横浜市青葉区の田園都市線あざみ野駅近くにある「NPO法人スペースナナ」では、19年2月から交流サロン「3・11カフェ」が開かれている。2011年の福島第一原発事故や東日本大震災について、避難者や被災者だけでなく、地域の人たちなど関心のある人が、お茶を飲みながら会話する場だ。




避難者・被災者、地域の人も安心して自由に話せる場

「他の人にはなかなか“話せない避難”をしてきた人が、安心して自由に話せる場がますます必要になっています」と話すのは、呼び掛け人で福島市から東京都武蔵野市に避難した岡田めぐみさんと、福島県大玉村から神奈川県相模原市に避難した鹿目久美さんだ。

 避難者を中心とした交流の場は、福島県内だけでなく、関東、関西、全国各地で自然発生的に始まったが、時間が経つにつれて縮小したり、閉鎖したりする傾向にある。「時間が経つにつれて、ますます交流の場が全国各地で必要になっている」と二人は語る。

 岡田さんは避難後、武蔵野市で避難者を中心にした交流サロン「むさしのスマイル」を60回以上開催してきた。「自分の体験を話すだけではなく、文章でも表現して、多くの人に伝えていきたい」と昨年2月、スペースナナを運営する中村泰子さん(雑誌『くらしと教育をつなぐWe』編集長)の文章講座に参加した。この中村さんとの出会いがきっかけで、岡田さん、鹿目さん、そして松本徳子さん(福島市から川崎市に避難)の鼎談がスペースナナで開催され、その様子は『We』19年8・9月号に掲載された。


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「3.11カフェ」を運営する岡田めぐみさん(右上)、鹿目久美さん(右下)、スペースナナの中村泰子さん(左上)、参加者の城田空くん

 この時、岡田さん、鹿目さんは「スペースナナの雰囲気がとても良くて。ここでもサロンが開けたら……」と考えた。そこに、中村さんや地域の人たちの参加や支援もあって、「3・11カフェ」が実現した。

誰もが同じテーブルで語り合う世代を超えた体験共有

 3・11カフェの特徴は、避難者も支援者も、関心のある市民も、同じテーブルを囲んで語り合えること。現在の福島の様子や、自分の家族・子どもたちのこと、不安に思っていることなど、それぞれが自由に話していく。参加者は話を遮ることもなくただ耳を傾ける。静かな語りの場の居心地が良い。

 岡田さんは言う。「震災からまもなく丸9年。今一番感じるのは情報の伝達の遅さと、避難者同士の横のつながりの薄さ。遠出して避難者や支援者のサロンに参加するのは、子育て中の父母にとっては大変なこと。地域に一ヵ所でも多く、交流の場が増えればいいなと思います」

 参加者の一人、いわき市から避難した高校2年生の城田空くん(震災当時、小学2年生)は3回の転校を経験した。「僕も友達も、いわき市で震災に遭った体験の記憶はあっても、その出来事に対する感情がない。神奈川に来た当時、僕は『福島に帰りたい』と言っていたということを母から聞いたけれど、自分では記憶がない」。その話を聞いて「若い人にも問題を背負わせてしまっている。若者に口をつぐませてしまっているような状況にはしたくない」と鹿目さんが言う。

 ネット社会の利点を活用して、SNSなどインターネットで情報発信もしている。「全国、全世界の人たちがつながれるのがインターネット。私たちのような、一避難者が始められるという敷居の低さ、ばらばらになった人たちや支援者がつながれる可能性がある」と準備を進めている。

 鹿目さんは「原発事故は、被害を受けた地域だけでなく、その他の地域にも影響が大きい。当事者は、福島に住んでいた人だけではありません。震災を乗り越えるために記憶をフリーズしている人もいて、その記憶の扉が開くタイミングは人それぞれ。戦争を体験した方が『70年経ってようやく話せるようになった』ということもあり、続けることが大切。自分のことが話せる、居心地の良い場にしていきたい」と話す。「語り継ぐことが原発を止めることだと思うから、私も死ぬまでの間に後悔しないよう、できることをやっていきたい」

「3.11カフェ」に関する問い合わせは「NPO法人スペースナナ」
(電話045-482-6717、http://spacenana.com)。
参加費:避難者は無料、支援者は1000円(活動協力費、飲み物付)


(写真と文 藍原寛子)


あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。


*2020年2月15日発売の『ビッグイシュー日本版』377号より「被災地から」を転載しました。
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