差別と闘う、これはすべての人に関わってくるテーマだ。往々にして、差別とは目に見えず、どんな形であれ人間の尊厳を踏みにじる。では、いったいなぜ人は差別をしてしまうのだろう? 差別をなくすことはできるのだろうか? 

人々が惜しみなく優しさを見せ、互いを知り合い、思いやりを持つ ーー 両者のあいだに壁をつくるのではなく「橋」を架けられるなら、この世界はずいぶんと違ったものになるだろう。今ある差別にどうアクションすべきか、ポルトガルで発行されているストリートペーパー『CAIS』の記事を紹介する。


※以下は2019/11/23に公開した記事をリライトしたものです。

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「差別心は人間の本能」の嘘

社会学者のアナ・クリスティナ・サントスは、差別の基本概念を「多数派や支配的な規範と比較して、他者を区別あるいは異なる扱いをする言動」と説明する。「社会学的な観点からも、差別は人間の尊厳を侵害するもの。しかし状況によっては、誰もが差別的偏見の被害者(または加害者)になりえます」と言う。

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Courtesy of CAIS
アナ・クリスティナ・サントス(社会学者、コインブラ大学社会学センター研究員)


「ポルトガル」と聞いて、差別が問題となる国のイメージはあまりないかもしれない。だがこの国の歴史を見ても差別はさまざまな形で現れてきたし、いつの時代も人類は差別を経験してきたのではないか。であれば、差別心は「人間の本能」とも言えるのではないだろうか?

マヌエル・カルロス・シルヴァ社会学教授はこれに反論する。「それは違います。地域や階級、性別、人種、民族...さまざまな異集団において差別が存在してきた一方で、友情や協力、共存、団結が生まれたケースも数え切れないほどありますから」

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Courtesy of CAIS
マヌエル・カルロス・シルヴァ(社会学教授)


では、なぜ差別が生まれるのか。

「差別を生み出すのは『違い』ではなく『無知』と『先入観』です。例えば、ロマ民族の人々が差別されているのは、ポルトガルの社会にロマ民族は人種差別すべきという先入観があるから」とサントスは言う。

人間には、人種や民族・宗教、年齢や障害、体重・身長といった外見、ジェンダーや性的特徴、社会的要因など、さまざまな要素が複雑に絡まり合っており、どれか一つの要素がその人の全体を決めるわけではない。

「どんな差別もなくす努力をしなければなりません。まっとうな民主社会においては、差別や機会の不平等、アイデンティティや出自によって疎外されることを見過ごすわけにはいきません」と述べるのは、平等・市民権担当の元副大臣カタリナ・マルセリーノ。

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Courtesy of CAIS
カタリナ・マルセリーノ(平等・市民権担当の元副大臣)


人が差別をするのには、個人的・文化的・教育的な背景によるところも大きい。だがシルヴァ教授は「差別というものをしっかり理解・解釈するには、経済および社会構造における不公正さ、さまざまな集団が置かれている生活環境、そして社会的な不平等(集団によって福祉が打ち切りになること、集団内で限られた支援やリソースをめぐって諍いが起こること等)を明らかにしなければならない」と考える。

「寛大」なポルトガルでも高まる移民や難民への偏見

ポルトガルでは差別の種類によっても大きな違いがある、とマルセリーノは強調する。「女性差別をなくそうとする取り組みは、まだまだやるべきことは多くあるものの良い方向に進んでいますが、民族・人種差別は依然重視されていません」

この見方は、ポルトガル人が自国に抱いているイメージと矛盾するのではないだろうか?

「一般的にポルトガル人は寛大で、移民や難民を喜んで受け入れると考えられています。非常に心強い見方ですが、あいにく真実とは言えません」とシルヴァ教授は指摘する。

「実際には偏見があり、移民や難民と距離を置こうとするムードがあります。近年の難民危機を受けて、より顕著になっているように思います。ロマ民族や移民に対するこの国の融合政策は “模範的” と喧伝されていますが、それとは相容れない状況があります」

進む法整備とその限界

2017年4月、ポルトガルではLGBTI*の人たちの権利保護を強化する法案が提出され、これまで医療を受ける際におこなわれていた「心理アセスメント」が不要となった。同年8月には、身体的・精神的障害のある人々のインクルージョン(社会的包摂)を促進する法案も可決された。

*性的マイノリティの総称。Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)、Intersex(インターセックス)の頭文字。

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Courtesy of European Pressphoto Agency / Lusa News Agency


法案通過は前向きなニュースではあるものの、アムネスティ・インターナショナル・ポルトガル事務局のペドロ・ネト局長は「法律が人の生き方を決めるわけではありません。人の考え方を変えるには長い時間がかかります。行動を変えさせるには、データを集め、情報を整理し、人々の意識を高めていく必要があります」と言う。「社会階級が低いとみなされる人や移民は、住宅を得る上でも差別を受けていますから」とも指摘した。

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ペドロ・ネト(アムネスティインターナショナル・ポルトガル事務局局長)


差別がなくならない理由を、サントスは「こうした問題についてしっかり議論をせず、(問題が)隠されてしまっているから」と述べる。 「差別的言動の多くが非難もされないのは、それらが日常の一部となり、温厚と言われるこの国の文化として浸透してしまっているから。こうした状況が続くのには、教育や保健分野の行政機関にも責任があると思います。制度的な差別は、人々の差別的言動の下地となりますから」

差別をなくすために私たちにできること

最終的に問われるのは、どうすれば差別をなくすことができるのかだ。

マルセリーノ元大臣は強い口調で、決断力ある行動を取るべきと語る。「この問題に対して行動を起こすには、まず、社会的にも制度的にも差別が存在していることを認めなければなりません。ポルトガルでも人種差別や外国人ヘイトの事例は多くあり、こうしたことへの関心を高める研修や教育を提供していく必要があります」

「制度として差別をなくすことは可能です。しかし、どの社会においても、独自の社会的・文化的価値観で他者を見ますし、そこには常に自民族中心的な先入観が働き、自分たちと異なるものは恐ろしいとされます。だからこそ、知識を浸透させることが非常に重要となります」

すべての人が差別を受けることなく自由に生きられる社会を目指す ーー これは万人に関係してくる重要なテーマだ。たとえ自分が差別的行為をしていなくても、そうした行為を働いている人に声を上げることが「行動」となり、私たちの日常生活に「平等」をもたらす一翼を担うこととなるのだ。

参考:心理学者ゴードン・オルポートによる「偏見の5段階」
ある社会における偏見を評価する方法に、米国の心理学者ゴードン・オルポート(1897-1967)が提唱した尺度がある。

・第1段階:誹謗
特定の集団に対して冗談めいたかたちでさり気なく現れる偏見で、より大きな偏見への土台となる。

・第2段階:回避
少数派集団との接触を避ける。

・第3段階:差別
あからさまな偏見から、特定の集団が機会やサービスの利用を拒否される。

・第4段階:身体的攻撃

・第5段階:根滅
集団全体の根絶や排除にまで至る。(例:第二次世界大戦中のユダヤ人への対応)


By Susana Janota
Translated from Portuguese by Ali Walker
Courtesy of CAIS / INSP.ngo






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