ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、教育機関や各種団体などに出張して授業をさせていただくことがあります。今回訪れたのは、龍谷大学。社会学部の「社会企業論」の授業ということもあり、スタッフの吉田耕一の話に、皆さん熱心に聴き入ります。
ホームレス状態に至る多様な理由を説明する
特に、格差社会は互いの信頼を喪失させ、社会に大きなストレスを与えるという話になると、頷きながら耳を傾ける姿も見られました。
格差社会が進むと…
図書館の「路上脱出ガイド」で、ビッグイシューを知る
今回、吉田とともに講義に伺ったのはJR高槻駅前で販売するKさん。これまでの半生を語り始めます。大阪市内で生まれたKさんは、高校卒業後、理髪店で勤務。しかし長く続けた洗髪の仕事でシャンプーによる肌荒れがひどくなり、続けていくことが難しくなったそう。そこで、親族も多く関わっていてなじみのあった飲食業界に転職することにしました。
「僕が見習いのときは、鍋を黙々と洗う日々が2年ほど経つと、ある日突然『この料理を作ってみなさい』と大将に言われたものです。それでも初めは漬物くらいしかお客さんには出せませんでしたけどね」と厳しかった板前修行時代を振り返りました。
料亭でも腕を磨きましたが、母親の介護のため職を辞して帰郷。母親が亡くなった後、再就職をかけて就職活動をしましたが、かないませんでした。
半生を語るKさん
「携帯代が払えなくなって、ついには電話が止まってしまいました。手持ちの金はわずかだったのですが、それでも路上で寝る勇気はなくてネットカフェに泊まったりしていましたね。そこで助けを求めることができたらよかったんですけど、そういう状態を知り合いに言うのも恥ずかしくて。結局、3日間くらいしんどい時間を過ごしました」
そして、最後は路上で寝ることになったといいます。「路上で寝るのは、怖いというよりは、恥ずかしいと感じました―――でも、その恥ずかしさを忘れたらいけないとも思います」と語ると、会場は水を打った静けさに包まれました。
路上で夜寝ると、襲われる危険性もあるため、夜中は街中を歩きまわり、昼間安全な図書館などで休息を取っていたというKさん。その図書館に置いてあった「路上脱出ガイド」(※)でビッグイシューのことを知りました。
(※)路上生活する人が生きのびるために必要な情報を冊子にまとめたもの。「ビッグイシュー基金」が制作・発行。大阪、東京にはじまり、札幌、名古屋、京都、福岡、熊本の各地でも作られ配布されており、ウェブからのダウンロードも可能。
https://bigissue.or.jp/action/guide/
アンケートには、「人生の先輩として1つ1つの言葉に重みを感じました」
Kさんの話が終わると、実際にビッグイシューを手にとってグループで感想を語り合いました。国内外の有名人が自らの人生を語るインタビューや、社会問題を扱う特集記事など、内容の濃さに驚く声が上がっていました。1冊ずつ、気に入った号を手に取る学生たち
誌面の感想を語り合う
講義の最後には、Kさんから学生の皆さんに向けて、こんなメッセージが発せられました。 「これから社会に出たら、時々厳しいこともあると思います。“自分中心”の考え方でいると、生きていくのは大変です。自分とは考えの違う人がいるのは、この社会では普通のこと。そこを折り合っていくのがいいのかなと思います」
授業後に記入されたアンケートでは、Kさんの「恥ずかしさを忘れたくない」という一言に心揺さぶられたという感想が相次ぎました。
アンケートより
また、「板前や理髪などの厳しい業界で手に職つけて働いてきたKさんを尊敬します。今、自分に持っている力が社会に認められるか不安ですが、自分中心ではなく楽しんで社会進出したいです」や「人生の先輩として1つ1つの言葉に重みを感じました。自分中心で社会はまわらないという言葉を忘れずに、社会人になっても頑張ろうと思えました」などというものもあり、Kさんのメッセージはしっかりと学生さんたちの心に届いたようです。授業後、自分にできる行動を起こす学生たち
出張講義を企画した川中大輔先生
授業後、講義を企画した川中大輔先生にお話を伺いました。
「2006年からビッグイシューの出張授業をお願いしていますが、当時から自己責任論が吹き荒れていて、ホームレス状態にある人々への学生の眼差しも厳しいものがありました」と語る川中先生。「ですが、授業後には『いろんな理由があって、その人の今の状況がある。そういう風に考えないといけないなと思った』といった共感的理解に進む感想や、社会構造に問題意識が向けられた感想が出てきて嬉しかったですね。やはりホームレス状態を経験された人の話を直接聴くのは、とてもインパクトがあるようです」
また出張授業の後、実際にビッグイシューを買いに行く学生たちも多いということで、「少しでも自分にできる行動を起こして、社会を変えていこうとする学生の姿勢を見ると、出張授業をしていただいてよかったと思います」と語りました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
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https://www.bigissue.jp/request/
(写真と文章:八鍬加容子)
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。