「あえて申し上げます。知事は福島県政の歴史に『棄民強行』の4文字を刻むのでしょうか」
4月4日、福島県内から首都圏などへの避難者や、福島県内外で避難者を支援している人25人が福島県庁を訪れ、この一文が掲載された内堀雅雄県知事宛の抗議声明を提出した。「避難の権利」を求める全国避難者の会と原発事故被害者団体連絡会(略称ひだんれん)が提出団体で、避難者の会の熊本美也子さん(福島県田村市から都内に避難)、同・事務局長の瀬戸大作さん、ひだんれんの村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県に避難)、武藤類子さんらが、県の対応の問題を指摘し、避難者への住宅支援の継続を求めた。
退去期限は告知のわずか3日後
被災者の抗議と要望にあえて廊下対応する県の担当者
避難者らがこのような厳しい内容の抗議声明を提出した理由は、福島県が都内の国家公務員宿舎に入居している避難者約100世帯のうち、転居先が決まっていない71世帯に対して、①3月末での退去(現在家を新築中、生活保護を受けている――などの理由があれば書面を4月10日までに提出)、②退去しない場合は2倍の家賃を請求する、という、厳しい選択を迫る内容の文書を3月28日付で出したからだ。退去期限は「3月末」。その期間はわずか3日だ。
この日、避難者らは事前に「知事に提出したい」と求めていたが、実際には生活拠点課、避難地域復興課などの担当者が県庁本庁舎2階の廊下で受け取ると言い張り、その場で文面を読み上げることに。筆者は20年ほど地元紙の記者をしていたが、県をはじめ、県内市町村でもこのような場面は初めてだ。全国の災害被災自治体で、被災者の住まいにかかわる深刻な要望を廊下で受け取るような対応をする自治体は他にもあるのだろうか?
避難者らが文書を読み上げるうち、メディアが続々と集まり、記者とカメラが増え、会議室へ移動しての交渉となった。
なぜ福島県は契約延長しない!?
国家公務員住宅の使用について財務省「申し出あれば応じる」
避難者の住宅問題について、今回訪れた避難者らと県は、この日を含めてこれまでに15回の話し合いの場を持ってきた。14回目の今年3月22日には、3月14日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で示されたように、71世帯が国家公務員宿舎を退去できない状態であることを確認。県が財務省と協議して、避難者を引き続き国家公務員住宅に入居できるよう「国家公務員宿舎セーフティネット契約」の更新をはかるよう避難者が要望した。
これに対して県は、「セーフティネット契約は、2年間の経過措置として行っており、継続はしない」旨を説明。避難者は「生活困窮者がさらに追い込まれる」と危機的な状況を訴えた。
4月4日の話し合いでも、避難者からは「避難者の実態調査や協議がないまま、一方的に発表された打ち切りと家賃2倍の文書は、あまりにも唐突」という意見や、「現在、国家公務員宿舎に入居している人は転居先も決まらず、障害や病気、高齢の一人暮らしなど、大変な生活を送っている人が多い。その人たちを見捨てるのか」といった切実な訴えが続いた。
しかし県側は3月に説明した内容や、出された文書の内容を繰り返すのみ。生活拠点課は4月18日、筆者の問い合わせに対して「現在回答を作成中。4月22日までには回答する」と述べるにとどまった。
村田さんは「国家公務員住宅は、福島県が財務省から2年の契約で借り受けたものだが、私たちが財務省と交渉した際に同省は、『2年間の契約以降は貸しません』とは言っていない。それどころか『福島県から申し出があれば、延長には応じます』と話している。なぜ福島県は、できることをやらないのか。さらに、なぜ誰が聞いても理不尽だと思うことを文書で通知してきたのか。一番の問題はここにある」と、避難者に寄り添わない県の対応を批判した。
避難者の住宅打ち切り問題で、両団体は4月22日にも福島県と交渉の場を持ち、25日には衆議院議員会館で緊急集会を開催したが、進展がなかったことが報告された。
(写真と文 藍原寛子)
あいはら・ひろこ 福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。 https://www.facebook.com/hirokoaihara |
*2019年5月15日発売の『ビッグイシュー日本版』359号より「被災地から」を転載しました。
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