今や世界で毎年800万トンのプラスチックごみが海へ流れ出ている。この問題の解決を目指した「G7海洋プラスチック憲章」が20186月に提唱されるも、日本と米国は署名せず。英国や台湾、EUではプラ製品の一部アイテムを禁止する方針が決定している。世界で動きが高まる中、オーストラリアでは一人ひとりの意識が変わりつつある。

 

  

※この記事は2018年8月に発売の『ビッグイシュー日本版』340号(SOLD OUT)からの転載です。

中国、資源ごみ処理で環境汚染 ついに廃棄物輸入をストップ

 夜明け前、ピンク色に染まった空にはまだ暗い部分も残っている。忙しい朝がやってくる前の静けさを突き破る音がする。ガシャガシャと、トラックにごみを載せ、車が走り去る。今日は資源ごみの日だ。私は枕を顔の上に乗せ、再び眠りについた。出勤する頃には、路上のごみ箱はすべて空っぽになっていた。自分が出したごみがどこへ行くのか真剣に考えたことはなかったが、今朝は道路に立って、道路脇に置かれた自分のごみ箱をじっと見た―。

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資源ごみがどのように処理されているかを把握している人はほとんどいないだろう。オーストラリア、日本を含めた多くの先進国で、実際の資源ごみの処理工程はこうだ。ごみ収集車によって資源ごみが回収拠点に持ち込まれると、人の手や機械で古紙・プラ・ダンボールなどに分別される。そして、救い出された資源ごみは購買事業者のもとへと出荷される(※1)。

※1 日本の場合、リサイクル事業者に資源ごみが引き渡されるまで自治体などが保管する。しかし、保管場所が遠方だったりなどで保管・管理コストに悩まされている自治体もあるという。(参考『ルポ にっぽんのごみ』杉本裕明)

紙とダンボールの大半、プラの一部は国内で処理されるが、処理しきれなかったペットボトルやプラスチックごみなどはコンテナ船に積み上げられ、その多くが中国に輸出されてきた(※2)。

※2 たとえばペットボトルは、中国系事業者の方が買い取り価格が高いために、中国への輸出を積極的に進める自治体や事業者もあった。また、日本の事業者の買い取り基準に見合わない質の悪いものでも、中国の事業者であれば買い取ってくれるケースも多々あったという。(前掲書)

これらを資材として使いたい中国のリサイクル工場が買い取り、国内のみならず世界中の人たちが購入する商品を製造してきたのだ。 しかし、その中国が2017年6月に「ナショナルソード(国門利剣)」政策を発令し、自国のごみを中国に追いやっていた世界中の国々を震撼させた(※3)。

※3 日本から中国へのプラスチックごみの輸出量(香港経由含む)は約100万トンだった(17年。財務省貿易統計より)。中国の同政策の後、日本のプラスチックごみはベトナムや台湾、マレーシア、タイなどへ輸出が増えた。

諸外国から輸入していた廃棄物に厳しい制約を課し、事実上、この慣例を止めようとしているのだ。

その背景には、国民の健康被害に対する憂慮と、環境意識への高まりがある。中国にはリサイクル技術や環境への意識が低い工場がまだまだ存在し、リサイクル過程で生じた汚染物質(残渣)が適切に処理されず海へ流されたり、輸出されてきたごみが分別されていなかったり汚れていたりなどで、資材として適さなければ不法投棄されることもあった。その結果、中国は海洋ごみの出所ワースト一位として名指しされてきた。

歯磨き粉からレジ袋まで 海洋動物を苦しめるプラごみ 世界で「Plastic Free July」

世界で毎年約4億5千万トンが製造されているプラスチック。「現在、世界のプラ製造業は化石燃料の8%を使用しており、これは世界の航空業と同等レベルです。プラ包装だけで莫大な燃料を使っているのです。しかも、その95%は一度しか使わずに捨てられるものです」とオーストラリア廃棄物管理協会の代表ゲイル・スローンは話す。「これ以上、化石燃料を使い続けることはできません」

世界のプラごみのうち、リサイクルされるのはたった9%、そして79%は埋め立てられるか投棄されている(※4)。

※4 15年。国連環境計画(UNEP)の資料による。

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ミャンマーの河岸。東南アジア諸国へのプラごみの輸出も急増している 
©The Ocean Cleanup 


毎年800万トン以上が海へ流出しているといわれ(※5)、歯磨き粉などに含まれるプラスチック性の成分(マイクロビーズ)や、破れたり壊れたプラスチックの破片(※6)、弁当容器やレジ袋、ペットボトル、発泡スチロールなどがあふれている。多くは埋め立て地からの流出、洪水による河川への流入など陸地から来ており、漁網などの廃棄や海への不法投棄なども多いといわれる。さらに、蓄積された海洋ごみは、海洋動物を悲惨な状況に追いやっている。小さい破片は鋭いことも多く、エサと間違えて食べてしまうし、大きなものであれば身体に巻き付いて一生取れなくなってしまう動物もいるのだ。

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ハワイのレイサン島にて、プラごみを口にするモンクアザラシ
©The Ocean Cleanup / Matthew 


※5 15年に米『サイエンス』誌に発表された推定値。
※6 マイクロビーズや5ミリ以下の破片などは「マイクロプラスチック」と呼ばれ、近年の海洋ごみの主要問題となっている。日本では2018年6月に、企業などに対しこれを製品に使用することを抑制する努力義務を定めた法改正を行ったが、「規制」にまでは至っていない。本誌201号でも掲載。


そんな中、オーストラリアでは自分の買い物を一歩引いて客観的に見つめ直す人が増えている。今や159ヵ国に広まっているムーブメント「Plastic Free July」も、11年に同国から始まった。「7月は使い捨てプラスチックをできるだけ買わず、断り、使わないよう意識する月にしよう、まずは1ヵ月から始めてみよう」との思いでレベッカ・プリンスルイズが始めたこの運動は、ウェブサイトから誰でも参加表明できる。参加者は「パックに入った食べものを買わない」「ストローや使い捨てコップを断る」など具体的なアクションを宣言し、誰でもダウンロードできるポスターやSNSなどで広めていく。ウェブサイトではプラスチックを使わない時の代替案や、一つひとつの行動が海・埋立地・地球温暖化にどれほど影響をもたらすことができるかを知ることもできる。

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Chauvin 「Plastic Free July」のプリンスルイズ(左)と、ステファン・ドーソン環境大臣(17年)

2017年には約200万人が参加した。「私たちの目的は、個人やコミュニティ、企業などの背中を後押しすることです。一人ひとりの日々の選択が積もり積もれば、大きな変化になるのです」とプリンスルイズは語る。スローンもこれに同意し、「後世に『負の遺産』をつくり出したくないと考える人が増えているのです」と話した。

家のごみ箱は小さなボウル一つ
プラスチックは一切買わない

徹底してごみを出さない生活を送る女性もいる。アシャー・ボーエン・サンダースは、すべてのごみを一つのごみ箱に集める生活を一年続け、今では「ごみを出さない生活」を送っている。そんな彼女に「ごみを減らすコツ」を聞いてみた。

「最初こそ挑戦でしたが、うまくやれる方法を一度見つけてしまえば、もう元の生活には戻れないほどです。我が家では小さなボウルがごみ箱代わりで、中に入っているのは洋服についているタグやアップル社のステッカーくらいです」

「自分なりのやり方で、最初は食べ物から取り掛かりました。使い捨てのフタが付いたヨーグルトなどは全部なくしましたね。次に、米でも油でも小分けの使い切りタイプではなく、20回分くらい入った大きい袋で買うことにしました。使い捨てプラスチックは一切買わず、容器として必要な瓶はチャリティショップで買ってリユースしています。うちでは、パンもアーモンドミルクも自家製ですよ」

そして次第に、スーパーでは新品のものを買わなくなったという。 「つまり、ごみは新しくものを買うから発生するのだと気づいたんです。生活で必要なものが出てきたら、中古か廃棄されたものから探し出す、もしくは自分で作るか、すでにあるものを再利用するか。そうやって切り詰めていくと、買わなければならないものがいかに少ないか―。キッチン用品でも美容グッズでも、いかに必要と思い込まされてきたものが多かったのかに気づきました」

最後まで手放しにくかったものは「便利さ」という概念だったという。

「当然、これまでより用意周到になる必要があります。何か準備ができていなかった時は、単に買わないようにするのです。エコタンブラーを忘れてコーヒーが飲めなかったからって、死ぬわけじゃありません。それが教訓となり、準備する習慣はすぐに身に付いていきます」

「そして、『何かをあきらめる』と考えるのではなく『意志力を持つ』と考えてください。自分の行動によってどれほどプラスのインパクトを与えられるかに気づくのです。ごみにまつわる事実を知り、何が問題かがわかれば、こうやって暮らしたいと思える情熱を持ち続けられると思います」

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ハワイ諸島北西部で、海洋ごみに囲まれる鳥©The Ocean Cleanup / Matthew Chauvin 


(Katherine Smyrk, The Big Issue Australia / www.INSP.ngo / 編集部)


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