今、古着市場がすごい勢いで伸びている。古着市場に関する最新の報告書*1によると、米国の古着市場は一般のアパレル市場の21倍のスピードで拡大し、市場規模は今後10年で金額ベースで3倍以上拡大すると予測されている(2019年の280億米ドル → 2029年には800億米ドルへ)。





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古着の倉庫 - フェニックス(アリゾナ州)Matt York/AP


 2000年代初めからファストファッション(H&MやZaraなどのブランドが有名)が台頭。衣料品を大量生産し、流通を加速化させ、低価格を売りに消費者に過度ともいえる購入を促すビジネスモデルで、アパレル業界を大きく変容させてきた。今後10年でさらに20%の成長が見込まれているが、古着市場はこのファストファッションの約2倍の規模にまで成長するとも予測されており、ファストファッションの勢力を削ぐ可能性もあるというのだ。

オクラホマ州立大学で「衣服の消費および持続可能性」を研究しているハイジュン・パクとコゼット・M・ジョイナー・マルティネスは、古着のトレンドが市場に変革をもたらし、アパレル業界が地球環境に及ぼしている影響を軽減できる可能性もあると見ている。

*1 参照:2020 RESALE REPORT (Thredup)

古着のイメージ向上。再販プラットフォームで気軽に売買

古着市場は、「リサイクルショップ(thrift stores)」と「再販プラットフォーム」の大きく2つのカテゴリーから成り、最近のブームを後押ししているのは主に後者だ。

かつては古着というと、着古されてクタクタになったもので、古着を着る人たちは格安品や掘り出し物を探すのが趣味の人たちに限られていた。しかしここに来て、こうした意識が変わり、古着の品質も新品に引けを取らないと考える消費者が増えているのだ*2。特に若者の間では、古着を購入して再販する「ファッションフリッピング*3」の流れも起きている。消費者の需要の高まりと、簡単に普段着の売買ができるオンラインプラットフォーム(TradesyやPoshmarkなど)の登場が追い風となって、デジタル再販市場が急速にブームとなっているのだ。

*2 参照:Consumer orientations of second-hand clothing shoppers(2019)
*3 参照:Here's Exactly How to Sell Your Clothes Online and Make Hella $$$

中古の高級品を売買する市場も規模を拡大させている。The RealReal やThe Vestiaire Collectiveといったサイトでは、高級ブランドの鑑定済み中古品を売買でき、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメス等の商品が価格を落として購入できる。2019年、このセクターの市場価値は20億ドルに達した。 古着の人気を支えているのが「価格の手頃さ」だが、コロナ禍の今は特にそうだろう。消費者は衣類購入の優先順位を下げがちで、またどうせ買うなら安価で使い捨て同然のものより、長く使える質の良いものを重視する傾向が強まっているのだ。「縮小する経済」と「持続可能性への関心の高まり」が、再販業者のビジネス成功をもたらしている。

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NASDAQへの自社の新規株式公開を祝う高級委託品のオンライン市場The RealRealのCEO、ジュリー・ウェインライト(2019年6月28日) Mark Lennihan/AP

待ったなしの環境ダメージに消費者としてできることとは

アパレル業界には社会問題や環境問題がつきもの。工場労働者への劣悪な待遇から、生産の過程で生じる汚染や廃棄物問題まで、その内容はさまざまだ。

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インドネシア・ジャワ島のバンドン郊外、チタルム川の支流に流れ込む繊維工場からの廃水 2018年 Ed Wray/Stringer via Getty Images News

新しい衣服を作るのにリサイクル素材が使われている割合は1%未満で、これはファッション業界にとって年間5,000億ドルの損失にあたるとの試算もある*4。また繊維業界は、航空業界と海運業界を足したものを上回る炭素を排出しており、地球上の水質汚染の約20%は繊維製品の製造と仕上げ加工の工程から出る廃水によるものだ*5。

*4 現在、繊維業界のシステムはほぼ一方向。大量の非再利資源を使って服を作り、その大半が短期間しか着用されず、そのほとんどが焼却処理かごみ埋め立て地行きとなっている。サプライチェーン上で大量の資源がムダに使われていることを金額換算した数字。
参照:A New Textiles Economy: Redesigning Fashion’s Future
*5 参照:Putting the brakes on fast fashion


衣服生産がもたらす環境問題への意識も高まる中、企業にサステナブル(持続可能性)への取り組みを求める声も強まっている。古着の購入は、ファストファッションへの抗議手段にもなりうる。古着を買う人が増えれば、一着あたりの所有者数が増え、ファストファッションの隆盛で劇的に縮んだ服の寿命も延びる。(世界的に、一着の衣服が捨てられるまでの平均着用回数はこの15年で36%減少している)。

中古市場で取引される高品質の衣類は、安価なファストファッション製品とは異なり、長期的に価値が維持されるので、より環境に優しいということになる*6 。

*6 しかし、中古市場は実際には安価な衣服にアクセスしやすくなり過剰消費を助長している、と主張する評論家もいる。参照:Is Resale Actually Good for the Planet?

オンラインプラットフォームを日常的に利用している若いアメリカ人女性を対象にインタビューした筆者らの研究結果*7 によると、彼女らは安価なアイテムと普段は買えない高級アイテムの両方にアクセスする手段として古着を位置づけていることがはっきり示された。

*7 参照:Online Clothing Resale: A Practice Theory Approach to Evaluate Sustainable Consumption Gains

人々が古着を買うのは、必ずしもファストファッションの代わりになる、ファストファッション依存を軽減するためと考えているわけではない。しかし、衣服のリサイクル量を増やしていくことはアパレル業界の新常態に向けた大きな一歩である。持続可能性というこの業界が抱える大きな課題への実際の効果について、今後の行方に注目していきたい。

著者
Hyejune Park
Assistant Professor of Fashion Merchandising, Oklahoma State University

Cosette Marie Joyner Martinez
Associate Professor of Fashion Merchandising, Oklahoma State University

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年11月17日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
The Conversation

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