8月から10月にかけて次々に台風が日本列島を襲った。8月には3つの台風が同時に発生し、その後も9月の台風15号、10月の19号が、各地に甚大な被害をもたらした。

 19号による水害は、公害や環境汚染という二次災害を引き起こした。福島県郡山市と長野県長野市では、メッキ工場の建物が水没し、製造ラインで使用していた猛毒の青酸ソーダ(シアン化ナトリウム)が敷地外に流出。福島県田村市では、放射性物質が含まれる除染廃棄物を入れて仮置きされていた黒い土嚢(フレキシブル・コンテナバッグ)が川や仮置き場外に流された。8年前の原発事故と、今回の水害のダブルパンチの環境汚染だ。住民にとっては「たまったものではない」だろう。




 青酸ソーダが流出したのは、いずれもメッキ工場で、福島県郡山市富久山町の近接する2事業所と、長野市の1事業所。青酸ソーダは毒物劇物取締法指定毒物で、空気中の炭酸ガスや酸と反応するとシアン化水素ガスを発生させる。口から摂取すると神経系などの中毒症状が起き、致死量は約150㎎。工場では厳重な管理の下、医薬品や農薬の製造、メッキ加工や金の精錬などに使われている。
 郡山市の2工場の青酸ソーダ流出が判明したのは、10月16日から18日。近くを流れる阿武隈川の堤防を越えて水が敷地内に流れ込み、建物が水没。自治体も事業者も対応ができないほどの予想外の浸水量と浸水高だった。

 水が引いて建物に入れるようになった段階で流出が判明した。1ヵ所の工場では、水没した工場の生産ラインのメッキ層と、薬品保管庫にあった薬品ペール缶から流出。調整池の水質を検査したところ、基準値の48倍となる1ℓあたり23㎎の青酸ソーダが検出された。郡山市は周辺住民に対して、一時避難を呼び掛けた。頭痛や喉の痛みを訴える人がいたが因果関係は不明で、現在、健康被害は報告されていないという。

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台風19号で堤防を越えて水があふれた郡山市冨久山町の工場付近を流れる阿武隈川。現在は水が引いているが、河川敷には洪水の跡が残る

ハザードマップ配布間に合わず/中間貯蔵施設の状態は未公表


 近年、大規模水害が立て続けに発生していたことから、国土交通省は2016年以降、新たな「洪水浸水想定区域図」を発表。最大規模の大雨が降った際の洪水被害と浸水高について記し、最悪の事態を想定した対応を自治体に促し、一人でも犠牲者を減らすのが目的だ。これを受けて各自治体では新しいハザードマップへの改訂作業を進めていた。
 郡山市も作業中で、住民説明会を行った。来年3月までに配布を予定する中で台風19号が発生。2工場の立地地域は、13年段階の同市のハザードマップでは浸水高1~2mだったが、改訂後は5~10mと大幅に予想浸水高が高くなっていた。新しいハザードマップの十分な周知と活用に向け、産官と市民の協力が望まれる。
 除染廃棄物が入った大型土嚢が仮置き場から河川に流れたのは、福島県田村市と飯舘村。現在までに約90袋が流出し、35袋はどこに行ったのかはわからない。放射能汚染された山林は除染がされておらず、土砂崩れに伴って汚染物が下流の河川に流れ込んだ。この件について小泉進次郎環境大臣は国会で「仮置き場の総点検と解消を急ぐ」と答弁した。
 しかし、地元の「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」の和田央子さんは「除染されていない山から流れ出た放射性物質を含んだ土砂や泥は、地形や場所によって、住宅地へ流れ込んでいる。心配なのは中間貯蔵施設の状態。低地に多数の除染廃棄物土嚢が置かれている場所だが、情報が公表されていないのが気になる」と、原発事故後、放射能と隣り合わせで暮らし続けている地元の住民の不安を代弁した。
 地球温暖化、気候変動の影響で、台風のコースが日本列島寄りになる傾向が続き、台風も大型化。堤防などのインフラを容易に破壊する大規模な洪水に加え、環境汚染物質が流れ出す二次被害が発生している。こうした「災害の複合化・複合汚染化」を止める処方箋はあるのだろうか。

(写真と文 藍原寛子)


あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。

*2019年12月15日発売の『ビッグイシュー日本版』373号より「被災地から」を転載しました。
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