大阪市立大の学生が感じた「ビッグイシュー販売者への親近感」とは? ―大阪市立大学へのビッグイシュー出張講義レポート

ビッグイシュー基金では、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、教育機関や各種団体などに出張して授業をさせていただくことがあります。今回訪れたのは、4年連続となる大阪市立大学。「グローバル化と人権」の授業に、学部生約150人が集いました。


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まずは、ビッグイシューの説明から

「皆さん、ホームレスの人を街中などで見かけたことはありますか?」。ビッグイシュー基金スタッフの川上は、まずこう問いかけました。

大阪の駅前でホームレスのおじさんを見かけたことがある人、英国に行った際、年配のホームレスの方を目にしたことがある人など、何人かの学生から答えが返ってきます。

「『ビッグイシュー日本版』にも、ホームレスである販売者のライフストーリーを掲載した『今月の人』というコーナーがあります。今日は皆さんに少しそのコーナーを読んでもらって、グループで感想を語り合ってもらいたいと思います」

数分間のリーディングタイム。その後の感想から、様々な気づきがあったことが伺えます。 

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「今月の人」の感想を語り合う

「僕が読んだのは、20代の時は仕事も楽しくされていたけれど、阪神大震災や両親の病気などで、人生が思うように進まなくなった人の過程が描かれていました」

「私が読んだ号の人は、ビッグイシューの販売以外にも料理クラブの部長をしたりと、積極的な方でした。元陸上部で、今も身体を鍛えたりしてストイックな面もありました」

 感想を聞いた基金スタッフが、言葉を継ぎます。「そうですよね、『ホームレス』と一口に言っても、震災、介護離職、失職とホームレス状態に陥る理由も人によって色々ですし、性格も、積極的な人やストイックな人、真面目な人と様々なんです」

極限を生きるホームレスの人々たちも、仲間や楽しみがあるから頑張れる

その後、スタッフからは基金の活動について説明がなされました。

ホームレスの人たちは食事や睡眠も思うように取れず、体調を崩す人が多いのですが、保険証もお金もないとなると、気軽に病院に行くことができません。そのため、ビッグイシュー基金ではボランティアの医療関係者と協力して健康相談会を開催したり、NPO法人フードバンク関西と連携した食品の提供、保証人がおらず、アパート入居が難しい人たちへのステップハウス事業(※)などの暮らしを支えるプログラムなどを行っています。

これらの説明を受けて、学生の皆さんは今まで想像すらしたことのなかった「ホームレス状態であること大変さ」や、「こんな支援をする人たちがいるのかという驚き」を感じているようでした。

(※)連携団体や、一般の家主の方から提供される空き物件を基金が借り受け、ビッグイシュー販売者をはじめとするホームレス状態の人に、低廉な利用料(15000円~)で提供する事業のこと。

https://bigissue.or.jp/action/stephouse/

また、それらの支援プログラムとともに、ホームレスの人たちが参加する各種クラブ活動も紹介されました。「ホームレス状態なのに、クラブ活動?」と驚かれることも多いのですが、人が人らしく生きていくためには、衣食住が足りてから人間関係をつくっていくのではなく、衣食住と同じくらい人とのつながりは大切なもの。「仲間との接点や『楽しいな』と思えることがあれば、しんどいときにも『明日も頑張ろう』という原動力になるんです」と川上は話します。

ビッグイシューの販売者も参加するダンスユニット「新人Hソケリッサ!」も存在し、2020年3月には彼らのドキュメンタリー映画(※)が公開されることも案内すると、教室からは感心した様子が伝わってきました。

※ドキュメンタリー映画『tHe dancing Homeless ダンシングホームレス

「私はこれまでにかなりの数のホームレスの方に話を聞いてきましたが、7-8割方の人が『もう死のうかな』と思ったことがあるとおっしゃっています。『仕事もないし家族もおらんし、でも死にきれなかった』と。そういう極限を生きているのが、ホームレスの人たちなんです」

「そんな“一番困っている人”でも生きやすい社会とは、誰にとっても生きやすい社会なのではないかと思います。解決が一番難しいと言われるホームレス問題が解決できたなら、その他の社会問題を解決できる鍵が見つかるのではないか、そういう思いで僕たちは活動を続けています」

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鍵となる「ホームレス問題」

リストラ、両親他界、炊き出しを回る日々

今日講演に訪れた販売者は、梅田新道で販売する松井さん。正社員として警備会社で働いていましたが、10年ほど前にリストラに遭ってしまいました。家賃を払えなくなりましたが、両親もすでに他界。「独り身だったので、頼る人もなく、炊き出しを回っていましたが、ついに貯金もなくなってしまって……」と当時を振り返ります。

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半生を語る松井さん


現在は、ビッグイシュー基金の部活動である講談部で“玉玉亭播秀”として奮闘する松井さん。昨年の「ホームレスクリスマスパーティ」(※)で披露した講談の様子がスクリーンに映し出されると、たくさんの学生が身を乗り出して見ていました。

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(※)昨年のパーティの様子

 最後に今後の夢を聞かれた松井さんは、「アパートに入って自立すること」と答えました。「今はコンビニのものを食べることも多いので、自分でご飯を炊くなりして、自炊できるような環境がほしいです」

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「毎日を必死に生きている」ことへの親近感ーーー授業後のアンケートから

 授業後、学生さんたちからは「ホームレスの人々への印象がガラリと変わった」という声が多数寄せられました。

「毎日を必死に生きているということが、毎日奮闘している私にはとても親近感が湧きました」

「ホームレスになった原因が、自分ではなく環境などが要因となることも多く、不運が重なった結果なのかと思った」

 また、実際に行動を起こしたくなった、という方も多く、「350円で誰かが少しでもいい暮らしができるなら、ビッグイシューを買ってみてもいいかなと思った」という感想もありました。

 年の近い基金スタッフの生き方にも感化されたようで、「勉強して良い大学に入り就職することだけが生き方ではないと痛感しました。枠にとらわれず、いろんなことに挑戦したいです」という感想も。

川越道子先生は、2014年に半年ほどビッグイシュー基金でインターンをされたのをきっかけに、毎年のようにビッグイシューを招いての授業を企画してくださっています。その理由を「最近は、将来を不安に思っている学生さんも多いのですが、楽しそうに働いているビッグイシューの販売者さん、そして販売者さんたちを支えるスタッフの姿に励まされる学生も多いようです」と語ってくださいました。

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。

日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

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参考:過去の出張授業

(写真と文章:八鍬加容子)