ビッグイシュー基金・ビッグイシュー日本では、貧困問題やホームレス問題、その活動の理解を深めるため、教育機関や各種団体を対象に出張講義を行っています。コロナ禍においては講義活動の多くをオンラインに移行。今回は、神戸女学院大学で非常勤講師を務める高橋美和子さんからのご依頼により「ボランティア論 I」の授業として、ビッグイシュー基金の川上がウェブ会議ツール「Zoom」を使って講義した様子をレポートします。
コロナ禍でもっとも影響を受けたのは「医療従事者」?
今回、神戸女学院大学で「ボランティア論 I」を担当する高橋さんがビッグイシュー基金へ講義を依頼されたのは、新型コロナウイルス感染拡大がきっかけです。講義内で学生に、「コロナ禍でもっとも影響を受けた人たちは誰か」という問いかけを行ったところ90%以上の学生たちが「医療従事者」と回答したそう。「確かに、医療従事者の方々も大きな影響を受けているのは事実です。ですが、日常生活を脅かされている非正規雇用の方、外国籍の方や難民申請者、虐待を受けている子どもや女性、そしてホームレスの方々の現状についても、学生に知ってもらいたいと思いました」と高橋さんは話しました。“ホームレス”は、状態を表す言葉に過ぎない
講義冒頭で、川上は問いかけました。「皆さんは、ホームレスの人たちについて、どんなイメージを持っていますか?」学生たちは「Zoom」のチャットツールを使用してそれぞれの意見を忌憚なく発表します。さまざまな意見がありましたが、「不衛生」「お金がない」「働く気がない」といったイメージを持つ学生が目立ちます。続いて川上は、ビッグイシュー誌の販売者に生い立ちなどを語ってもらう『ビッグイシュー日本版』の連載「販売者に会いにゆく」の記事をいくつか紹介しました。
・小6から働き貧しい家庭を支え、結婚後は月収70万。しかし借金で家を出てホームレスに
・月150時間の残業をこなして働いた工場が倒産。派遣としてマジメに働いたが更新されず…
・運送会社の取締役として、従業員の起こした事件を引責、自己破産、離婚で守るべきものを失う
「この記事にも書いている通り、ホームレスの人たち全員が働く気がなかったり怠惰だったりするわけではありません。働く気があっても会社が倒産してしまったり、病気で働けなくなってしまったり、さまざまなことが重なって路上での生活を余儀なくされているのです。」と川上は話します。
「また、日本では路上生活をしている人たちは減ったものの、ネットカフェや友達の家などで生活する『ホームレス予備軍』の数は年々増加していると言われています。」
実際に、今回のコロナウイルスの影響で日本国内でも非正規雇用者・日雇い労働者をはじめ、4万人以上が職を失ったと報道されています。また、これまでネットカフェで寝泊まりしていた人たちの中には、緊急事態宣言による営業自粛で路上生活を始めた人々も増えています。ホームレス問題は、当事者の「自己責任」の問題ではなく、いったん仕事を失うと家まで失いうる、そしてそこから這い出すことが困難という社会の「構造」の問題なのです。
シェルター、一時的な住まいといったステップがないと、家を得るのは難しい
マジメに働いていてもホームレスになってしまうリスクの高い人たちがいることや、実際にコロナ禍の影響で解雇・雇止めとなってしまった人たちのニュースなどを織り交ぜながら講義を進めます。
最後に川上がもう一度ホームレスに対するイメージを学生に聞くと「本当は働く意欲があるが、機会がない」「苦しい生活の中でも笑顔を忘れない人たち」といった意見が上がりました。学生たちがホームレスに抱いていたイメージも変わってきたようです。
ホームレスの女性はなぜいない?
今回の講義では、直接川上に質問をしたいという熱心な学生の姿も。中には「なぜホームレスの方の中に女性はいないのですか?」という女子大らしい質問もありました。「おっしゃる通り、女性で路上生活をしている方はほとんどいらっしゃいません。女性の場合、路上生活を行うことは危険を伴うということもありますが、性産業などがセーフティネットになってしまっているという状況にあるのです。しかし、見えにくい形でホームレス状態にあったり、貧困状態に陥るなど、安定した生活を送れていない女性は非常に多いと考えられています。」参考:女性のホームレスはなぜ少ない? 単身女性の貧困が考慮されていない社会デザインについて
この授業ではもともとボランティアに関心がある学生も多いため、「自分にできるサポートはどんなものがあるのか」と相談する学生もいました。
川上は「まずは一冊、ビッグイシューを読んでみてほしいです。」と答え。ビッグイシューでは、貧困問題やホームレス問題だけでなく、環境や政治、環境・エコロジー問題、自由・人権、平和、国際事情など多岐のテーマを扱っており、様々な問題について“知る”ことが大きな一歩になると川上は話しました。
家にいながらでも、SNSフォローやシェアで支援はできる
講義後の感想「働きたくても働けないのは社会のシステムの不備」
講義後のアンケートでは、「個人の問題ではない」ということ、「自分にできることをしたい」というアクションにつながる意見が見られました。Aさん「これまで、ホームレス問題の深刻さは知っていましたが、このような支援の輪が広がっていることは詳しくありませんでした。実際にビッグイシューの販売で生計を立てることができている人の例を見ると、人生を立て直そうという意思があればまた普通の暮らしに戻ることも夢ではないのだなと思いました。ビッグイシューを売っている人にまだ出会ったことはありませんが、見かけたら買ってみたいと思います。」
Bさん「講義を受けるまでは、ホームレスの人たちには怖い、働く意欲がないなどマイナスのイメージを抱いていましたが、すぐ働けないのは社会システムの不十分さにあることがわかりました。ホームレス問題は私たちの社会と深くかかわっているのだと実感させられました。」
今回の講義を企画された高橋さんは、「ビッグイシューを知らない学生がほとんどでしたが、今回の講義で興味を持ってくれたのは嬉しいです。ホームレスの人たちも自分たちと同じ社会の一員であること。そしてその人たちをサポートすることは、特別なことではなく身近なことであるということを、川上さんのお話から学べたのではないでしょうか。」
取材・文:佐原有紀
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校やそのほかの団体に向け、格差・貧困・社会的排除に関する出張講義を行っています。また、コロナウイルス過を受けて現在はオンライン講義の依頼も増加中です。オンラインで社会課題の講義をするメリットは?
対面の授業では一人ひとりの意見を吸い上げるということが難しいこともありますが、オンラインだと可視化しやすい面もあり、ビッグイシューの講義では意識してチャットでも意見を募るようにしています。学生の方々からは「オンラインの方が、移動の必要もなく、参加しやすい」「意見や質問がしやすい」という点も挙げられています。
この時期、家にこもっていると「コロナ禍の影響」や「貧困」についてリアリティを感じにくくなっています。困っている当事者に代わって支援や共感の必要性について話す機会として、ぜひご検討ください。
シリーズでの講義やワークショップ、テーマに合わせて講義内容のアレンジも可能ですので、ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
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