コロラド州下院議員として初めてトランスジェンダーを公表*したブリアンナ・ティトーネは、目下、任期1期目を務めているところだ。育ちはニュー・ヨーク州のハドソン・バレー、地質学者として世界各地を転々とした後、コロラドにやってきた。ティトーネが選出された第27選挙区は歴史的には"保守的”とされてきたエリアだが、近年はやや中道寄り。デンバーのストリート誌『デンバー・ボイス』に掲載されたティトーネのインタビュー記事を紹介する。


*米国の州議員でトランスジェンダーを公表しているのはティトーネが4人目。

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16歳から7年間、消防団ボランティアに参加したのですが、そこで地域社会のために行動することの意義を強く体感しました。大学生の頃にワールドトレードセンターが攻撃されるのをこの目で見るというトラウマ的な経験をしました。人々に少しでも不幸が起こらないようにしたい、周りの人たちの力になりたい、そんな思いを新たにしましたね。

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FBI(連邦捜査局)で働きたいと思ったのですが、当時はまだ若すぎたし経験も足りなかった。そこで理系の学位を取り、しばらくは実務経験を積むことに専念しました。その後、あらためてFBIで働きたいと思ったのですが、残念ながら、準備に時間をかけすぎて、年を取りすぎてしまった(補足:FBI採用は37歳まで)。世界の役に立ちたいなら、また別の方法を見つける必要がありました。

37歳の誕生日は私のターニングポイントになりました。自分自身を見つめ直し、気づいたのです。これまでは自分を偽っていた、そのために多くの幸せを自ら奪っていたことに。そして、トランスジェンダーであることをカミングアウトすることにしたのです。

笑いのネタにされていたトランスジェンダー。ロールモデルのいない子ども時代

子どもの頃はまだインターネットなんてありませんでしたから、トランスジェンダーについて知る機会はほぼありませんでした。テレビのトークショーやバラエティ番組で面白おかしく取り上げられるくらい。あとは、ハリウッド映画がこの手のことをずっとジョークにしていました。

どう感じ、何を望むかに関係なく、とにかく私は男性としてではなく、女性として大人になりました。子どもの頃はそれがどういうことなのか理解できず、自分にできることがあるのかどうかも分からなかった。真似るべき人も、目指すべき人もいませんでした。

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世間では、トランスジェンダーは決して"良いこと”ではありませんでした。多くの人に否定的な見方をされる生き方は自分にはとても無理、そう思っていました。人生がもっとつらいものになる、自分もジョークのネタにされてしまうと。

そこで私は「クロスドレッサー*」としてやっていくことにしました。自分をトランスジェンダーだとカテゴライズしたくなかったので、それが私ができる精一杯のことだったんです。人が自分のことをどう思うかをとにかく恐れていたのです。長い間、そうやって本当の自分を抑えてきました。社会的規範や嫌悪、偏見がそうさせたのです。今なお、トランスジェンダーの人たちはそうしたものと闘っています。

*生まれ持った体の性別とは異なる服装を着る人。異性装。

カミングアウトがもたらした人生の弾み

カミングアウトしたのは2015年です。ようやく(LGBTQ+に関する)いろんな情報が手に入るようになってきていましたし、本心を打ち明けられる人たちにも出会えました。コロラドに来て初めて知ったのですが、トランスジェンダーの支援組織もできていました。こうしたことが大きな力となって、自分という人間を理解し、受け入れられるようになっていったのです。

カミングアウトするまでは、とにかく対人関係に悩まされました。クロスドレッサーとしてですら本当の私を受け入れてくれる人には出会えず、誰にも必要とされていないと感じていました。なので、あまり多くの人と関わることもせず... 自分らしくいられたのは家にいるときだけでした。今では心から私を受け入れてくれる妻と出会えてとても幸せです。カミングアウトしたら、運命の人にも出会えたのです。去年の12月に結婚しました。

カミングアウトしてまず最初に思ったのは、私はいま、決して世間に広く受け入れられているわけではないコミュニティに属しているということ。自分にも何かできることがある、新しい仲間のために立ち上がることができる。そう思い、まずは「推進者」になろうと、LGBTQ+の支援組織「ワン・コロラド*」が推進する法案実現に協力することにしました。

*https://one-colorado.org

コロラド州議会選挙、劣勢からの巻き返し

多くの場合、自ら手を挙げるのではなく周囲に勧められて出馬するものですよね。なので私の選挙活動はスロースタートでした。私が勝てるなんて誰も思っていませんでしたし、時間やお金を投資する人も、関心を向けてくれる人もいませんでした。共和党陣営も私とは真剣に争おうとしなかった。負けるはずないと思っていたのでしょう。

とにかく自分たちのやるべきことをやりました。お宅を訪問する、または電話をかけるなどしてたくさんの人々と対話。イベント開催など、選挙を勝つためにやるべきことは全てやりましたが、対立候補はそこまでではなかったようで、まるで「うさぎとカメ」。相手は油断していたのでしょう。

選挙当日はまだ劣勢で、数百票差で負けていました。相手はすでに祝勝会を行っていましたが、まだ投じられていない票がたくさんあるはずと諦めませんでした。最後の最後まで、なるべくたくさんの有権者に投票を働きかけました。そうやって選挙の夜を終えると、相手より多くの票を得た手応えはありました。正式な選挙結果が出たのは数日後、わずか439票差での勝利でした(投票総数は約5万票)。

議員になってからは、高いハードルを設け、とにかく全力で働きました。一生懸命働く気がないなら、この仕事をする資格はないということを示したいのです。市民の皆さんが我々に期待しているのはそこなのですから。


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Brianna Titone / Photo by Giles Clasen 

アフォーダブル住宅建設の促進、賃貸事情の改善。法案通過に尽力

私が提出した「低所得者用住宅税額控除」は、とても意義のある法案です。この法案によって新しい税額控除が導入されるため、アフォーダブル住宅(低価格住宅)を建てることが促進されます。普通、建築業者たちはあまり利益にならない低価格住宅を建設したがりませんからね。これによって、コロラド州全体の住宅費を下げていきたいと思っています。

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昨年は「賃貸申し込み費用」に関する法案も提出しました。これまでは大家が賃貸申し込み費用として200ドルもの金額を請求するケースがありました。住宅の需要が高まっているのをいいことに、大家は部屋を貸すことなく申し込み費用だけで相当の利益を得られたのです。この法案によって申し込み費用に上限が設けられるので、借りる側にとってもより公平なプロセスとなるでしょう。

公務員たちの団体交渉権を保証する法案も共同で提出しました。労働者にとっては団体交渉権があること、必要な時に支援してくれる組合があることは、とてもメリットの大きいもの。コロラド州の全労働者が、我々の経済の土台ですからね。労働者とその家族を守り、だれもが搾取されていないことを保証していきたいです。

トランスジェンダーの代弁者として「パニック・ディフェンス法案」に尽力

代弁者の存在は本当に重要です。さまざまな攻撃にさらされているトランスジェンダー社会では特にそうです。そして指導者たちの中に、人とは違う経験を持つ多様な人々がいることは必ず利点となります。LGBTQ+に関することを政府がどう法整備していくかが、コミュニティのあり方を決めていきます。トランスジェンダーである私の視点は、政府のアプローチを決定するのに役立つはずです。それによって、市民の皆さんの見方も変わり、LGBTの人たちとの関わり方に影響していきますからね。

「ゲイ/トランスジェンダー・パニック・ディフェンス法案」に尽力してきました。これは、裁判において被告人が暴力行為に及んだのは被害者の性的指向・性自認のせいだと主張することを防ぐものです。でも、新型コロナウイルスによる閉会期間を経て委員会に戻ってみると「廃案」にされており、ショックでした。この法案は費用だって一切かからないし、通過させない理由なんて何もないのに...。委員会メンバーにコンタクトを取り、「市民たちの声をちゃんと聞いてきたの?」と訴えました。

ちょうどジョージ・フロイドの事件が起き、「Black Lives Matter」を掲げた抗議活動が始まってすぐの頃でした。トランスジェンダーの中でも特に立場が弱い黒人女性を守ることがどれだけ大切かを考えさせられました。そこで、上院議長や下院院内総務に手紙を書き、法案を再検討できないか問いました。この法案は市民への力強いメッセージにもなりますから、どうしても再検討してほしかったのです。その後、上院で審議されることとなり、あっというまに通過。結果、反対票は1票だけでした。

コロラド州は「パニックディフェンス」を禁止する11番目の州となり、LGBTQ+の人々を尊重しているという姿勢が示されることになりました。LGBTQ+を理由とした暴力は容認しない。これ以上、ゲイやトランスジェンダーの人々に暴力を振るった者たちが罪を許されることはありません。

次の選挙が迫っています(11月3日)。前回私に投票してくれた多くの方々、そして私にこの仕事が務まるはずがないと思っていた人たちも、この2年間の働きぶりを見て、支持に回ってくれると期待しています。

By Giles Clasen Courtesy of Denver VOICE / INSP.ngo

ブリアンナ・ティトーネ公式サイト
https://www.briannaforco.com



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