメントが使えない)に対処することを目指したものだ。
雑誌にはすべて個別のQRコードが印刷されており、これを使って読者は自分が購入した雑誌を他の人に「転売」できる。新しい購入者はそのQRコードを使って決済。すると、元々のビッグイシュー販売者に送金されるという仕組みだ。各雑誌には販売者の顔写真シールが貼付されているので、どの販売者に送金されるかもわかる。
Cannes 19 Pay It Forward Case Study FINAL high res from FCB Inferno on Vimeo.
有名人の応援も得て、20名の販売者で試験運用スタート
20人の販売者らとともに試験販売を開始した。元イングランド代表サッカー選手のゲーリー・リネカー、ミュージシャンのロジャー・ダルトリー、ニュースキャスターのアラステア・スチュワート、ミュージカル俳優など有名人たちも応援に駆けつけてくれ、実際に雑誌を購入し、別の人に「転売」するところを実践してみせた。写真:THE BIG ISSUE
雑誌の「転売」を可能にする世界初のサービス「Pay It Forward」の開始を支援する元サッカー選手のゲーリー・リネカー
写真:THE BIG ISSUE
ミュージシャンのロジャー・ダルトリー
この「転売」プロセスは、繰り返されてこそ意味がある。それによって販売者たちの収入が増えるだけでなく、コミュニティーの中で「良いことをする」循環が広がっていくからだ。
FCBインフェルノのチーフオフィサー、オーウェン・リーは言う。
「雑誌の読者に時には “販売者” になってもらうことで、今までにない大きな力が生まれ、販売者を起点とした起業家精神の連鎖が生まれ、世の中をより良いものにしていけるでしょう」
「そもそもビッグイシューは社会の役に立つための雑誌ですが、『ペイ・フォワード』によって、雑誌一冊一冊が良い影響をもたらし続けるでしょう」
「Monzo」のユーザーは、一般の銀行のように定住所がなくても、銀行口座とデビットカードを持つことができる。だからこそ、このようなサービスが可能になる。
試験販売に参加した販売者たちはすでにやる気に満ち、「転売」が繰り返されることの恩恵を受けていた。
「雑誌の直接販売に加えて追加の収入がもらえる、とても素晴らしい取り組みです」
コヴェント・ガーデン(*)のビッグイシュー販売者アーロン・ダンは言う。当プログラムの一環で、元サッカー選手のゲーリー・リネカーとも一緒に活動した。
写真:THE BIG ISSUE
販売者のアーロン・ダンと元サッカー選手のゲーリー・リネカー
「転売サイクルがどれくらい広がるのかはわかりませんが、私が販売した一冊で20人以上の手に渡ったものがありました」
*ロンドンの演劇とエンターテイメントの中心地で観光客があふれる地区。
販売者のアーロン・ダン。
世界初の雑誌「転売」を可能にするサービス「Pay It Forward」の試験販売に参加した
『ビッグイシューUK』のマーケティング・コミュニケーション部門責任者であるララ・マカラーは言う。
「ビッグイシューの購入者は単なる読者では終わらず、我々のミッションを声高に擁護してくださることも多いです。そんな方々が、友人や家族に雑誌を『転売』することで、販売者たちを『収入』ならびに『新規顧客の開拓』の両面で、これまで以上に販売者をサポートできるようになる、すばらしいサービスです」
デジタル化が進むグローバル社会に歩調を合わせようとしているストリートペーパーは『ビッグイシューUK』だけではない。米シアトルのストリートペーパー『Real Change』も、現金を使う人が非常に少ないアメリカ社会に対応すべく、送金アプリ「Venmo」を使ったモバイル決済を導入した。『ビッグイシュー・オーストラリア』も非接触型決済サービスを提供しているアプリ「Beem it」と提携し、キャッシュレス決済に踏み出している。
By Kaitlin Jock
Courtesy of INSP.ngo
Pay It Forward
https://www.bigissue.com/payitforward/
日本版でも「Pay it Forward」の実験開始!
日本版のビッグイシューでも、大阪大学経済学部松村ゼミの協力を得て、上記の「Pay it Forward」プロジェクトの実験をすることになりました。
大阪の梅田歩道橋上販売者:濱田さん、淀屋橋北詰の吉富さんは、雑誌に「Pay it Forward」プロジェクトをご案内するしおりを挟んでお渡ししております。ぜひお知り合い・ご友人などに読み終わったビッグイシューをお渡しください。
しおりの配布期間: 2019 年 11 月 1 日 (金)~ 11 月 30 日 (土)
※しおりの在庫がなくなり次第、配布終了することがあります。
決済可能期間 2019 年 11 月 1 日 (金)~ 2020 年 1 月 31 日 (金)
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上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。