家を爆撃され逃亡してきた若者がドイツで拘置所に入るハメに。少年犯罪と移民増加の相関関係

難民受け入れ政策で知られるドイツだが、少年犯罪においては移民の割合が異常に高いという実状があるようだ。それだけ聞くと、「移民は怖い」「移民は暴力的」と思うかもしれないが、若くして自国を離れなければならなかった彼ら一人ひとりにも果たせなかった思いや抱えるジレンマがある。ドイツ北部の都市ハノーファーで発行されているストリート誌『Asphalt』が、若者犯罪をテーマとする連載記事を掲載した。その中から、入所者へのインタビューと若者犯罪における動向を紹介する。


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ドイツ・ブレーメンにある少年拘置所「ハウス4」。 古いレンガ造りの建物に有刺鉄線が張り巡らされ、防音窓には格子がはめられている。

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写真:Benjamin Eichler

収容人数45人のこの施設には、現在35人が入所している。入所者の1人、シリア出身のアスアド(19歳)に話を聞いた。

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写真:Benjamin Eichler

ー ドイツに来た経緯を教えてください。

戦闘で家が爆撃され、母と私は負傷したんです。それで母は逃げようと決心しました。「まずはお前一人で逃げなさい」と言い、そのために何ヶ月もかけてお金を貯めてくれました。まずはシリアのアレッポから友人を頼ってレバノンに逃げ、トルコのボドルムからギリシャ行きのボートに乗り、2016年にドイツに来ました。今では母、弟、妹もこのブレーマーハーフェン(*)の街で暮らしています。兄はだいぶ遅れてやって来て、ここではなくザールラント州にいます。

*ブレーメン州の港湾都市

ー 密入国業者に払うお金ですか?

そうです。

ー いくらかかったのですか?

総額はわかりませんが、トルコの業者には「ボートスペース代」として1,700ドル(約18万円)を渡しました。

ー 自国を離れるときには、どんなことを思い描いていましたか?

シリアでは家族仲良く暮らしていました。学校に通い、職業訓練を受けるなど、前向きな人生を送っていましたから、拘留される日が来るなんて思ってもみませんでした。でも、いざこの街に来てみたら、何もやることがなく、お金も仕事もなかった。次第に悪い連中とつるむようになり、今ここに入ってるというわけです。母のアドバイスどおり、ドイツでも何かトレーニングを受けるべきでした…でも、できなかったんです。

ー どんな職業につきたいですか?

シリアにいるときから美容師に憧れています。確かな技術があって、人と関わりあいながら、女の子との話し方もうまくなるかもしれない(笑)。でもその夢も遠ざかってしまいました…。

ー 少年拘置所に入ったのはいつですか? その理由も教えてください。

4月からなので6ヶ月になります。きっかけは、あるブルガリア人と口論になったことです。薬物取引かなんかが原因でした。そしたら後日、僕がひとりでいるときに、複数のブルガリア人たちがナイフや割れた瓶を持って襲い、切りつけてきたんです。悔しくて腹が立ち…仲間と一緒に復讐してやろうと火炎瓶を投げつけました。ですから「放火罪」です。

ー お母さんは何と?

(涙声で)今は母のことが一番心配です。大丈夫だよ、と言ってくれてはいますが。

ー 拘置所に収容された日はどんな気持ちでしたか?

何と言ったらいいか…とにかく人生がめちゃめちゃになったと感じ、虚しさに襲われました。でもしばらくすると、掃除や食事の盛り付けなど簡単な仕事を割り当てられるようになりました。スタッフの人たちが僕を信頼してくれているので、頑張れています。日中は独房から自由に出入りできますが、夜間は施錠されるので、自由が奪われたようでとても悲しくなります。

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写真:Benjamin Eichler


もう薬物には手を出していません。ここでは定期的に尿検査がありますから。ここでは考える時間がたくさんあり、今では別の道を選べたんじゃないかと思っています。人生を変えたいです。どんなときでも「別のやり方」があるはず。それがわかっていませんでした。ここにいると、より良い人間 になりたいと思いますし、それには薬物は無用です。

ー ここで友達はできましたか?

真の友情と言えるものは、ここでも外の世界でもありません。本当の友人は家族だけです。

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写真:Benjamin Eichler

ー 背中のタトゥーには何か意味があるのですか?

僕の以前の名前です。シリアにいた頃は、タトゥーを入れるなんて考えもしませんでした。そんな世界とは何のつながりもありませんでしたから。初めて小さなタトゥーを入れたのはレバノンに逃げたとき。こんな大胆なのを入れたのはドイツに来てからです。

タトゥーを入れるのは、記憶を刻み込むためです。恋人との間にできた子どもが流産してしまったこと、いとこが戦死した日のこと、決していい思い出ばかりではありませんが。

ー 出所できたらシリアに戻りたいですか?

いいえ、シリアはもう過去のこと。ここドイツで新しい人生を切り開いていけたらと思っています。現在シリアで起きていることの元凶は、すべてアサド家にあると思っています。彼らは本当にひどい人たち。アサドの父親も親戚も自分たちのことしか頭にありません。

出所したら、母は僕を結婚させたがっています。母の中で決めた人がいるのです。僕はまだ会ったことすらありません。僕の家族が特に信仰心が強いとは思いませんが、結婚相手は自分で見つけたいです…。

ー 国外追放されることを恐れていますか?

はい。ドイツで僕という人間が信用してもらえるよう努めていきたいです。

少年拘置所での取り組み

ドイツ・ブレーメンの少年拘置所の責任者ゲーザ・リュールセンによると、これまでの収容者は学習する機会が与えられてこなかったので、当施設では時間割を渡し、日々の行動計画を立てることからサポートしているとのこと。時間を守り、グループで活動すること、日々の決まった作業を大切にするなど「学校で教わるのと同じようなこと」を行っている。

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写真:Benjamin Eichler

少年拘置所の入所者には、より「集中的なケア」が求められる。所内では、言語、読み書き、社会への溶け込み方、ソーシャルワーク、キャリア開発、暴力防止などの講座を提供。アート系ワークショップ、野菜栽培、豚や鶏やヤギの飼育も行っている。サッカー、バレーボール、ウェイトトレーニング用設備もある。若者たちの平均入所期間は13か月。

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写真:Benjamin Eichler

しかし存在感をアピールし、目立ちたがる者も多い。実際、成人向け施設より少年拘置所の方が騒動やケンカの発生頻度は高い。そのため、出所後は他の地域に移っていく人も多い。

ドイツの少年犯罪の現状

ドイツ全体でみると少年犯罪件数は減っているが、少数の若者が再犯を繰り返しているのが実態だ。ドイツ全体の再犯率は約75%という数字もある。彼らはどんな人たちなのか。その動機は。こうした状況を変えるには社会としてできることはあるのだろうか。

例えば、ドイツ北西部に位置するニーダーザクセン州では、現在4,900人が服役中で、うち915人が若者だ。当州の大規模自立都市ハーメルン市の少年犯罪の内訳は以下のとおり。

【ハーメルン市の少年犯罪】(出典:ニーダーザクセン州法務局)
傷害または窃盗40%
強盗 19.6%
恐喝・脅迫 / 凶器を使った強盗9%
詐欺6.4%
薬物犯罪6.4%
殺人5.7%
性犯罪5.7%
放火3.9%
その他の犯罪32%

少年院に収容される若者のうち「移民」が占める割合は不釣り合いなほどに高い。その多くは旧ユーゴスラビア、マグレブ諸国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアなど北西アフリカの国々を指す)、中近東諸国出身だ。

ドイツ全体での「暴力犯罪」は減少傾向にあったが(2007年の21,700件 → 2014年は18,000件)、その後は上昇に転じている。犯罪学のクリスチャン・ファイファー教授らが発表したチューリッヒ応用科学大学(ZHAW)の最新研究では、「統計から見ると、暴力犯罪件数が増加している主要因は 、非ドイツ系の若者による犯罪にあり、これは難民流入の増加と重なる」と述べられている。

学生アンケート調査で明らかになる移民間の「文化の違い」

この新たな動向について調査・分析が進められており、学生アンケート調査も重要な役割を果たしている。調査からは、「文化の違い」の影響が大きく、「親からの厳しいしつけ(暴力含む)」を経験した者は、移民でも民族グループによって二倍の開きがあった。

また、トルコおよび旧ユーゴスラビアの若者のあいだでは、「男らしさ」がかなり重視されている点も注目すべき。「侮辱的行為に対し暴力で応じないのは弱い男である」という項目に対して「はい」と答えたのは、ドイツの学生2.7%に対し、トルコおよび旧ユーゴスラビアの学生は約17%だった。
ファイファー教授が「社会的帰属意識」と呼ぶ、若い男性の「友情関係」に関する考え方にも興味深い特徴が見られた。「ドイツ人の友人がいる」に「はい」と回答したのは、トルコ系の学生では3人に1人(約33%)だったが、旧ソ連系の学生では2人に1人(約50%)。「ドイツという国や規範に対する感情的つながり」においても、トルコ系の若者はわずか26%の人しか帰属感を持っていなかった。

こうした研究結果を踏まえ、「移民が暴力に向かいがちなのは、社会経済的状況が劣ることや教育面で不利にあるからだけではなく、彼らが育った文化や宗教の違いにも目を向けることが重要」と研究者らは述べる。イスラム教の学生を対象とした調査では、「コーランは信仰について書かれた唯一の書物で、そこにある規則には従わなければならない」という項目にも、70%が同意を示した。さらに30%が「自分の命が危険にさらされようとも、イスラム教のために戦うことを想定できる」と回答した。

By Volker Macke
Translated from German by Louise Thomas
Courtesy of Asphalt / INSP.ngo

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