2019年に建て替えで移転を余儀なくされたビッグイシューの東京事務所ですが、幸運にも以前より少し広い物件と出会うことができ、ちょっとしたワークショップや勉強会の会場としても使えるスペースが登場しました。
1月下旬には英語教室「翻訳コンシェルジュ」の主催で、ビッグイシュー東京事務所のスペースを使い「英語で学ぶホームレス問題」を開催。講師の松崎さんから関係する単語や熟語のレクチャーをみんなで受けた後、『ビッグイシュー日本版』の創業メンバーで、ビッグイシュー英国版とのネットワークを築いた佐野未来が登壇し、ホームレス問題やビッグイシューの事業について英語中心の講義をしました。
翻訳コンシェルジュ
https://www.honyakuconcierge.info/
※新型コロナ感染症対策のため、現在は関係者以外のワークショップ等でのスペース利用は中止しています。再開についてはホームページでご案内します。
第一部/「ホームレス」の定義の違い
ビッグイシュー発祥の地はロンドン。そこで、日本と海外の“ホームレス”の定義について紹介しました。日本の厚生労働省の定義は、河川や公園などに寝泊まりする人々としていますが、じつはホームレスの定義はイギリスではもう少し段階的になっており
①屋根のないところで寝泊まりする、いわゆる野宿者などと定義されています。イギリスではホームレス問題を住宅の問題と位置づけ、この三段階のそれぞれに向けたサポートを政策としてとっています。
②屋根はあるが自分の家ではない場所 (B&Bや保護施設、友人宅等)で寝泊まりする人。
※日本でいうとネットカフェや自立支援施設、派遣労働などで会社が借りている寮に住んでいて、雇用契約が切れたら退去をしなければならない、等。
③28日以内に家を失う可能性のある人
日本では厚生労働省が担当となり①のみを対象として「ホームレス自立支援施策」が取られています。
②③の人たちについては、そもそも数を把握する調査などが行われていないため、どのくらいの人が「隠れたホームレス状態」にいるのかわからないのが現状です。東京都が2018年に公表した、都内のインターネットカフェやサウナ等を対象にした調査結果(注1)では、利用者のうち約4000人の人たちが住居喪失者であると報告されています。そのほとんどは仕事を持つ人で、正社員という人もいました。ちなみに、同年の都内の路上生活者数は1242人と報告されています。(注2)
こういったことを見ていくと、路上にいる人が減ったのは、インターネットカフェなどが増えて、そちらで夜を過ごす人が増えただけなのかもしれません。 まずはホームレス状態にある人たちの声に耳を傾けながら、問題を可視化することで社会システムを変えていくことが重要です。また、「失業」や「健康」だけでなく、安心して休むことができる「住まい」に関するサポートを手厚くしていく必要があります。
(注1)住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査
(注2)平成30年冬期 路上生活者概数調査の結果
第二部/途切れることのない質疑応答
英語で社会課題を学びたい、という積極的な参加者が多かったため、講義の時間いっぱいまで途切れることなく質問が出てきました。「日本のビッグイシュー販売者とイギリスの販売者の違いは?」
イギリスには、販売登録者がロンドンだけで約1000人。そのうち、精神疾患や依存症の販売者もそれなりの数おり、ビッグイシューのような当事者向けの仕事以外に就くことは困難なのだそうです。ただし、イギリスでは国の支援として住居支援が手厚く、販売者の多くは支援アパートなどに入居することができているそうです。
一方で、日本の場合は、全国で登録者は120人ほど。そのなかに深刻な精神疾患のある方はおらず、お金が溜まってアパートに入居することができれば、他の仕事を探すことができる人が多いとみています。
日本でホームレス状態にある場合は、生活保護を受給しない限りは住居のサポートを受けることができないため、生活保護を受給を希望しない方は、自分たちで寝泊まりするところを探す必要があります。
※2015年4月からスタートした生活困窮者自立支援制度の中に、離職などにより住所を失った、または失う恐れがある人には「住宅確保給付金」という支援制度がありますが、要件があるため、家を失った誰もが使える制度ではありません。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
※ビッグイシュー基金では、連携団体や、一般の家主の方から提供される空き物件を基金が借り受け、ビッグイシュー販売者をはじめとするホームレス状態の人に、低廉な利用料(15000円~)で提供する事業「ステップハウス」を行っています。
「日本版とイギリス版の発行や仕入れ形態の違いは?」
イギリス版は、毎週最新号が出ており、販売者は最新号のみを販売しています。
日本版は、月に2回最新号が出ますが、お客様が最新号販売期間に必ず買えるとは限らないと考え、バックナンバーでも販売することを許可しています。
また、最近は発売初日に限り、前号と最新号を交換することができるようにしました。これにより余分な在庫を持つことを恐れず仕入れすることができるようになったと思います。
補足:最新号とバックナンバーの販売比率は、販売場所や販売者によって大きく異なります。
参考:トップクラスのビッグイシュー販売者が心がけていること/ひたすらPDCAを回し、目標に近づく努力をする
「販売者はどのくらい卒業していったのでしょうか?
販売者が突然交替になるのは、卒業しているからでしょうか」
全体でいうと、16年の間に1911人が登録しました。(2003年9月~2019年9月末)私たちは、ビッグイシューの仕組みを使って路上生活を抜け出し、住まいを確保して次のお仕事につかれることを「卒業」と呼んでいます。これまで、実際に203人が卒業しました。
販売場所からいなくなる方の中には、単に販売場所を変更したという方もいれば、十分なお金を稼ぎ、アパートを借り、仕事を見つけ「卒業」した方もいます。急に仕入れに来なくなってしまった、という人もいます。
また、生活保護を受給することにした、という方もいれば、入院したという方もいます。販売場所にいなくなる事情は人によって違います。
参考:「ビッグイシューで路上脱出できた人なんているの?」というあなたに、卒業した元・販売者の声をお届け
「販売者は雑誌の内容を把握していますか」
しっかり読み込んで自分の言葉で語ったり、ポップを作ったりすることのできる販売者もいれば、読むのが苦手な販売者もいます。売り方は人それぞれですが、読むのが苦手な販売者のために販売サポートスタッフがポップの作成などで支援しています。
参考:「日々の小さな変化の積み重ねのうえに、その人の幸せがある」と感じられる仕事。ビッグイシューの販売サポートスタッフの仕事とは?
「紙メディアは厳しいのではないですか」
他の紙メディアと同様、ビッグイシューの売上も落ちています。ただし、理由は他と少し違い、販売者が減っているというのが大きな理由です。2008年、リーマンショックがあった時、80人の販売者が登録していましたが、今は40人です。
販売者が半分になれば、売り上げは半分になります。
販売者の数が減るということは、私たちの事業の目標としては成功しています。しかし、経営としては苦しくなる。ですので、最後の1人が卒業するまで販売ができるよう、会社の仕組みを支えていただく定期購読のシステムも始めています。
https://www.bigissue.jp/buy/subscription/
※補足
販売者によっては、配達サービスも承っています。(大阪の一部のみ)
https://www.bigissue.jp/buy/delivery/
また、ビッグイシュー・オンラインなどのデジタルコンテンツの提供もしています。 (無料で記事が読めますが、翻訳などにかかる運営費のカンパを月500円からお願いしています。)
http://bigissue-online.jp/archives/onlinesupporter.html
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。