2020年8月1日、アウトドアフットウェアブランド『KEEN』の「FEEL GOOD TV on KEENSTREAM」がKEEN公式YouTubeチャンネルで放送され、ビッグイシュー日本スタッフ・佐野未来とビッグイシュー基金スタッフ・川上翔がゲスト出演した。

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12年にもわたり支援を続けてくれているKEENとビッグイシューの関係、そしてコロナ禍の影響が高まるなか、いち早く支援をしてくれたKEENの姿勢に、私たちは何を見い出せるだろうか。

KEENからビッグイシューへ 12年に渡る支援

KEEN JAPAN(以下、KEEN)がビッグイシューへの支援を開始したのは2008年のこと。きっかけは、KEEN の社員が通勤途中に段ボールハウスで寝ている男性を見て、自分たちにも何かできないかとビッグイシューへ声をかけたことだと言う。

「お声がけいただいて、でしたら靴のご支援をいただけないかとお話したのが始まりです。ホームレス状態の人は、日々の生活のために廃品回収をしたり炊き出しをまわったり、寝床を求めて長時間の移動をします。そのため、安売りの靴を買っても、1ヶ月ほどで履きつぶしてしまうことも。お話の後すぐに靴の提供をいただき、そのあとも継続していただいてます」と佐野。

ホームレスの人にとって靴は、命にかかわる大事なツールだ。品質に定評のあるKEENからの支援依頼は、まさに渡りに船。その後もオリジナルトートバッグの制作や、ビッグイシューのイベントで靴のチャリティー販売を行うなど、親密な関係が続いている。

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*KEEN ホームページ
 「足元から、心もあたたかく。BIG ISSUEの販売者さんへKEENをお届けしました。

このような支援がもたらすものは、KEENとビッグイシューの絆だけにとどまらない。この日のイベントでナビゲーターを務めたラジオパーソナリティの石川實さんとKEENのつながりを作ったのも、他ならぬビッグイシューだったと言う。

「アメリカ放浪中に、ホームレスの人と仲良くなり、1日に1回は話すような身近な存在でした。ところが、日本に帰国するとなかなかコミュニケーションがとれずさみしく思っていたところに、ビッグイシューの存在を知り買うようになって。あるとき販売者さんたちがみんなKEENさんの靴を履いていることに気付いて、なぜなんだろうって聞いてみたんです。そこでKEENさんから支援いただいていると聞き、私のラジオ番組に出てもらったり、この番組のナビゲーターを務めるご縁をいただきました」

支援が人と人とをつないでいく。石川さんはビッグイシューのファンを公言し、販売者を見かければビッグイシューを購入。ご自身のラジオで紹介していただくなど、長きに渡り支援をいただいている。

自社工場を持つ強みを活かし、世界中で15万枚のマスクを無償提供

ここでKEENが世界中でさまざまな社会貢献活動を行っていることもご紹介したい。そのきっかけとなったのがKEEN創業1年目の2004年に起きた、スマトラ島沖地震による巨大津波。このニュースを目にしたKEENメンバーたちは、当時のプロモーション予算として用意していた100万ドル(現在の日本円換算で1億5千万円ほど)をすべて社会貢献に回すことを決め、“KEEN基金”を立ち上げたのだ。スマトラ沖地震をはじめ、様々な自然災害復興支援を行っている。

その精神は今でも受け継がれ、「Consciously Created:環境負荷の低減」「Taking Action:能動的な行動」「Giving Back:社会への還元」の3つのテーマをKEENの社会貢献・環境保護活動である<KEEN EFFECT>と称し、世界をより良い場所にするための活動を続けている。

またコロナの感染拡大が世界に広がりつつあった2020年3月、KEENはグローバルキャンペーン『Together We Can Help』 を開始。その活動のひとつが、15万枚にも及ぶマスクの無償提供だ。アパレル業界では、委託工場に発注をするのが一般的だが、自社工場を世界各地に持っているのがKEENの強み。靴の製造ラインの一部をマスク工場にシフトして、マスク作りを始めたのだと言う。

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マスクの素材には、シューズの材料として調達していた生地を活用。シューズ製造を行う KEENの得意分野である立体縫製を活かした立体マスクはフィット感も高く、洗って繰り返し使用できる。このマスクの無償提供を、ビッグイシューでもいち早く受けている。

佐野はマスクの支援をこう振り返る。

「1700枚もご支援をいただいたので、販売者全員、相談に来られた方、コロナ禍の中フロントラインで支援にあたっているスタッフ、ビッグイシューの販売応援や夜回り炊き出しなどを行っている全国各地のボランティアスタッフの方々にも配ることができました。洗って使えるし、すごくかっこいいデザインなので、販売者さんもテンションがあがってましたね(笑)」

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感染を防ぐために自宅にいてくださいと言われても、その家がないホームレスの人にとって、マスクがないことによる感染の恐怖は計り知れない。また、マスクのない状態でビッグイシューを販売することは売上の低下にもつながる懸念があったため、このマスクは心身ともに支える存在となった。

「STAY HOME」できない人たちをどうサポートをするか

コロナ禍がどのような影響を及ぼしたかという質問に対して、佐野も「STAY HOME」できないホームレスの人への支援の難しさに言及した。

「感染拡大、経済危機を迎えた日本で、家がない人へどのようなサポートをすればいいのかということが、差し迫った重要なことで、今も続く課題。コロナ禍においては、新規での相談件数もかなり増えました。また、ビッグイシューの販売で言えば、緊急事態宣言後には出歩く人が大幅に減り、売上が4割ほど落ちてしまったんです」

このコロナ禍で影響を受けているのは、路上生活者だけではない。川上は、「リーマンショック後はホームレスの人の低年齢化が進みました。また、2018年に発表された調査では東京都のネットカフェ難民は4,000人にも及んでいます」と話す。ネットカフェが営業自粛となり、寝床を追われてしまった人たちは、どこへ向かったのか。このコロナ禍では、一番弱い人たちに大きな影響が及んでしまっている。

石川さんに「どんな支援制度があればいいか」と問われると、川上は「ハウジングファースト」を提唱したいと話した。

「日本ではホームレスの人を支援するとなると、どうしても施設を作るという発想になるが、大部屋で、門限があって、というような施設の環境になじめずドロップアウトしてしまう人もいます。ましてや今はそのような大部屋では、コロナの感染のリスクも高くなる。まずは適切な住まいを提供する“ハウジングファースト”は、初期費用はもちろんかかりますが、長い目で見れば税金の削減にもつながることも、アメリカやヨーロッパでの取り組みでは報告されています」

石川さんも支援の必要性に大きくうなずく。

「ホームレスの人と付き合うようになって、どこにでもいる人という印象を受けました。アンラッキーが重なってしまっただけ。ということは、いつだれがなってもおかしくないんですよね。ホームレスという人がいるのでなく、ホームレスは状態ということを忘れちゃいけないと思う」

「世の中って悪くない」そう思える支援の広がり

しかし暗い話ばかりではない。イベントの最後に、川上、佐野の二人へ活動を続けるモチベーションは何かという質問が投げかけられると、川上は「ホームレスの人の人生が変わる瞬間に立ち会えること」と言う。

「10年間ホームレス状態だった人が、アパートに入居して10年ぶりに布団に寝るときとか、あとは最初は少し暗かったり、コミュニケーションが苦手だった人が、喜怒哀楽、自分らしさを取り戻していく瞬間に立ち会えることですね。それを応援できることがモチベーションになっています」

一方の佐野は、「ビッグイシューを支えてくれる読者の方、KEENさんのような人や社会を大切にしたいと考える企業や組織の人たちに出会えること」と話す。

「そのたびにもっとがんばれるし、もっと社会を良くできる、望まずホームレス状態になってしまう方が本当にいなくなるようにできるかもと感じられるんです。このコロナ禍で売上が大きく落ち込んだ4月からビッグイシューでは3カ月限定の通信販売を行い、その売上を販売者さんへ還元するという初の試みを行ったのですが、これが9,300人もの方に購入されました。そして、販売を継続している販売者に3ヶ月の合計で15万円をお渡しすることができ、生活を支えることができました。7月からも二次の募集を開始したのですが、すでに4,200人もの方にお申し込みいただいています」


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それを聞いた石川さんも顔をほころばせた。

「ビッグイシューさんの話を聞いていると、販売者さんたちも格好いいんですけど、それを支えてる読者、周りの企業や、スタッフさんたちが本当に温かくて、いい人ばかりで、世の中悪くないって思えるんですよ」

コロナの影響が長引き、深刻な経済危機が続く今、1人でできることはほとんどないと思う人も多いかもしれない。しかしKEENの社員がたった1人声をあげたことで、結果的に多くのホームレスの人の足元を守り、ビッグイシューの販売を頑張れたり、より良い生活へとつながるチャンスをつくることになった。さらにその支援が人々にポジティブな影響を与え、広がっている。

前記の通り、KEENでは社会貢献・環境保護活動を<KEEN EFFECT>と称しているが、こんな今だからこそ、1人ひとりの思い、選択、行動が、社会を支える「効果」になるということを、改めて考えさせられたイベントだった。

KEENの新型コロナウイルスに対する支援のテーマは「Together we can help(あなたと一緒だから、できること)」。「あなた」のアクションを、待っている人がいる。

(Text:上野郁美)

▼当日の様子
 


‟家なき人”とともに。「コロナ緊急3ヵ月通信販売」
第一次のご報告・お礼と第二次参加募集について
https://www.bigissue.jp/2020/06/14325/
※第二次のお申し込み受付は8月31日までとなっています。

ナビゲーター:石川 實(いしかわ みのる)
日本大学芸術学部演劇科在学中より渡米を繰りかえし、大学卒業後、テレビドラマ・映画・舞台などに出演する。アメリカでも映画等に出演。
その後1997年ラジオDJに転身し、これまで「FM FUJI」「J-WAVE」「ZIP FM」「TOKYO FM」「InterFM」「TBSラジオ」等でレギュラー番組を持つ。 近年は番組を通じ、様々な社会貢献活動を行い、各方面から高い評価を得ている。

ビッグイシュー日本を創刊当初から応援、様々な番組で紹介してくださっている。
TBSラジオ「デイリーライフ」でビッグイシュー日本東京事務所のクリスマス会に参加した時の模様はこちら 






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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。