雑誌販売以外の仕事づくりと同時に、フードロスを減らすビッグイシューの新事業が10月16日の国連世界食糧計画(WFP)「世界食料デー」と連携してスタートした。


 東京・神楽坂駅近く、暗くなった通りに小さな明かりがともる。午後7時半、「夜のパン屋さん」の開店だ。本屋さんの軒先で木・金・土曜の夜だけ開店する「夜のパン屋さん」は、お試し期間を経て、10月16日の国連WFP「世界食料デー」にグランドオープン。この日は、都内8つのパン屋さんの個性あふれるパンが並んだ。

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 お揃いの帽子にデニムシャツというお洒落なユニフォームでパンを売るスタッフは、普段は「ビッグイシュー」販売者でもある。パンの説明をする姿もさまになっているが、「雑誌を売るのとは勝手が違いますね」と笑う。


 この事業が始まったきっかけは、ある篤志家からビッグイシューへの「課題解決のために持続可能な使い方をしてほしい」という寄付だった。料理研究家の枝元なほみさん(ビッグイシュー基金共同代表でもある)を中心に昨年から準備を進めてきたが、コロナ禍で生活に困窮する人が増える一方、路上での雑誌売り上げは減っており、新しい仕事づくりへのニーズが高まるなかでのスタートとなった。


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枝元なほみさん


 パン屋さんでは、その日に焼いたパンが売れ残ってしまうことがある。そうしたパンを複数の店舗から買い取って、閉店後の夜だけ販売するのが「夜のパン屋さん」の仕組みだ。


「パンを一から作るのは大変だけど、この形なら販売者さんとも一緒にできる。店頭でパンを売るだけでなく、雑誌の販売場所近くにあるパン屋さんにパンを引き取りに行くことも〝小商い〟(小さな収入源)になります。さらに、大切に作られたパンを売りきる・食べきることにもつながる(食品ロス削減)。買う人はいろいろなパンが楽しめるし、売る人にもパン屋さんにとっても、いい仕組みになれば」と枝元さん。


 当初は移動販売車を検討していたが、神楽坂で人気の本屋&カフェ「かもめブックス」が趣旨に賛同して軒先を提供してくれることになった。試しに数日オープンしたところ、行列ができるほどお客さんが訪れ、すぐに完売。ビッグイシューを知る人もいれば、通りがかりに「おいしそうなパンがある」と買っていく人など、さまざまだ。


 その日どのくらいのパンが残るかわからないため、日によって扱う店舗やパンの数は違う。今後の課題は、協力してくれるパン屋さんを増やすことだ。この取り組みを始める時に、枝元さん自らパン屋さんを回ったが「打率3割くらい」だったという。「最初は、海のものとも山のものともわからないから仕方ないです(笑)。今、協力してくれているのは、どこも素敵なパン屋さんばかり。大切なパンをお預かりする責任を感じながらやっています」


 メディアで取り組みを知り、協力したいと連絡をくれるパン屋さんも少しずつ増えている。「食べ物が介在すると、その場にやさしい空気が生まれる。パン屋さんって世代を問わずに誰でも来やすいところ。今後、生活に困った女性が立ち寄って相談できるような場にもできるかもしれない」と枝元さんは言う。


 新しい仕事づくりを目指すと同時に、フードロスを減らし、食を通じたつながりを生み出すチャレンジをぜひ温かく応援してほしい。

(中村未絵)
 Photos:浅野カズヤ

※この記事は2020年11月15日発売の『ビッグイシュー日本版』395号からの転載です。


夜のパン屋さん
※緊急事態宣言を受けて休業していましたが、2021年3月4日より週3回(木・金・土)、時短(19-21時・(売り切れ次第終了)営業をしています。
(3月末までは17時の時点で雨予報の場合は営業中止)
場所:かもめブックス軒先 (東京都新宿区矢来町123第一矢来ビル1階)

※開店情報は「夜のパン屋さん」のSNSなどでご確認ください 。
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