*1 現代において、事実上の奴隷状態となっている労働環境を是正する法律。
参照:オーストラリア版現代奴隷法(2018年)について
調査には100名以上が参加、うち22名にはZoom経由でインタビューを実施した(2020年7〜8月)。すると、アパレル業界が直面している問題についてはよく知っているが、実際に商品を手にしたときに、本当にエシカルなのかサステナブルなのか判断するのが難しいという声が多々聞かれた。
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また、国際協力団体オックスファムが発表した調査でも、オーストラリアの大手アパレルブランドが、労働者(とりわけ女性)を不平等な立場や貧困に陥らせるような非人道的なビジネスを行っていることが明らかとなっている。
現代は「奴隷制」を許さない
2018年に「現代奴隷法」を採択したオーストラリアは、奴隷的行為の報告を義務化した世界でも数少ない国の一つだ。この法律により、大企業は自社の事業を支えるサプライチェーンにおいて奴隷的行為に該当する事象を報告する義務がある。これにより、服がどこでどのように作られたかが消費者にわかりやすくなるはずだが、実際はどうなのか。
自分の手にした服がどこで、どのように、どんな人によって作られたかを読み取ろうとしたが分からなかった、と調査協力者の多くが語った。
オーストラリアの現代労働法はインドネシアの裁縫師含め、世界的なアパレル業界の労働者をカバーする。
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「すごく迷います。ユニクロはベーシックなアイテムが揃っていて、リネンなど上質な素材も使ってますが、エシカルやサステナブルに対する企業努力はどれほどなのでしょう……」
“意識の高い消費”がしたいなら、認定・認証制度の理解が必要となる。エシカルな買い物についての情報をアップデートし、購入する商品の製作に関わった労働者がきちんと生活していけるだけの賃金を受け取れているのか、労働組合は存在するのかなどを知っておく必要がある。しかし、そうした情報を集めて判断するには、時間も労力もリソースも足りないという意見が聞かれた。
見せかけのエシカルを警戒する消費者
調査協力者の多くが、企業のサステナブルやエシカルを謳った商品にかなり懐疑的だった。古着やビンテージファッションの人気再燃も後押しとなって、エシカルかどうか定かではない新品を買うのはやめてしまった消費者もいるようだ。
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そんな中で、パタゴニアなど環境対策において先行しているブランドや、生産者と消費者を直接つなぐ小規模ブランドが大きな信頼を集めている。インタビュー調査でも、豪のローカルブランド(Arnsdorfなど)やオンラインサイト(Well Made Clothesなど)を大手企業より信頼しているという意見が聞かれた。
大手小売店もエシカルやサステナブル商品を展開している。David JonesのMindfully Madeコレクション、IconicのConsidered Edit、KmartとBetter Cotton Initiativeとの提携などがその例だ。
現代奴隷法について認識している人は調査協力者の中にはほぼおらず、多くの人が“現代の奴隷的環境”は海外で起きていること、オーストラリア国内の労働者には関係ないと思い込んでいた。しかしこの法律は、国外・国内どちらものビジネスにおける奴隷的な環境を報告することを義務づけるものだ。
エシカルな消費をしたい人におすすめの情報源
• Ethical Clothing Australia
オーストラリアで生産されるアパレル商品にエシカル認証を実施している「エシカル・クロージング・オーストラリア」
•Baptist World Aid Fashion Report
アパレルブランドの新型コロナウイルス対策のレポート(英語)がダウンロード可
• オックスファム発表の「優良企業と要注意企業リスト」
従業員(多くは女性)に生活水準を満たす賃金を提供できているかについて、大手ブランドと製造工場のランキングを発表。
*日本でもなじみのあるブランドでは、優良企業にH&Mグループ、要注意企業にZARAの名前が上がっている。(強引な価格交渉、不正確な注文予測、短い製造期間、納品直前の注文変更といった悪しき購買慣習が災いし、労働環境を悪化させていることが示されている。)
ときに物欲は倫理観を上回る
消費者は“意識の高い消費”の難しさを認識し、時には倫理観に目をつぶって買い物をすると自覚していることが今回の調査でも明らかとなった。倫理観を“一時停止”してしまうのは、情報が多すぎて選びきれない場合、急ぎの場合、商品に一目惚れした場合などだ。
また、自分の服を買うときはエシカルやサステナブルも指標になるが、子どもや家族の服を選ぶときはそこまでこだわれていないという正直な意見も多かった。
世界のアパレル業界が本気で倫理度を向上させていくつもりがあるなら、そこに貢献したいと考えている消費者にとって何が壁になっているのかををしっかり把握することが重要だ。商品を作る側が守るべき認証や認定の数をやみくもに増やすだけでなく、すでにある認証などの意味を消費者に知ってもらうことに労力をかけた方が良い結果を生む、というのが今回の調査を終えた筆者らの率直な感想だ。
著者
Harriette Richards
Honorary (Fellow) Cultural Studies, University of Melbourne
Natalya Lusty
Professor of Cultural Studies, University of Melbourne
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年11月25日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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